悪魔【ベトナム】

 その日、小学生のDちゃんは友達と遊んでいた。

 夕方になり、そろそろ帰ろうかと話していたら、可愛らしい女の子が少し離れた場所から声をかけてきた。


「ねぇ、こっちで遊ぼうよ」

 知らない女の子だった。歳は二人と同じくらいに見えた。Dちゃんはもちろん断るつもりだったのだが、友達は女の子が手招く方へと駆け出していた。


「待って、そっちはだめ! そっちは」


 Dちゃんの言葉を掻き消すように、ドーン! と激しい爆発音がして、粉塵が舞い上がった。Dちゃんはその場にうずくまり、両膝をぎゅっと抱え込んだ。



 待って、そっちはだめ。そっちは地雷原だから――


 数分後、ゆっくり立ち上がったDちゃんが見たのは変わり果てた友達の姿だった。

 しかし、友達の隣にいたはずの女の子がいない。あんなに近くにいたのだから、きっと彼女も無事ではないだろう。

 爆発音を聞き付けて集まって来た大人に事情を説明すると、付近を探してくれることになった。だが、どんなに探しても彼女は見つからなかった。背格好や顔の特徴など覚えている事を全て話したが、大人達は「そんな子供は見たことがない」と首をかしげるだけだった。


 地雷原の近くの集落では大人は子供にこう言い聞かせるそうだ。

「あそこには悪魔がいるから近づいちゃいけないよ」

 これは、単に子供を危険から遠ざけるための嘘だろうか。


 もしかしたら悪魔は可愛い女の子の姿をしているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る