侵入開始
ガラガラガラ……
暗闇の中で門の開く音がしました。止まっていた車が走り出します。車が中に入ってしまうと門は再び閉じられました。電太君が言った通り、この車は遠くに見えていた建物に向かう車だったのです。雷太郎君と電太君はついにその敷地内に入り込んだのです。
「遠くからじゃ分からなかったが、ここにある建物は一つじゃないようだな」
やがて車は一番大きな建物の入口に近づくとそこで止まりました。車のドアが開いて人間が降りて行きます。
「さて、これからどうするよ、太郎」
電太君は渋い顔をして雷太郎君に尋ねました。雷太郎君は敷地の中をぐるりと見回しました。いくつかの高く大きな建物が明るい照明の中に浮かび上がっています。電線は一つも見えません。おそらく地下に埋めてあるのでしょう。
雷太郎君は考え込みました。この車も用が済めばまた門をくぐって外へ出て行くはずです。ぐずぐずしている暇はありません。
「とにかく電線を探し出して、建物の中へ入り込むことが先決だと思うよ」
「電線? だけどよ、送電線なんかに入り込んだって、また外に送り出されてしまうだけじゃねえか。だからって送電線の中を遡るのはどうやったって不可能だし。太郎、おまえどうかしちまったんじゃないのか」
電太君は顔をしかめています。雷太郎君は大きく首を振りました。
「違うよ、その電線じゃないんだ。ボクはここへ来る間ずっと考えていたんだ。きっとこの施設でもたくさんのベータ族が働いているはずだって。全ての建物に灯っているたくさんの照明。それらはベータ族の力によって作り出されたもの。だったら施設の様々な場所へベータ族を送り出すための電線があるはずだよ。それを探し出して中に入り込むんだよ。そしてその先で働いているベータ族の仕事を止めてしまえば、きっとこの施設は大騒ぎになるよ。だって照明は消えて真っ暗になっちゃうだろうし、ベータ族が働きかけている仕掛けだって動かなくなるでしょ。そしたら騒ぎに乗じてベータ族を呼び出す大本の仕掛けを壊しちゃえばいいんだ。どうかな、ボクの考え」
ずっと黙って聞いていた電太君は、雷太郎君が言い終わるやいなや、その背中をばしりと叩きました。
「えらい。さすがだぜ太郎。俺はおまえを見直したよ。よくそんな考えを思いついたもんだ。おまえはもう一人前の雷だ。オレが認める」
電太君にほめられて雷太郎君は頭をかきました。
「いやあ、そんな」
「で、その電線はどうやって探すんだい」
「そう、実はそれが問題なんだ」
雷太郎君はまた頭をかきました。実はそこまでは考えていなかったのです。いつまでも頭をかいている雷太郎君を見て電太君は呆れてしまいました。
「なんでえ、せっかくの妙案も尻切れトンボか。ま、しかしそれもしょうがねえと言えばしょうがねえか」
電太君は車の屋根に立ち上がって敷地内を見回しました。忍び込めそうな場所は全く見当たりません。ここに来る途中で立ち寄った変電所や三郎君と一緒に働いていた建物は、外部に電線を引き込む箇所がありました。しかしこの施設は自らがベータ族を作り出しているので、そんなものは必要ないのです。
「電太君、戻って来たよ」
雷太郎君が電太君の背中を叩いて指さしました。人間がこちらに近づいてきます。
「ちっ、まずいな、この車を出発させる気か。こりゃぐずぐずしていられねえや」
しかし、その人間は車には乗り込みませんでした。その代わりに後ろのドアを開けると、中から何かの容器を引きずり出しました。同時に建物の別の場所にある扉が開きました。どうやら中へ運び入れるつもりのようです。電太君は車から引きずり出した容器を見てにやりと笑いました。
「おい、太郎、見ろ。あれは使えるぞ。車と同じ金属だ。あれならオレたちは楽に帯電できる。とりあえずあの容器に飛び移って建物の中に入ろうぜ」
「あれに……」
雷太郎君は尻込みしました。電太君が指さすものからはなにやら妙な気配が感じられたからです。
「なにぐずってんだよ。今はそれしか方法がねえだろ。あれを建物の中へ運び込んじまったら、この車はきっと施設を出て行っちまう。そうなったら元の木阿弥だ、また入り直さなくちゃならねえ。さあ、行こうぜ、太郎」
電太君はそう言うと、屋根を蹴って車の外に出された金属製の容器に飛び移りました。雷太郎君はまだ躊躇していましたが、確かに電太君の言う通りそれ以外に手立てはありません。雷太郎君は意を決すると勢いよく車の屋根を蹴って飛び移りました。
「な。なんて事ないだろ。さあて、では建物の中に運んでもらおうか」
電太君はご機嫌な声で言いましたが、雷太郎君の妙な気分は一層強くなっていました。これはいったい何だろう。どうしてこんな気分になるんだろう。雷太郎君は早く電線を見つけ出して、この容器からさっさと離れたいと思いました。
しばらくして建物の中からも何人か出てきました。大事そうに容器を持ち上げると建物の中へ運び込みます。建物の中はまっすぐに廊下が続いて、その端にある台車に容器は乗せられました。そしてすぐに入り口の扉が閉められました。たくさんいた人間は一人を残してどこかへ行ってしまい、その人間が台車を押して廊下を歩き始めました。
「へへ、うまく行ったぜ。あとは電線に入り込むだけだな、太郎」
「うん」
雷太郎君は表面にへばり付きながら、廊下をきょろきょろ見回しました。飛び移れそうな所がどこかにないかと探しているのです。しかし見つかりません。電太君も頭を動かして探し回っています。
「いつまでもここに帯電していられるわけじゃねえしな。早く見つけねえと……」
二人の焦りを乗せたまま台車は廊下を進んでいきます。
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