配属先

 明るくなったのは出口です。雷太郎君と三郎君はそこを通って箱の外に出ました。箱からはまた細い電線が延びて建物の中に入っています。二人はその電線を伝って建物の中に入りました。また箱があります。二人はその箱の中に入りました。


「ここは分電盤です。そして私たちの働き場所でもあります。ええっと今は電動機と、電熱器、電球も使っていますね」


 三郎君はさっそく働き始めました。雷太郎君はなんだか変な気配を感じていました。ついさっきまで誰かがここで働いていたような気がするのです。雷太郎君は箱の中を見回しました。自分たち二人の他は誰もいません。


「気のせいかな」


 そうしている間も三郎君は忙しく立ち回っています。箱の中にはたくさんの端子が付いていて、三郎君はそれらの間を行ったり来たりしています。


 雷太郎君はしばらくぼんやりと三郎君が働くのを見ていましたが、こうして何もせずにいるのも三郎君に悪い気がしてきて恐る恐る話しかけました。


「あ、あの三郎君。ボクにも何かできることないかな」

「ん、ああ、別にありません。そこで休んでいてください」

「で、でも……」


 雷太郎君は困りました。一所懸命働く者の横でこうして何もせずにいるのは本当に辛いことなのです。と言って、何をどうすれば良いのかも分かりません。雷太郎君の困り顔に三郎君もようやく気づいたようです。仕事の手を止めて指示を出しました。


「それでは、そこの電球をやってもらいましょうか。簡単だからすぐできると思いますよ」

「うん。やってみるよ」


 雷太郎君は喜んで三郎君の側に近寄りました。三郎君は他の仕事をしながら雷太郎君に電球の仕事の要領を教えてあげました。


「この端子の先には光を出す仕掛けがあります。私たちが力を送ると温度が上がり光を発するのです。太郎さん、端子を握って少し力を送ってみてください」

 三郎君の言われた通りにすると、暗くなりかけていた電球の輝きが強くなりました。

「ほ、本当だ!」


 自分にも人間の仕掛けが動かせた、それは雷太郎君にとって大変な感動でした。そしてこんな簡単な仕掛けで、空の星のように輝く光ができていたことがとても不思議でした。雷太郎君は喜んでどんどん力を送りました。光はますます強くなっていきます。


「ああ、駄目です。そんなに温めては」


 三郎君に言われて雷太郎君は端子から手を離しました。光が弱くなります。


「あまり温めすぎるとその仕掛けは壊れてしまうのです。そんなにいつも働き掛けないで、光が弱くなったかなと思ったら、少し、それも時々温めてやるくらいでいいのです」


 三郎君の言葉に雷太郎君は舌を出しました。


「やっぱりそう簡単にはいかないね」

「いえ、初めてにしては立派なものですよ。夜になればもっと明るい光を出す仕掛けもありますからね。太郎さんたちが雲から見ていた光は大体その仕掛けによるものです。この光では弱すぎますからね」


 三郎君が忙しそうに働きながら言いました。雷太郎君はこの光が雲の上から見ていた光とは違うものだと知って少しがっかりしましたが、それでも仕掛けを動かすのが面白くて、しばらくはそれに熱中しました。


「だいぶ要領が掴めてきたぞ」


 最初はぎごちなかった雷太郎君でしたが、仕事に慣れると余裕も出てきます。やがてお日様がてっぺんに昇らないうちに、楽々と仕事をこなせるようになりました。ちらりと横を見ると三郎君が働いています。雷太郎君は三郎君の手助けができる自分をとても誇らしく感じていました。


「あれ」


 突然、自分が受け持っていた仕掛けの光が消えてしまいました。雷太郎君は慌てて力を送ろうとしましたが、端子に働き掛けることができません。


「ど、どうしよう。ボク、何かへまをしたのかなあ」


 自分の力ではどうにもならないと分かると、急いで三郎君に知らせました。三郎君は雷太郎君の働いていた端子を一目見るなり、笑いながら言いました。


「ああ、それは太郎さんのせいじゃありません。人間がスイッチを切ったのです」

「スイッチ?」

「そう。つまり、人間がもうその電球を光らせなくていいと言ったのです。そうなれば端子から力を送ることはできません。その仕事をする必要はないのですからね」

「ふうん」


 雷太郎君は不満でした。こんなに一所懸命に働いているのに人間の方が一方的に切ってしまうなんて、あまりにも自分勝手な振る舞いです。雷太郎君の不満げな顔を見て三郎君が苦笑しながら言いました。


「それじゃあ太郎さん、今度はこっちの仕事を手伝ってください。ちょうど今スイッチが入ったところです」


 三郎君はまるで気にしていない様子です。釈然としない雷太郎君でしたが、これ以上三郎君に文句を言っても仕方ありません。しぶしぶその仕事に取り掛かりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る