退屈な二人
光太さんがこの雲に来てから数日が経ちました。雷太郎君も雷次郎君も一日中好きなことをして毎日を過ごしていました。なんと言っても厳しい修業がないのです。二人とも最初の数日はとても伸び伸びと日を送っていました。
けれどもこのところ、どうも気分が優れないのです。光太さんが来た日以来、稲光先生とも光太さんとも一度も会っていないからです。
いったい地上から来るという雷はどうなっているのだろう……普段はあまり物事を深く考えない二人でも、さすがに気になってきました。しかしそれを訊きたくても訊く相手がどこにいるのか分からないのです。
雷太郎君も雷次郎君も何とか稲光先生と光太さんを見つけ出そうと、雲中を走り回った日もありました。しかしどんなに探しても二人の姿は見つからなかったのです。今ではもう二人とも遊ぶのにも飽きて、毎日雲の上でごろごろして過ごすようになりました。
雷太郎君は雲の上に寝っ転がってぼんやりと空を眺めていました。今日も青空の中には雲がいくつか出ています。その中に光太さんの雲が、今ではもう点のように遠くに見えます。この雷雲はだいぶ下まで降りてきているようですが、光太さんの雲の位置から推測して、ただ単に下に降りただけでなく、横の方にもかなり動いているようです。雷太郎君の横では雷次郎君も仰向けになって空を眺めています。
「退屈だね、兄ちゃん」
雷次郎君がぼんやりした声でつぶやきました。雷太郎君はそれには答えずうつ伏せになると、呪文を唱えて雲に穴を開けました。しかし雲の下に見えるのは灰色の雨雲だけです。地上は見えません。
「何か見える? 兄ちゃん」
雷太郎君はそれには答えずに首を振ると、穴を消してまた仰向けになりました。お日様は雲に隠れています。
「雷、いつ来るんだろうな」
今度は雷太郎君がつぶやきました。雷太郎君自身、こんなことを考えてもどうしようもないのは分かっているのです。自分たちの力でどうにかできることではないのですから。そうは分かっていても、やはり考えずにはいられなかったのでした。雷太郎君はふっとため息をつきました。
「下がっている」
突然、雷次郎君が言いました。それと同時に周囲には霧のようなものが出てきました。
「兄ちゃん、この雲、下がり始めたよ」
周囲に出てきた霧は下にある雨雲でした。二人のいる雷雲が雨雲の中に入り込んでいるのです。霧はどんどん濃くなっていきます。雨雲の下まで降りては上に昇り、上に昇ってはまた雨雲の下に出る、ここ二、三日はこんなことがずっと続いているのです。
「また雨雲の下に出るみたいだね」
立ち込めていた霧が徐々に薄くなってきました。そして霧がなくなると氷の粒が降ってきました。雨雲を突き抜けて下に出てしまったようです。
雷太郎君はすぐに腹ばいになると雲に穴を開けました。穴からは地上の様子が良く見えます。だいぶ下に降りて来ているだけあって、細かい所まではっきりと見えます。地上には雨が降っています。
「ボクにも見せてよ」
隣の雷次郎君も穴をのぞき込みました。しかしすぐに穴の下に霧のようなものが出てきました。雨雲です。今度は逆に雷雲が上昇を始めたのです。雨雲の下にいる時間はいつもとても短いのでした。
やがて霧は晴れ、雷雲は再び雨雲の上に出ました。雷太郎君は穴を消すとまた仰向けに寝転びました。
「先生も光太さんも、どこで何をしているんだろうね」
雷次郎君がつぶやきました。雷太郎君は何も言わずに目を閉じました。瞼の裏には光太さんが来た時に見えた不思議な光景が浮かんできます。目で見ずに見る……どういう意味なんだろう。目で見たんじゃないのなら、いったい何で見たんだろう。どうやって感じられたんだろう。それに光に向かって流れて行ったあの風のようなものは……雷太郎君はそんなことを考えている内に深い眠りに落ちていきました。
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