第三十四話『対人訓練の意味』

「いやぁ、ニコ、強いね!」

と僕は笑って言った。


ふふ、そうでしょ!

とニコは満面の笑みで笑っていた。


「でも、まぁ、タカシも、悪く無いわよ・・・?」

と、少し体をひねって、髪をいじりながら、僕とは目を合わせず言うニコ。少し顔も赤いような気がする。照れているのだろうか?もしかして・・・ほめてくれてる・・・?


「ニコちゃん!素直に、すごいっていいなよ!」

と、ヒカルが笑っている。

やっぱりそうだったらしい。

なかなか難しい表現だった。


「う、うるさい!!こんなところで、満足してもらっちゃ困るんだからね」

「ニコちゃんわかりやすいなぁ」

と、ヒカルがにこにこと笑う。


「タカシくん!ニコがスジが良いってさ!」

と、ヒカルが通訳してくれた。

やっぱり、ほめてくれていたらしい。

うれしいけど、複雑だ。


「一回も当てられてないけどね・・・」

と、複雑な理由を呟いた。


「それは、いきなり当てられたら、私達も困っちゃう」

とヒカルが笑う。彼女達はずっとこのレベルの訓練を繰り返しているのだろう。1日2日やった程度の僕に追いつくのは確かに難しいはずだ。


「それもそうか・・・」

武術は一朝一夕では身につかない。


そういうことだろう。

だからこそ、身に付けると己を助ける。

とても意味があることだ。


「さて、もうちょっとやりますか!」

とニコが言う。


「お願いします!!」

と、お辞儀をしてから、斬りかかった。


そして、訓練は続いた。


全くニコに当たらない自分の太刀筋を見てあることに気がつく。

これは、対人訓練だけしていてはダメなんだ。

ということだ。


対人訓練は上級者向けだ。

確かに楽しいから、モチベーションがあがって苦じゃないのだけど、根本の太刀筋の精度は『あがらない』!!


だから、精度をあげる訓練は、自分でやらなければいけない。

ということがよく分かった。

そのことに気がつくのがこの『対人訓練の意味』の一つだろう。


「いろいろ、学びがあるなぁ」

と、僕は言う。彼女たちはそのことを、身を持って教えてくれているのだろう。

自分で気がつかないと意味が無い。

いやいややっていたままでは上達しないのだ!


「なら良かったわ!」

とニコが微笑んでいる。


「よし、今日はそろそろ終わりにしましょうかね〜」

とヒカルが言う。


「明日は私との訓練だよ〜!ゆっくり休むように!」

とメガネをキラーンと上げて言うヒカル。


そう彼女が一番スパルタ、という気がしている。

あの笑顔のメガネの奥にある厳しさに僕は気づき始めていた。


そして、部屋に帰り、ぐっすり寝た。

今回もかなり疲れていたが、身支度をしてから寝ることができるほどには、慣れてきた。


そして、起きて、皆でご飯を食べて、グランドを十周した。

これが日常になりつつある。

そして、最初の頃ほど、辛くなくなってきた。


もちろん楽ではないが。


「さ、特訓を始めるよ〜!」

とヒカルが笑った。

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