奇談その四十八 クズ男
あるところに想像を絶するクズ男がいました。
タバコの吸殻はどこでもポイ捨て。注意した年配の男性を殴り、意識不明の重体にしました。
妻帯者であるにも関わらず、多くの女性と不倫関係になり、妊娠すると、
「中絶しろ」
まるで汚物でも見るような目で言い放ちました。
更に酒癖も悪く、ところ構わず排尿し、嘔吐もしました。
そのせいで出入り禁止になった飲食店がたくさんあるのですが、逆恨みをした挙句、放火をして店舗を焼失させただけではなく、店主と従業員を焼死させました。
しかし、男は逮捕されませんでした。
何故ならその男はすでに死んでいるからです。
被害者の会は国会に法改正を訴えました。
「死者も罰せられるようにして欲しい」
しかし、彼らの訴えも虚しく法改正はされませんでした。
被害者の会は次に訴訟を起こしました。死者を罰する法律がないのは行政の怠慢であると。
ところが、裁判所はこの訴えを却下しました。死者を罰する事は法制度になじまないというのが理由でした。
万策尽きた被害者の会は絶望し、次々に会を去っていく人がいました。
当初は何十人もいた会でしたが、最終的には三人にまで減りました。
「もう限界だ。これ以上活動を続けても、何も得るものがない」
一人が言いました。
「そうだな。もう諦めよう」
もう一人が言いました。最後の一人は黙ったままです。
「失礼します」
二人が去り、とうとう一人になってしまいました。
その時、最後の一人がある事に思い至りました。
「死んでいる人間は裁けない。ならば、その死んでいる人間を殺しても罪にはならない」
まさにコロンブスの卵だと思いました。
彼はクズ男を殺すためにクズ男が住んでいる家に行きました。
家に入ると、クズ男は自分の部屋のベッドで眠っていました。
被害者の会の最後の一人はクズ男の脳天に五寸釘を叩き込みました。
「痛えな、このヤロウ!」
しかし、クズ男はすでに死んでいるので死ぬ事はなく襲いかかってきました。
被害者の会の人はクズ男を振り払って逃げました。
数日後、彼は警察に殺人未遂容疑で逮捕されました。
「不条理だ! 何故死んでいる人間を裁けないんだ!」
彼は激しく抵抗し、警官に射殺されました。
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