奇談その二十三 怪談 加湿器
智子は会社の仕事にも張り合いが出てきた。
就職が遠方になったため、昨年の春から一人暮らしを始めた。
仕事に余裕が出てくると生活の中で足りないものが見えてきた。
(加湿器が欲しい)
暖房はファンヒーターなので部屋の空気が乾燥しがちになると同僚に言われ、思い立った。
「こちらがお薦めですよ」
量販店の店員に言われるままに購入を決め、配達の日を指定して帰宅した。
値段も手頃で大きさも丁度いいサイズだったので、智子は大満足だった。
数日後、指定日と指定時間通りに加湿器が届いた。
受け取りのハンコを用意していなかったので慌てて取りに行き、柱の角に足の小指をぶつけてしまい、配達の男性に笑われてしまった。
説明書がないと家電を使えない智子は、何度も確認しながら設置し、水をタンクに入れて作動させ、その日は部屋に潤いを感じながら就寝した。
どれ程経ったろうか? 智子は何かの気配で目を覚まし、視界に入ったものに息を呑んだ。
全身ずぶ濡れの長い髪の女が恨めしそうにこちらを見ているのだ。
(何? 誰? どこから入ったの?)
智子はパニックになり、慌てて起き上がろうとしたが、首から上は動くのに身体が全く動かない。
(金縛り?)
智子は女性がこの世の者ではないと悟り、それと同時に気を失った。
次の日、会社で一番仲が良い女子にその話をしたが、
「何かと見間違ったんでしょ」
そう言って取り合ってもらえない。智子もそうかもしれないと思い、夢だと片付ける事にした。
しかし、その日の夜も女性の霊が出た。次の日もその次の日も。
誰にも信じてもらえない智子は身心共に疲れ果てた。
そして更に次の夜、また女性の霊が出たが、何故か彼女は悲しそうに智子を見ていて、しばらくすると消えてしまった。
(どういう事?)
智子が考え込んでいると、玄関のドアロックが開く音が聞こえた。
(何?)
ドアが静かに開かれ、何者かが部屋に入ってくるのが見えた。
「騒ぐなよ、お嬢さん。でないと前の女のように川に沈む事になるぞ」
そう言って智子に伸し掛かったのは加湿器を配達してくれた男だった。
(あの霊が毎日現れたのはそういう事だったの……)
極限状況の中で何故か笑いがこみ上げてきた。
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