CHING!

風麗音

零話

 サァサァ音を立て降りつける雨。厚い雲に閉ざされた空には、普段日を浴び感じるカミサマの視線もなく、この世界が…この瞬間が全ての軸から外れ隔離されたようにすら感じる。今をカミサマが見ていないのならきっと許されると、淡い色すら帯びない希望を胸の奥に投げ入れた。


 青い髪をひとつに束ねた少年は手馴れた手つきで手の内に灯る蒼い炎を掲げ、目の前に転がる引き攣れた肉塊を焼いた。あっという間にそれは骨すら残さず焼き尽くす。

 見詰める少年の顔には、物言わぬむくろを焼く炎の色と同じく、その温度を感じさせない。


 無表情でただ、死が無にすり替えられる瞬間をじっと見下ろしていた。


 「何してはります」


 「…ヴレスか」


 青髪の少年は後ろを振り返る。背後にはいつの間にか、若葉色の着物を身につけ長い白髪をゆったりと纏めた少年が立っていた。下駄を鳴らし狐のような細い目を薄いレンズから覗かせ、胡散臭い笑みを浮かべる。その表情はどこか楽しそうだ。


 「ヒート、終わったんなら帰りませんと。いくら存在を隠されてると言えど姿は当然一般人に見えますよ」


 ヒートと呼ばれた蒼い炎を瞳に宿す少年は1度躯のあった方に目をやった後、鋭い眼光を眼鏡で隠す少年…ヴレスの居る方角へ歩き、そのまま抜き去った。

 小さい後ろ姿を見やり、先程ヒートが見詰めていた場所へ目をやると、細い目をまた殊更細める。


 「弔いですやろか。そないなことしたって貴方、本職やて言うてましたのに…」


 本当におかしそうに笑って、同じ方向に去っていく。ぺしゃんこの薄い両袖が風に大きくはためいた。

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