愛してるよ。ツンデレ眼鏡
すーたん
第1話
「あんた、今日という今日は学校掃除して行きなさいよね!?」
放課後の教室、昼下がりの日光が眠気を誘う中、甲高い女の声がする。いつもならこの時間には寝てしまい、俺の体質上ずっと寝ているので、諦めてくれるのだが、今日に限って六限、体育だ。
「あぁ、わかったよ。先、ゴミ捨てておいてくれ。」
「そ、そうね。今回は寝てないみたいだし、先にゴミ捨てしてくるわ。」
若干、早く掃除を押し付けたいのか、不服な表情が、長い前髪からその姿を覗かせる。渋々と言った足取りで、彼女は歩き出す。
「ん、ちょっと待ってくれ。眼鏡なんかしてたか?」
いつもの長い前髪のせいで、隠れていた眼鏡に気づくことが出来なかった。どうやら、メガネをかけ始めたらしい。
声をかけた途端、うちの高校のスカートが舞い上がるほどの俊敏な動きでこちらに振り向いてくる。
「あ、あんたがメガネがいいって言ったんでしょ。目が悪いって私のことを気にかけてくれたし……アンタもメガネかけてるから、お揃い、なのかな……。」
そういえば、そんなこともあった。目が悪くてドライアイだったこいつに、眼鏡をかけてみないか。と、眼鏡を貸したところ物凄い興奮して、また今度買う。と、言っていた。しかし、買うのが随分と遅かったな……。
「結構買うのに時間がかかったな。もう二週間くらい経ってるような気がするし、なんかあったん?」
「あ、あんた。ここ一週間掃除サボってたせいで、私がずっと残ってたの知らないの!?」
うるさい。甲高い声でこうも叫ばれると耳が痛くなる。確実に怒りに燃え上がっているコイツは、顔を赤くしており、もう手が付けられない。ここは……
「す、すまんすまん。後で話は聞くから、ゴミ捨て行ってきてくれ!時間もないし。」
すると、周りの視線に気がついたのか、当たりを見渡すと、軽く赤面し、そのままゴミ箱を持って、外に出ようとした。
今がチャンスだ。カバンを持って反対側のドアから教室を出る。
「あ、あんた!逃げんじゃないわよ!?」
気がついたアイツは追いかけてくる。服を靡かせ、スカート姿のままで……
「おま、スカートで来るんじゃねぇよ!?」
「残念だったわね。これで終わりよ!」
すると、学校の階段から顔を出し、こちらにアイツはゴミ箱を投げつけてきた。ホコリが舞い散り、中にはイタズラで捨てられたパンや鉛筆などが、俺目掛けて降ってくる。
「な、ばか!」
着地とともに撒き散らされたゴミは階段を覆い尽くし、俺に被さる。制服がホコリで白く濁り、その衝撃音で辺りがざわめき始める。
「いっつつ、流石にこれは……」
「あ、あんたが悪いんだから!掃除サボって逃げようとしたのがダメなんだからね!」
有り得ない。そんな横暴が通ってたまるか。確かにサボったが、ゴミ箱を投げるのはいけない。これは、怒ってもいい。そう思い、俺は階段を上がり、彼女に近づく。
「おま、ふざけんじゃ……」
すると、それに覆いかぶさるように
「テメェら!これはどういう事だ。」
先生の怒号が、学校中を響かせた。片手に持った箒を振り上げ、近づいてくる。見るからに怒っており、近くの生徒が事情を説明したのか、明らかにこちら二人を睨みつけてきている。
「すみません! コイツが掃除をサボろうとしてたので、つい……」
慌てた様子で、彼女は弁明を始める。
「そうなのか。だとしてもゴミ箱を投げるのはいかん。二人とも後片付けをしておくように。」
先生は呆れた表情で、振り上げられていた箒をこちらに差し出す。そして、指を指し、ゴミの掃除をするように促してきた。
「先生、すみません。」
「もういいよ。後で職員室に来るように。」
呆れた表情のまま先生は、階段を離れていく。先生の背が曲がり角を曲がり終えた頃、漸く当たりにいつもの騒がしさが戻り始める。
「掃除、するわよ。」
こめかみを引くつかせ、いつもの前髪をかきあげ、隠れている目を見せつけるかのように睨みつけてきた。それはまさに、怒りに燃えた表情で、彼女は、それに耐えるように話しかけてきた。
「あぁ……」
何も、言えなかった。コイツがこんなに怒った姿を見たことがなかったからだ。いつものなんだかんだで許してくれる優しさは感じなかった。
そんな気まづい空気の中、掃除を進める。散らばったのが、でかい物ばかりで、多少手間取った。多少は小さいため誤魔化せる埃の類は、完全に服に付いてしまっていて、クリーニングに出すしかないか。と、内心思わざる負えないほどだった。
「背中、出しなさいよ。埃払ったげる。そのままじゃ電車乗りにくいでしょ」
漸く掃除が終わり、荷物を持ち、帰ろうとした頃、彼女は遂に言葉を発した。
それから無言のまま背後に周り、背中を軽く擦り始める。今思えば、掃除をしなくてはならない理由は俺にあるのだ。謝らなくちゃいけない。そんな気持ちが俺の中で湧き上がりる。
「ごめんな……俺のせいで、こんなことさせちまって」
俺は背後を振り向き、頭を下げる。こんなことで許してもらえるかはわからない。長い付き合いだが、そこまで深い関係でもないのだ。しかし、謝らなくちゃいけないという気持ちが強かった。
「べ、別にあんただけが悪いってわけじゃないんし……許してあげる……。」
長い髪を指で巻き、照れるような表情で彼女はそう言ってくれた。
「お詫びに駅前のシュークリーム奢りなさい!いいわね!」
頬を膨らまし、指を一つ立て、こちらに突きつけてくる。彼女が、その時は何故か少し可愛く見えてしまった。
「あぁ、いいよ。奢ってやる。」
いつもなら奢らない。バックれる。しかし、この時くらいは奢ってもいいだろう。これで、少しもぎくしゃくしなくて済むなら安いものだ。
「ふふん!当然ね!でも、こんなことはこれで終わりにしてよね!」
そんな内心を全く気付かずに、胸を張り、図々しい態度で、彼女は俺に、さも当然のように言い放つ。しかし、彼女の緩んだ頬は、内心、シュークリームが食べれることへの喜びを隠しきれていない。
「んじゃ、帰るか。」
「うん。帰ろっ」
学校を出て、すぐ近くの夕日の指す道の中、俺達は並んで歩き出す。こんなことがあったのに、隣にいてくれる彼女を、笑ってくれる彼女を、俺は大切に思っている。
愛してるよ。ツンデレ眼鏡 すーたん @kanzaki0605
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