第4話:魔王と対面
「何をそんな軽々しく言ってるんですか! 王宮の前ってそれ、魔王が生活してる場所ってことですよね? 馬車で着いた途端に魔王と戦うなんて聞いてませんよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないですよ!」
当たり前だ! 今日だけで衝撃的な出来事が多すぎた。
師匠の妻を名乗る女性ユキナさんと出会い、彼女に案内してもらった魔王城は普通の城の外観と違いが無くて、しかも、その中を人が行きかっていたり、馬車に乗って到着したと思ったら、そこが魔王が住む王宮だなんて。
「ごたごた言ってないで、ほら行くよ!」
俺の手を掴み、強引に引っ張って王宮の中に入ろうとするので、俺も抵抗する。
……なんだこの人! 華奢な体付きのくせして引っ張る力がとてつもなくて全然振り放せない。
「ちょ、ちょと、分かりました! 行きますから」
何とかユキナさんの手をほどいて後ろをついていく。
王宮に入ると中は不気味なほどの静寂に包まれていた。ユキナさんの後を追い廊下を進んだが、誰一人すれ違う人は現れない、やがてユキナさんはある部屋の前で止まった。
「ナスタ君には悪いけど、少しの間ここで待っててもらえるかな?」
案内されたのは応接室らしき部屋だった。とりあえず、近くにあったソファーに腰かける。
「それじゃ、すぐ戻ってくるから」
「えっ!?ちょっと待っ」
俺の返事を聞かずユキナさんはどこかへ行ってしまった、こんな場所に一人残されてもなぁ。
特にやることも無いので、部屋に飾られている装飾品を見て暇をつぶす。
「すまない、待たせたな」
入ってきたのはユキナさんではなく、なにやら温厚そうな男性だった。男性は俺の対面のソファーの前に立ち、自己紹介を始めた。
「突然こんな場所に連れて来られて困惑していると思うが、よろしく。私はアリムという」
「自分はナスタって言います。こちらこそよろしくお願いします」
良かった。この人は今度こそ、今まで会った中で一番普通の人っぽいな。
「ナスタ君は案内してくれた彼女から話は聞いているね? ナスタ君の疑問を私が答えるから、何でも聞いてくれ」
彼がユキナさんの言ってた人か、なら言葉に甘えてどんどん質問させてもらおう。
今までの疑問を質問しようとすると、先にアリムさんが口を開いた。
「すまない、最初に私から聞かせてくれ、ナスタ君にとって魔王はどんな存在?」
俺にとっての魔王? そんなの決まってるじゃないか。
「俺にとっての魔王という存在は師匠の敵なんです」
「敵ってどういう?」
「数年前俺の師匠は魔王を倒しに行き、そのまま帰って来なくなりました。行った理由は知りませんし、多分殺されたんだと思います。だから、俺が師匠の敵を打ちに来たんです」
俺の話を聞いた途端、アリムさんは突然笑いだした。
「ハッハッハッ……それじゃあ、差し詰めナスタ君は勇者ってことか」
「笑い事じゃないですよ!」
「だって、君の師匠ってハニルだろ?」
「そうですけど、何で知ってるんですか」
「やっぱり君は凄い勘違いしてるよ」
「勘違い? なんですか、それは」
「だって、ハニルはピンピンしてるんだから」
「え?」
「魔王は誰も人を殺した事が無い、だからそれはあり得ない」
魔王は誰も人を殺していない? 確かに通りだったならどんなに嬉しいか。でも、それなら師匠が魔王を倒す理由が無くなってしまう。しかも、師匠は行ったきり帰って来なかったんだ。それは師匠が魔王に殺されたと考えるのが普通だ。しかし、アリムさんが言ってることが本当だとすれば――――。
駄目だ、全然考えがまとまらない。
「魔王に会ってみるかい?」
何言ってるんだこの人も! 魔王に会う? 急にそんな事言われても……いや、待てよ。これはチャンスじゃないか、これまで言っていたことが本当か確かめてやろうじゃないか。
「…………はい、お願いします」
「よし! なら、今から行こうか」
「今すぐですか! それは流石に急すぎやしませんか?」
「なに、魔王なんて暇してるのが普通なんだ、気にするものじゃない」
魔王って暇にしてるのが普通なのかよ。
俺はアリムさんの後をついて行き、他の部屋とは違うと一目で分かる扉の前に立った。
「ここが玉座の間だよ、準備はいいかい?」
「……大丈夫です」
「それじゃあ、入るよ」
息を飲み、扉を開ける。玉座には誰も座っておらず、その周りを見渡しても誰一人として居なかった。
「あの、魔王も誰も居ないんですけど、どういう事ですか?」
「ちょっと待っててくれないか」
そう言ったアリムさんは玉座の後ろにまで行くと、何かをし始めた。
そして数分後、さっきまでつけてなかったマント何か着けて玉座の前に立ち、小さく咳払いをすると、
「ようこそアマリリスへ!」
片手を前に突き出しながら、慣れてなさそうに、声を上げた。
「私が現魔王アリムだ! 勇者ナスタ、私は君を歓迎しよう」
「は!?」
「………………………………」
「………………………………」
俺たちの間に沈黙が流れる。数分後、沈黙を破ったのはアリムさんだった。
「ナスタ君、何か言ってくれてもいいじゃないか……私だってこんなこと、やりたくてやってるわけじゃないんだから」
アリムさんは頭を撫でながら照れくさそうに言ってくる。
そうは言っても、この空気で何を言えばいいんだよ。もちろん驚いてるさ、声が出なくなるぐらいは。
「……恥ずかしくは無いんですか?」
「それりゃあ恥かしいよ、でもね、サルビアがやれって言うから断れないんだよ」
「サルビアって誰ですか?」
「あぁそうか、君はサルビアのことを知らないのか、サルビアって言うのは」
「いいアリムさん、それは私の口から直接、説明してあげる」
アリムさんの言葉は、突如現れた女性によってかき消された。
声のした方向を向くと、華やかなドレスを身に纏い、白金に近い金髪をなびかせながらこちらに近づいてくる。そして、彼女は俺の目の前で歩くのを止めた。
「ナスタ君、ユキナから話はある程度聞いているわ、私はあそこにいる魔王の妻のサルビア。今後ともよろしくね」
「………………………………」
「ナスタ君?」
「え? あっ! すみません」
見とれてしまって握手を求められているのに気付かなかった、慌てて手を握る。
握手を終えると、サルビアさんは玉座の方まで歩き、アリムさんに耳打ちするとこっちを向いた。耳打ちされたアリムさんは何やら驚いた様子だったけど、一体何を言われたんだ?
「ナスタ君、どうして君の師匠が突然出ていったのか理由を知りたい?」
「当たり前じゃないですか! 俺はそれが原因でここまで来たんですから!」
「なら、私の昔話を・・・アリムさんお願い出来る?」
「あーあれか、分かった。じゃあ一本渡してくれ」
あれって何だ? 何をするつもりだ。
サルビアさんは自分の髪の毛を抜き、アリムさんに渡した。
アリムさんは髪の毛を手のひらに乗せ、何かをささやいて何かを念じ始めた。すると、髪の毛が突然に手のひらで燃え尽き、直後、俺に手を出してきた。
「すまないがもう一度握手をして貰えるかな? そしたらサルビアの過去が君の頭に流れてくる」
「これも魔法の一種なんですか?」
「そうだね、口で聞くより分かりやすくだろ、こっちもいろいろ説明しなくて助かるし」
確かに話を聞くよりも分かりやすいだろう。こちらとしてもいちいち状況確認をしなくて済む。
俺は出された手を握った。その瞬間、俺の脳内にサルビアさんの記憶が流れ込んできた。
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