神殺しの少年〜最強の少年は最弱のふりして学園に通う〜

@adriohno

第1話 俺のネーミングセンス神か。

 とある街の早朝でのこと。

 いかにも、研究室、と言ったような部屋の中。

 その部屋の主である男と、その助手を務める女が真剣な面付きで、ある一点を見つめていた。


「もう準備はいいか?」


 カプセルの中で液体漬けにされた少年を見つめながら男は言った。

 助手の女がこくんと頷き、震えるような手で近くのボタンへ手を伸ばす。

 カチッという音とともに、カプセルの中で眠りについていた少年がカッと目を見開いた。

 すると、その瞬間、カプセルが弾けるように割れ、中の液体が漏れだした。無論、割ったのは中の少年だ。 


「せ、成功だ! ついに、ついに成功したぞ! Project:God Eaterを成功させたぞ! 彼こそが唯一の成功体だ! ああ……やっとか。少なくとも一万人は実験体を用意したのにな。成功例がただ一つとは……」


 男が喜ぶような素ぶりを見せてから、少し苦々しい表情を浮かべる。

 わざわざ一万人もの実験体を用意したのに成功したのはたった一人だったのだ。別に、自分の能力が高いと思い込んでいたわけではない。だが、この結果はあまりにも悲惨なのではないだろうか。


 だが、こうも思う。


 たった一例でも成功例が出ればそれでいいのではないか?と。


 なにしろ、この少年は神を超える能力を身につけている。そんなものがたった一万の犠牲で降臨したことを考えれば、かなり運が良かったのかもしれない。


「なあ、少年。俺がわかるか?」


 男が少年に手を差し伸べた。

 少年は驚いたように目をパチクリさせてから、


「誰?」


 男に問い返した。


「まあ、大体お前の育て親みたいなもんだ。血の繋がった親じゃない」


 すると、少年は少し黙りこけた。

 それに気づいた男が暗い口調で話しかける。


「親が見たいか?」

 

 少年は少し思案して。


「別にいいや。おじさんが僕の親なんでしょ?」

「そうか。それならいいんだ」


 男は、ホッと安堵の息をついた。

 なんの考えもなく、とりあえず聞いてはみたものの、見てみたい、と言われても、どうすることもできなかったのだから。

 男は自分の浅はかな行動に少し後悔を覚えた。


「僕の名前は?」


 少年は、実に無垢な目で男を見た。

 少年には、今まで生きてきた記憶がなかった。当然、名前も存在しない。


(名前か。そういや決めてなかったな。あ、そうだ!)

 

 男はポンと手を叩くと、少年の視線まで自分の視線を落とし、少年の名(今思いついたものだが)を伝えた。


「ゼノン、なんてどうだ。最高神ゼウスの別称だ。かっこいいだろ!」


 万に一つの神を殺す可能性を持った人間だ。別に神の名前をつけたところでとやかく言われたりはしないだろう。まあ、口出しなんてできる奴がいるわけないんだが。

 男は少年を見ながらそんなことを思う。

 自分のこれまでの研究結果を全て積み込んだ人生の最高作品。全ての存在を凌駕する最強の存在。それに口出しできるものがいるならば、連れてきてほしいぐらいだ。


「ゼノン……うん! いい名前だね! 僕、気に入ったよ!」


 少年は、ゼノン、ゼノン、と、何度か自分の名前をつぶやくと、うんうんと頷いた。

(しっくりきたんだな、よかったよかった。しかし、俺って名付けの天才なのか? ゼノンって。かっこよすぎるだろ。マジで神か)


 男は自分のネーミングセンスに少し感動を覚えながら、少年の手を自分の手に取り、ぎゅっと握った。


「よし! 今日からお前はゼノンだ! よろしくな!」

「こちらこそ! おじさん!」


 少年——ゼノンも、嬉しそうに笑ってぎゅっと手を握り返した。


「因みにおじさんじゃなくてレウスな。おじさんはやめろおじさんは」


 男——レウスがゼノンの手を握る力を強めながら言う。


「ははは、じゃあ、よろしくね! レウス!」


 ゼノンも、負けじと力を入れていく。


「ふふふ……」

「ははは……」


 研究室に奇妙な笑い声が響く。

 二人とも顔は笑っているが目は笑っていない。

 なんと言うか、家族、と言うのかは分からないが、仲良くはなれたようであった。


 そして数分後。


「おりゃあああ!」

「ぎえええええええ!!! お前、力強すぎんだろ! そして、賢者の俺よわっ!」


 二人の最初の勝負はゼノンに采配が上がった。

 レウスは地面に両腕をついて落ち込んでいる。ゼノンは中二病的なポーズをとりながら「世界最強の神ゼノンには勝てん……」などと呟いていた。

 もう、この歳で中二病に目覚めてしまったようだ。なかなかに有望である。

 レウスが、ゼノンに謎の期待を寄せながら試合後の握手をした。


 すると、思わぬところから横槍が入る。


「あのー、私はガン無視なのでしょうかー?」


 レウスの助手を務める女だ。

 ゼノンとレウスのやり取りに圧倒されて、完全に話すタイミングを失ってしまっていた。


「「あ。忘れてた」


「がーん……」


 女の結構悲しそうな効果音が研究室に響いた。

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