ハッピーエンド

みなみ

第1話

そういえば先ほど、さかむけを剥いたのだった。

予想より流れ出た赤黒い液体は、ふいに指先みた自分をぎょっとさせた。

もうすでに凝固しつつあったので、もう片方の手でそっとぬぐう。


「え、痛そう。」

仕草に気づいた隣の彼女が言う。

絆創膏ないや、とポーチをあさりながら呟いた。

いや、そんなたいしたのじゃないから。そう返して、そのあと、結衣の頭を撫でた。



どうしようもない2人だ。

きっとどんなに足掻いても、心からの幸せは得れないのだ、といつか笑ったこともあった。

なんとなく、今だけ、お互いの「寂しい」を埋め合うために隣にいるのだ。



「こういう生活は今だけって思ってるでしょう。違うよ。君は、一生ね、誰かの『今だけ』の存在なのよ。」



昔、ある人に別れ際に言われた言葉だ。

あの人は常日頃上からものを言う癖があった。多少の虚言癖もあった。自分を取り繕っているところが痛々しいと思ってはいたが、割と長いこと一緒にいた。

でも彼女の発言で覚えているのはこの最後の言葉だけだ。



お互いの核心はつかない。

それが暗黙の了解だ。

ただ堕落の時として、慰めあう。

お互いのためではない、自分のために。



そうであったのに、最後、別れ際に彼女はそれを破った。

彼女はきっと今、あの卑屈な性格を上手くやり過ごしながら、それなりに幸せにやっているであろう。あのとき彼女は変わったのだ。



自分はまだ変われない。



「どうしたの、難しい顔して。」


ねえ、つまんない。構ってよ。

そう素直に言えばいいのに、と思う。


いや別に、と流すように言いながら、窓の外をみる。



夏は。夏はもうそこにきていた。


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