あさに見し胡蝶死したりそのゆふべ

【読み】

 あさにみしこてふししたりそのゆふべ


【季語】

 胡蝶(春)


【語釈】

 胡蝶――蝶の異称。


【大意】

 あさに見た蝶がそのゆうべに死んでいることである。


【附記】

 高橋虫麻呂(生没年未詳。奈良前期の人)の「富士のに降り置く雪は六月みなつき十五日もちぬればその夜降りけり」という古歌による。「あしたに道を聞かば夕べに死すとも可なり」も踏まえる。また、「胡蝶の夢」も視野に入れている。


【例歌】

 が夢を出でてきぬらん桜花匂へる園に遊ぶこてふは 樋口一葉


【例句】

 落花えママにかへるとみしはこてふかな 武在

 世の中やてふてふとまれかくもあれ 宗因そういん

 とぶ蝶のとつてかへすや大井川 桃隣とうりん

 唐土もろこし俳諧はいくわいとはんとぶ小蝶 芭蕉

 酒くさき人にからまる胡蝶かな 嵐雪らんせつ

 菊さけり蝶来て遊べ絵の具皿 同

 夢人はまだ小蝶にて春くれぬ 許六きょりく

 夕日影町半まちなかに飛ぶこてふかな 其角きかく

 猫の子のくんずほぐれつ胡蝶かな 同

 もぬけ行く胡蝶のからや窓の雨 丈草じょうそう

 大はらや蝶のでて舞ふ朧月おぼろづき 同

 蝶の舞面箱持のかはづかな 木導もくどう

 蟷螂かまきりの夢見てにげる胡蝶かな 如行じょこう

 たぬきにも蝶にもならぬひるねかな 諷竹ふうちく

 てふてふや加茂の芝生にひもすがら 存義ぞんぎ

 蝿が来て蝶にはさせぬ昼寝かな 也有やゆう

 てふてふや花盗人はなぬすびとをつけてゆく 同

 てふてふや幾野の道の遠からず 千代女ちよじょ

 見初みそむると日々に蝶みる旅路かな 太祇たいぎ

 掘川の畠からたつ胡蝶かな 同

 寄りそふて眠るでもなき胡蝶かな 同

 蝶飛ぶや腹に子ありてねむる猫 同

 うつつなきつまみごころの胡蝶哉 蕪村

 釣鐘にとまりて眠る胡てふかな 同

 地車に起き行く草の胡蝶かな 召波しょうは

 蝶が身の人よりかなし春のくれ 樗良ちょら

 蝶とぶやあらひあげたる流しもと 白雄しらお

 夕風や野川を蝶の越しより 同

 舟につむ植木に蝶のわかれ哉 几董きとう

 草の戸や薬をなめに蝶の留主 同

 ほろほろとこぼれかかるや草の蝶 道彦みちひこ

 みじか夜や三味せん草に蝶のかげ  巣兆そうちょう

 初蝶のいきほひまうに見ゆる哉 一茶

 通り抜けゆるす寺なり春のてふ 同

 灰汁桶あくおけの蝶のきげんや木下闇こしたやみ 同

 物や思ふいはでも花に蝶黄なり ふぢ

 四国路しこくぢに蝶も渡るや花曇り 紫道しどう

 城門に蝶の飛び交ふ日和ひよりかな 内藤鳴雪

 蝶々の慕ふ花輪やくわんの上 同

 蝶来りしほらしき名の江戸菊に 夏目漱石

 鯉跳てあだくらふや蝶の影 幸田露伴

 蝶々や人なき茶屋の十団子とをだんご 正岡子規

 蝶しばし舞ふやおきなの夢の上 同

 八月の蝶飛ぶ木曾きその木立哉 同

 松笠の青さよ蝶の光り去る 北原白秋

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