つばくらめ翔るや牡丹散らんとす

 つばくらめかけるや牡丹ぼたんらんとす


【季語】

 牡丹(夏)。『花火草はなひぐさ』(1636年刊)に所出の由。


【語釈】

「つばくらめ」は、つばめ。春の季語。


【大意】

 つばめが翔ると牡丹の花が今にも散ろうとするのであった。


【補説】

 つばめがかすめ飛ぶときの風圧のために牡丹の花が散ってしまうことを危惧しているという一応の解釈が成立しそうである。


 中国では牡丹を花の王、芍薬しゃくやくを花の宰相と言ったそうで、「立てば芍薬、座れば牡丹」という美人の形容があるのはご存知のとおりである。和語による名は「深見草」。「富貴草ふっきそう」という別名もある。俳句だと特に蕪村(1716-1784)に多く詠まれたらしい。古今東西、牡丹を詠ませたらその人の右に出る者はいないだろうと私は勝手に思っている。


【参考句】

 さかづきに泥な落しそむら燕 芭蕉

 茶の水にちりな落しそ里燕 其角きかく

 海づらの虹をけしたる燕かな 同

 みすに入て美人に馴るゝ燕かな 嵐雪らんせつ

 巣を立て湖水になづむ燕かな 尚白しょうはく

 ほそぼそと塵かどの燕哉 丈草じょうそう

 つばくらや水田の風に吹れがほ 蕪村

 酒旗につばめ吹るゝ夕かな 召波しょうは

 むら燕牛のまたぐらくゞリけり 几董きとう

 乙鳥つばくろわだち小魚こうをつかみゆく 同

 乙鳥の巣に鼠鳴よさむかな 梅室ばいしつ

 思ふ事ただ一筋に乙鳥かな 夏目漱石

 

 蝋燭らふそくにしづまりかへるぼたんかな 許六

 虹を吐てひらかんとする牡丹かな 蕪村

 閻王えんわうの口や牡丹を吐かんとす 同

 方百里雨雲よせぬぼたんかな 同

 金屏のかくやくとしてぼたんかな 同

 ぼうたんやしろがねの猫こがねの蝶 同

 牡丹散つてうちかさなりぬ二三片 同

 ちりて後おもかげにたつぼたん哉 同

 金鶏のさしのぞひたるぼたん哉 嘯山しょうざん

 扇にて尺を取りたる牡丹哉 一茶

 みちのくや牡丹駅またあやめ宿 泉鏡花

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る