あなかしこ蚯蚓の跡を御目汚し
あなかしこ
〔季語〕
蚯蚓(夏)
〔語釈〕
「あなかしこ」は、ああ、恐れ多い。多く手紙の結びに女性が用いる語。
「蚯蚓」には、ミミズの這い回ったような拙い筆跡(蚯蚓書き)の意もある。
〔大意〕
何とも恐れ多いことだ。みみずの這い回ったような拙い筆跡でお目汚しをするのは。
〔解説〕
「蚯蚓」「蚯蚓出づ」は夏の季語、「蚯蚓鳴く」は秋の季語の由。蛇足ながら、実際にはミミズは鳴かない。「亀鳴く」(春)、「蓑虫鳴く」(秋)という季語もあるらしい。
私は、世間一般より多くの句に目を通してきたという自負のもとに作品を投稿しているが、ときに自作の拙さを恥じることがあり、そのような気持ちを表現しようとした。中七を「蛙の歌を」などとする案が先にあったが(蛙の声はさほど聞きの良いものではないと思う)、それだと「御目汚し」との整合性がとれない(この語ありきで作った)。「蚯蚓」で句の拙さをいうのには無理があるが、書をたしなむ人が字の拙さを恥じるのも根は同じだろうということで。「あな」は同音の穴に通じ、蚯蚓との縁語のような趣向である。
今考えると、手紙の筆跡の拙いのをわびたようである。
〔参考句〕
霧と波とに蚯蚓鳴らん芥川 才麿
出るやいな蚯蚓は蟻に引かれけり 一茶
里の子や蚯蚓の唄に笛を吹く 同
蚯蚓鳴いて夜半の月落つ手水鉢 河東碧梧桐
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