空しさや千万弗の北颪

 むなしさや千万弗せんまんドル北颪きたおろし


〔季語〕

 北颪(冬)


〔語釈〕

「千万弗の北颪」は、神戸などの夜景を「1000万ドルの夜景」と表現するらしいことを踏まえた句。「北颪」は、冬に北方の山から吹きおろす寒い風。


〔大意〕

 空しいことよ。1000万ドルの夜景を眺める者に吹きつける颪の風は。


〔解説〕

 語釈にも書いたことだが、神戸などの夜景は「1000万ドルの夜景」といって讃えられているらしい(もとは「100万ドルの夜景」だったとか。また、函館や香港など日本や世界の各地に同じような称号を持つ夜景のスポットがあるようだ)。デートスポットらしく、恋人と見にゆく分には楽しいかもしれない。私は夜に人工の明かりを見ると安心するが、夜景を見に行こうという心性にはとうてい共感できないように思う。それを見て人類や国の繁栄をよろこぶ向きも中にはあるのだろうか。神戸といえば福原京のあった場所であって、『方丈記』を読んだことのある私にはどうしても諸行無常のイメージが強い。冬には六甲颪が吹いてきて住むのに快適ではないイメージすらある。


 上五かみごの「空しさや」というのが安直なようでもあるが、私の好きな由緒ある和歌にも「空し」の語が用いられていることに鑑みて必ずしも悪手ではないものと思いたい。


「颪」は、冬季に山などから吹きおろす風のことをいうらしいが、単独で季語として用いられることはないようで、これには少々納得がいかないが、「北下ろし」を季語として用いている古句もあるようなので、今はそれに倣った。


 数詞を用いた表現は俳句らしいかもしれないと思う。


〔参考句〕

 寝られずにかたへ冷ゆく北下し 去来

 街道や大樫垣の北おろし 村上鬼城

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