追憶の彼方の君へ

ネムのろ

第1話 ストーカー(笑)を消そうとした(嘘)私のなにが悪いんでしょうねぇ?

『こんにちは』


 ああ…またか。そう思って呆れた顔で声のしたほうを振り返った。

 溜息を一つして、ギロリと睨んでみた。目の前のスーツを着た男は苦笑いで語りかけてきた。


『あのー…お願いがあるんですが』

「無理」

『ええ?! ちょっ…聞いてくれたっていいじゃないスか!!』

「無理」

『ちょっとぉおお?!』


 あーあー聞こえなーい。ソコになにもイナーイ。

 私は無視を決め込んでスタスタと早足でその場を立ち去った。


「気配はもうないな。」


 もー…嫌になるなー…


 あ、どうもこんにちは。私の名前は亜樹あき。一見普通のクラウドソーシングをこなす二十代後半ですが…じつはほとんどの人に理解できない出来事を幼いころから体験しているのです。


「さっきの奴はさしずめ地縛霊かなにかか…あまり恨みを持ってなかったからよかった…」

『なにがよかったの?』

「…」


 ハイ、キマシター。またもやキマシター。

 ちらりと見ればそこにはフワリと空中に浮かぶように、ニタニタ気持ち悪く笑ってくる少女がいた。何で気持ち悪いかって? 口が頬まで裂けてるガキがそこら辺にいて気持ち悪くならんかね?

 一目で、あーこりゃやべーなーと思った。だって背筋が凍ったように冷たくなって、声かけられたと同時に周りの空気が変わったもん。

 重々しくなったもん。ズシーン…と何かが身体に巻き付いて放さないかのように…って…あれ? マジで身体が動かない…なんじゃこりゃ?


「…」

『今度は逃がさないよ…お姉ちゃん』

「ああーあの時の」


 どうりでどっか見たことがあると思ったら、つい最近、声かけられてあまりにも人と区別つかないような奴だったから答えちゃったあの子供だ!


「ねー、もうストーカーやめようぜ?」


 ちなみに現在、私のストーカー(笑)をしている。


『ヤダ。お姉ちゃんは私たちの仲間になるべきなの』

「それこそ嫌だわ! あーもー…あんまりしつこいと」


 私は心の中でひっそりとソレを呼んだ。


『…!』

「消してもらうよ?」


 ウソ。消せるわけがないってね! でも今は結構深刻なので脅します。ええ。汚いです。なんとでも言ってくれてかまいません。

 こちとら命がかかってんだよ手段選んでられんわ! 


『いじわる! ウソツキ! 薄情モノ!!』

「おーおー、やっとわかったかー。そうですよーわたしゃ全部ひっくるめた最低最悪な悪者デスヨー(棒読み)」

『大嫌い!』


 言いながら彼女はピューと私から離れてどっかへいってしまった。やべー…黒いオーラ濃くなってた。


 ………次の被害者が無事なことを祈るよ。


「ふいー…ありがとう…」


 目の前にちょこんとお行儀よく座っているソレに向かってお礼を言った。彼が来てくれなかったら脅してもきっと笑われて絞め殺されていた。

 え?一体何が起きたのかって?

 体中を蛇のような何かが締め付けていて、その先端にあの女の子がいたんです。


『…お前、霊たちをそんなそまつに扱うな、と何度言えば…』


 ハァ…と溜息をつかれました。目の前のちょこんとしてるナニカが言ったのかって? いえいえ。目の前のはお狐さまで、守ってくださってます。今は興味がなくなってゴロンとくるまって寝てますわ。

 話しかけてくれたのは、まぁ守護霊…か未だよくわかってない。けども色々何かと助言をくれたりします。形? 人っすよ。狐さんが何もしないってことは、悪い人ではないんだろうね。


「え? なんで私があいつらの事を手伝ったり、話を聞かなきゃならんのですか?」

『お前…ソレ本気で言っているのか?』

「ぜんぜん」

『その笑顔が無性に腹立つ…』


 守護霊…ああ面倒だからレイさんと呼ぼう。レイさんはハァ…と溜息をついた。


『いつか祟られるのではないかと、私は心配でならんよ』


 その言葉に、ちょっとだけ申し訳ないなと思いながら…お辞儀をした。


「いつもお世話になってます…(時々、すごく声が邪魔でしかたないけども)」

『…なにか良くない事を考えたなこの、じゃじゃ馬娘…「えへ?」…ハァ…私が好きでやっているだけだが…ふむ…そんなに落ち込むことではない。』

「おちこんでませんよ?」


 そう言えば、レイさんはクククと笑った。


『そういう事にしておこう』

「…」


 こげ茶色の細い流し目で優しくこちらを見守るように、見つめてくる。


『私とお前の仲だ。隠すな』

「バレてましたか…じゃあ相談があるんですが」

『なんだ』

「忘れていた思い出を…思い出して、途方もない気持ちになったら…どうしたらいいんでしょう?」

『なんだ。何を思い出した?』

「いえね……最近…女の子を思い出すんです」

『女の子?』

「ええ…昔、とってもお世話になった…友達なんですが…」


 それはずっと前のお話し。


「どうしたの?」


 幽霊が見えるせいで家族からも保育園の皆からも浮いた存在になり、嘘つきと言われ、虐められていた時期。

 一人でいると、毎回幽霊からしょっちゅうちょっかいを仕掛けられて…精神的にもまいっていた時だった。

 一人のおかっぱ頭の赤いスカートをはいた女の子に出会った。あらかた話すと、その子は私を迫害するでもなく素直に「そう…」と言い、聞き続けてくれた。


「辛かったね…」


 その言葉を聞いた瞬間、涙があふれた。

 だって今までそんな風に優しい眼差しで見つめてくれた人はいなかったから。

 私の話を信じて最後まで聞いてくれた人なんていなかったから…

 だから凄く嬉しかった。


「あなたもここに閉じ込められたの?」

「うん…」


 彼女は困ったように笑った。

 

 そうなのである。


 私たちは今、公園にいる。

 いつもきまって一人で遊んでいた普通の公園なのに…男の子の幽霊が出てきて逃げようと公園の出入り口をくぐっても中へと戻されていた。


「ああ、でも大丈夫だよ。あの子は悪戯してるだけ。」

「え?」

「泣かないで。さ、遊びを教えてあげる。幽霊ってね、こっちが怖がったり怯えなかったらつまんないって、ほとんどは帰っちゃうの」

「え…見えるの?」

「うん。おそろいだね!」

「うん!」


 本当にうれしかった。

 私と同じような子がいたことに。

 その子が一緒にいて、話して、教えて、そして遊んでくれたから私は…


 心が壊れずにいられたんだ。

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