唐突だ。
「ゆーたぁぁぁぁぁああ、おめでとう!!!」
ぼくを囲むようにしてクラッカーが鳴らされた。嬉しい半面照れ臭い。
「あ、ありがとう」
小さく呟くと、みんなはニヤニヤしながらハイタッチしていた。
今ここにいるのは、ぼくと母さん、りんねと彼女のお母さんの4人だ。
ぼくのお父さんは単身赴任中で、りんねのお父さんは彼女たちがここに引っ越してきた時にはすでにいなかった。理由はわからない。彼女が話そうとしないから詮索もしない。
「はい、ゆうた」
「ありがとう母さん」
隣なだけあってりんねのお母さんと母は随分仲が良くなったらしい。いいことだと思う。専業主婦の母さんは基本家にいるから、たまにでも外に出てくれるのは嬉しい。
「ん・・・?」
いつのまにか眠ってしまっていたぼくを起こしたのは母さんだった。
手に持っていたものは正方形の箱で、どうやらケーキを取りに行っていたらしい。自分の誕生日を忘れていたぼくは最初はただ母さんが自分のためのケーキを買ってきたのだとしか思わなかった。
目をこすりながら起き上がると、ふと視界がひらけていることに気づいた。
あぁ、窓が開いているのか。母さんが開けたのだろうか。ぼくは家に帰ってすぐ寝たらしいから開けていない。
ベランダに出ると、このマンションからは2、300メートルほど離れている海が見える。ここから見るとすぐ目の前にあるように見える。
りんねは海が好きらしく、よく付き合わされる。無論、ダッシュだ。インドア派のぼくには素晴らしい運動になる。
りんねには朝飯前ってやつらしい。
テンションが高いまま誕生会はお開きとなった。
隣に住む親子を見送った後、母さんの片付けを手伝う。
「休んでたら?」
「いいよ。落ち着かない」
母さんの気遣いはありがたいけど断る。こんな会まで開いてもらってくつろいでおくだけの度胸はぼくにはない。小心者だ。
一通り片付けが終わって自室に戻る。
そういえば制服のままだ。帰ってきて初の自分の部屋。やっぱり落ち着く。
どこか変化はないか確認する。
りんねは遊びに来るとき大体ぼくの部屋に何かを仕掛ける。
小さいものから大きいものまで。だから緊張しながら部屋を見渡した。今回は大丈夫そうだ。さすがに誕生日にまでドッキリはしなかったらしい。
いくつかりんねの私物がある。彼女はぼくの部屋を倉庫か何かと勘違いしているのかもしれない。
久しぶりに整理をしよう。誕生日で一つ大人になって、いい機会だ。
自分のものはもちろんりんねのものもしっかり分けて、わかりやすいように置いておこう。もしもの時に置いて行かれたら取り扱いに困る。
そんな気まぐれな行動がフラグになってしまっていたなんて、さすがにぼくじゃ気づけなかった。
次の朝学校に行くと、靴箱前にりゅうへいが座り込んでいた。
彼は男子の平均身長より余裕で大きく眠いからか目つきも悪くなってしまうので、座っていても謎の迫力があった。
「おはようりゅうへい・・・どうしたの?」
とりあえず彼の座っている位置に靴箱がある人に被害が出る前になんとか彼をそこから動かそうと思う。
まず、すでに被害は出ていた。ちらりとだけど影からりゅうへいを怯えた目で見つめる人を発見してしまった。見てしまったが最後、ぼくには見て見ぬ振りができない。
ぼーっとしていたりゅうへいはすぐにぼくの声に気がついた。
「・・・はよ。待ってた」
「え?ぼく?」
「これ」
りゅうへいは雑に鞄から何かを取り出した。綺麗にラッピングされている。
「誕生日の。昨日渡せなかった」
毎年くれる誕生日プレゼント。今年も覚えててくれたんだな、と思うと嬉しくなった。
「ありがと」
笑顔が溢れてプレゼントを握るとりゅうへいが照れ臭そうにそっぽを向いた。怖い見た目でも可愛いところがある。そう言うところに気づいた奴がりゅうへいと仲良くなるんだと思う。
たわいない会話をしながら教室に向かう。
今日はりんねは休みだった。
「りんりんが休みなんて珍しいじゃん」
「そ、そうだね」
唐突にぼくらのクラスに来たるみさんは、りんねの席に座って退屈そうにしている。
りんね抜きで話すのは初めてで、少し怯えている。相手に伝わってしまわないようにしないと・・・。
りゅうへいは一応この場にいるものの目を開けて眠っている状態で、とてもこの状況の救済者にはなりそうにない。
「そういえば、ゆうたくん昨日誕生日だったんだよね?」
「うん」
「ちょうど帰りりんりんに会ってさー。楽しそうにしてた」
なるほど、りんね情報か。まぁそこくらいしかぼくのことが漏れる場所はないけれど。
「んー」と言いながらるみさんはスカートのポケットを探っていた。次にブラウスの上に羽織ったパーカーのポケット、最後に胸ポケット。
一通りごそごそとして「ちょい待ち」と教室を出て行った。いったい何事だろう・・・珍しく真面目な顔をしていたように思える。こんなこと言ったら失礼だろうか。
しばらくして戻って来たるみさんは息を切らしていた。
少しの間にいったい何が・・・
「はい!」
ぼくの前に出した手のひらには可愛いパッケージの飴が2つ置かれていた。
「遅れたけど、プレゼント!急ぎだからこんなものしかなかったんだけど・・・」
るみさんはテへ、と笑いながら申し訳なさそうに首筋をかいた。
おずおずと手を出すと勢い強く手のひらに置かれた。落とさないように握りしめて「ありがとう」と言うとるみさんは満面の笑みを浮かべた。
「・・・るみさんは優しいね」
知り合って間もない友人の友人の誕生日に、わざわざ走ってまでプレゼントを探してくれる。見た目は派手で明るくて、りんねに似ているからぼくの苦手なタイプではあるけれど、実際とても優しくて、たまにりんねの魔の手からぼくを救ってくれる。
友達の友達でも、るみさんに出会ってよかったと、ぼくはとてもそう思う。
「なにこの子・・・ほんと可愛い」
「え・・・何!?」
るみさんの目の色が少し変わって襲われそうになったところをギリギリでりゅうへいを盾にして回避。さすがにそのままりゅうへいを襲うことはしなかった。
「は!」
いきなりるみさんが大声を出した。様子を見ていると落ち込み気味だった。一体今目の前で何が起こったのだろうか。
「ごめんねゆうたくん・・・私、可愛いものを見ると飛びつきたくなる衝動に駆られて・・・」
「それは、直したほうがいいね」
「だよねー」
俯きながらブツブツと何か呟くるみさん。
自分でも悩んでるんだろうな、と何かを感じ取るぼく。
そしてぼーっとし続けるりゅうへい。
なんだこのカオスな状況は。
誰か助けてくれ・・・切実に。
ピンポーンと、誰かは居るであろう家の玄関のインターホンを鳴らす。
一向に人が来る気配がなくて心配になる。家にいるはずなんだけど・・・
「これ、持ってってくれないか」
「・・・わかりました」
先生にりんねへの届け物を頼まれた。ゆえに誰かいてくれないと困るのです、とても。
あと少しだけ待ってみようとドアに背中をつけて座り込む。
『りんりんが休みなんて珍しいじゃん』
本当にその通りだ。
りんねは見たまんま、そのまんまで、とにかく元気で明るくて、体が弱いなんて言葉がとても似合わない。だからいつも油断する。
疲れて辛そうな時もりんねなら大丈夫だろうと、そう思ってしまうから彼女は無理をする。誰かに止めてもらわないと止まれない人間なのだと思う。
でも今回は違う。予兆もないし、おそらくサボり。これはりんねにいじめられて来たぼくなりの勘だ。
「・・・」
物音一つしない。逆に不気味だ。
諦めて帰ることにする。とは言っても隣だしいつでも会いに来れる。
これも油断だ。
彼女ならいつでもここにいるって、安心しすぎている。
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