第21話 青の抹消編⑦ 勝利条件は一つとは限らない
「バカ…野郎……なんで入ってくんだよ……」
「智樹が一人で戦ってるのに黙って待ってる訳にはいかないだろ」
「
「そんな約束関係ない。俺はただ渡を助けられればゲームの結果なんてどうでもいい。力づくでも返してもらうだけだ」
扉を開いて東条が入ってきて工場敷地にいた『
「……こりゃあ、とんだ大型助っ人だな。まさか『
「あとはあんただけだ。痛い目見ないうちに渡を返してほしい」
口調は懇願の体をなしているが、東条の顔はふだんの温和なものとは違い鬼気迫るものになっている。
ゆったりとした動作で鷹山は現在時刻を確認。時刻は11:57。
鷹山は両手をゆっくりと上げて、智樹と東条に向けて話し出す。
「降参だ。
「ずいぶんと潔いね。渡を監禁した割に少しでも負ける目が出たらあっさり開放するなんて。まるで最初から俺達に渡を連れ帰らせるように仕組まれたみたいだ」
「そんなんじゃない…って言うと半分嘘になるが、俺は最初からそこの男を監禁する気はなかった。ただ
「…聞くだけ聞くよ」
「あと数分だけ連れて帰るのを待ってくれ。元々そいつは12時には開放する気だった。12時以降に開放するなら俺が敗北を認めたことを『
「別に構わないよ。俺は渡を連れ帰ることができれば何でもいいから」
「
「……ああ」
こうして数分待ってから天道を縛っていた鎖をはずして連れ帰ることができた。
「渡、ケガはないの?」
「大丈夫だ、一人で歩ける。俺よりもそっちのバカの方がダメージでかいな」
「何言って…やがる。平気に決まってんだろ…」
「その傷だらけの姿、鏡で見たら余計
「天道の言う通りだな。なんでこんなボロボロになってんだか…寝袋なら用意してもいいぞ」
「ふざけんな……こんなむさ苦しい青二才どもと一晩過ごすなんて……つーかなぁ……お前ら二人がこのバカ騒ぎの発端だろうがよ!……」
「鷹山さんの好意に甘えようよ、智樹」
「バカ野郎…こいつに同情されるなんて…」
智樹は鷹山達の言葉を無視して立ち上がり廃工場から出て行こうとする。
「東条…とか言ったっけ?ずいぶん喧嘩が強いな。さすが
「渡は開放されたんならもう敵対する必要はないよ。あんたも思ったより悪人には見えないし」
「あのバカもあんたくらい冷静ならもう少しましな立ち回りができるんだろうな。あいつは喧嘩は強いのに余計な情やプライドのせいで損をすることが多々あった。今もそうだろ?」
「まぁ…そんな感じだね」
「お前ら……全部、聞こえてるぞ!」
智樹が引き返して血走った顔で鷹山に向かっていくが、東条が制止する。
「
「お前までその名前で呼ぶなよ!だせぇから!」
東条、天道、鷹山は一緒に笑っていた。打ち解け合った友のように。
智樹は少しだけ疎外感を感じていたが、こんなのも悪くないと思いなおした。
「東条…君、もしよかったら俺達のチームに入らないか?あんたがいれば
『
「おい鷹山!なに勝手なこと言ってんだ!」
「遠慮しとくよ。俺は喧嘩が好きでここに来たわけじゃないし。それに…鷹山さんの言う通り
「東条……。へへっ!どうだ鷹山!俺達の友情はお前の安っぽい勧誘じゃ崩せないんだよ!残念だったな!」
「……ああ、ほんとに残念だよ。誰かに助けてもらわないと調子づくことすらできないお前の腑抜けっぷりが特に」
「なんだとこの野郎!」
「どこが一匹狼なんだか。今のお前は『虎の威を借る狐』じゃないか」
「言ったなこの…」
「智樹…やめとけって言ってるだろ」
智樹はまた東条に羽交い絞めにされて鷹山との戦闘をやめさせられた。少しは体力が回復してきたがまだまだ傷だらけの体。抵抗も虚しくあっさり矛を収める。
智樹の脳震盪もすっかりなくなり、特に問題もなく自転車を運転できる程度まで体力が回復した。
「じゃあな鷹山。もうここには来ないけど達者でな」
「そうかそうか、まだまだ目が血走ってたぞ俺と1対1《タイマン》してた時。ほんとは今でも喧嘩したくてうずうずしてるんじゃないか?」
「バカ言え。ゴリラの体力テストに付き合うなんて2度と御免だ」
「そう言わずに『
「おいおい、東条とはえらい違いだな」
「お前より東条君の方が10倍使える男だろう」
「いやぁ~智樹の10倍使えるなんて照れるなぁ」
「真に受けんじゃねぇよ!足元見やがってこの野郎…」
「お前もいちいちマジになるなよ。そういう所だぞ評価下がってる理由は」
智樹はぐうの音も出ない。自分でも感情的になり過ぎて損をしてることが多々あることは自覚している様子。
「鷹山…お前がどういう考えで『
「なんのことだ?」
「まぁ……お前たちのことを信用できないとかクズとか言ったことは謝る。ちゃんと天道も返してくれたし今だって俺達に危害を加えるようなことはしてない。お前のやってることは筋が通ってると思う」
「そいつはどうも」
「でも俺はこっちに戻る気はない。これだけは一貫して変わらない。俺が『
「わかったよ。お前は元々一匹狼だしな。東条君も喧嘩には巻き込みたくないようだしもうこんなことは言わねぇよ。……本当に残念だがな」
「鷹山……無茶はするなよ。元気でな」
「
二人は固い握手を交わす。ついさっきプライドをかけて殴り合っていたことも忘れて。もうここには来ないと言った智樹はどこか名残惜しそうに鷹山も再会することを期待しながら二人の視線は邂逅した。
だがそれも一瞬。智樹は東条、天道に目配せして今度こそ帰路に就く。宿敵とも盟友とも言える男との再会もほんのひと時のできごと。彼らは一度も振り返ることなく鷹山の元を去っていく。
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