第168話お母さん! エロとオッサン
◇ ◇ ◇
■ ■ ■
______ホワイトシーフ王国______
「つ、着いたー!!!」
二日間あまり森の中を歩き続け、ようやく、俺たちはシルフの治める国であるホワイトシーフ王国へと戻ってきた。
「飯だ! 飯! 腹が減った!」
「食糧なら来る時たくさん貰ったじゃない。それよりも先ずはお風呂に入りたいわ」
「それ賛成! 僕もお風呂に入りたい!」
町を抜けるとすぐに城がある。
先ずは城に戻り、休息を取ってから壊れた町を復興すればいいさ。
別に復興までのリミットがある訳じゃないんだし、気楽にいこう。
それに、ホワイトが抱きかかえてくれたとはいえ、赤ん坊も相当疲れているに違いないし。
「あら? この街、そういえばこんなに人いなかったかしら?」
「おい。シルフ。それは自虐ネタなのか?」
この国はシルフに代替わりしてから住人の流失が止まらない限界集落である。
全盛期は炭鉱の町として栄えたが炭鉱が閉鎖されてからは町のメイン通りは閑古鳥が鳴く状態。
ホワイトが街を破壊する前からも住人の姿なんて殆どみなかった。
町を復興する前に先ずは住人の確保が先決かもな。
「でも、本当に人の気配がないよ。生気が感じられないもん」
「なに? 本当か?」
パスは小さな鼻を小刻みに動かし、辺りの臭いを嗅ぐ。
パスは現在、魔女であるが本来はサキュバスという種族だ。
なので、人の気配や魔女の気配を探る事は並の人間よりも長けているはず。
そんなパスが「人の気配がない」という事は俺達がいない間に住人達が失踪した事を意味する。
マジかよ。
ヴァ二アル国を救ったと思ったら、今度はホワイトシーフ王国でもか。
休息の時間ってものを与えてくれんのな。
この世界は。
と俺は住人達の心配よりも休息が取れない可能性に肩を落とした。
「ん? あれ? 何かこっちから良い匂いが... ...」
「良い匂い? 人がいるのか?」
「いや、それはどうだか... ...。とりあえず、行ってみよう!」
パスは腕を天高く上げ、俺達を先導して町の奥______城の近くまで足を進めた。
◇ ◇ ◇
「おお! 何じゃこりゃ!?」
「すごいわね。誰がやったのかしら?」
「ほえ~。ピンク色だ~」
城の近くまで来ると町の入口とは打って変わって、城まで続くメイン通り沿いにレンガ調の家々が等間隔に立ち並んでおり、しかも、何故かレンガは薄いピンク色に塗られていた。
「ペンキで塗った訳じゃなさそうだな」
レンガに触れ、触れた部分の匂いを嗅ぐが化学物質特有の刺激臭などなく、ピンク色のレンガはほぼ無臭。
そもそも、この国に何かを塗装する技術もなければ、塗る職人もいないはず。
ゴーレム幼女だったらこのような芸当が出来たと思うが、ゴーレム幼女はもういないし。
じゃあ、一体だれがこれを... ...。
侵入者の存在にあたりを警戒している中、シルフは目を輝かせながら。
「やだ... ...。すごい可愛い」
と感嘆の声を漏らす。
おいおい。
そんな呑気な事言うなよ... ...。
住人達の心配や侵入者の存在よりもシルフは自分好みの町の外観に興味津々で「こいつ、本当にこの国の王かよ」と若干呆れてしまった。
俺の軽蔑する視線に気付いたのか、シルフは気まずそうに「ごほん」と一つ咳払いしてその場を仕切り直し。
「どうやら、部外者が私の国に紛れ込んでいるわね」
とやっと国を治める者っぽい事を言った。
「くんくんくん。みんな! こっちこっち!」
「パス! 勝手に一人で行動するなって!」
侵入者がいるとシルフが警告したにも関わらず、パスは飯にありつこうとしている野良犬のように路地に入り込み、ずんずんと先に行ってしまう。
「ああ! もう!」
「私も行くわ!」
「ホワイト! お前はとりあえず、赤ん坊とそこに待機してて! 何かあったら大声出すから来てくれ!」
「何て声出すの!?」
「あ? 適当にあー! とかうー! だよ!」
ホワイトと赤ん坊をその場に残し、俺とシルフはパスを追う為、路地の先に進んだ。
「ちょっと! 早く進みなさいよ!」
「いや、腹がつかえて... ...」
路地は何故か奥に進めば進むほど、狭くなり、健康診断で診断書に肥満と記載されるようになった俺には酷なアトラクションだった。
「しょうがないわね」
シルフは嫌々ながら俺の背中を押す。
「いたたた! シルフ! お前、足で押してるだろ!? 踵が当たってめっちゃ痛い!」
俺はMだが、痛いのは嫌い。
美少女に足で押される事に対してお金を支払ってでもやってもらいたいという特殊な趣向の持主もいると思うが俺にはそういう趣味はない。
強いて言うなら、肉体的攻撃よりも精神的な攻撃でイジメられたいものだ。
「家畜で触れられるのは馬くらいよ。あたしは豚を素手では触れられないわ」
「おまっ! ふ、ふざけんなよ!」
言葉では抵抗したが、内心、豚と呼ばれて嬉しい自分が恥ずかしくなり、発汗。
発汗した事で功を奏したのか、汗が潤滑油となって俺とシルフは狭い路地の先に進むことが出来た。
「お、あれは... ...」
路地の先には俺と同じように挟まっている小柄な赤茶色の髪を生やした少女の姿。
尻に生えた尻尾をバタバタと動かしてはいるが、豊満なバストが邪魔して先に進めなくなってしまったようだ。
「は、花島! 助けて! 動けなくなっちゃったよ~!」
「だから、先に行くなってあれ程言って______ちょ、シルフさん!? 止めてって!」
シルフは俺が邪魔でパスの存在に気付いていないのか、止める事無く、俺を押し続ける。
「あら? また、つっかえたわね」
「いたたた! 花島! ごめん! もう、勝手に行ったりしないから許して!」
「いや、俺は何も______シルフさん! ちょっと、止めてって!」
俺の腹や下腹部がパスの柔らかな部分に触れる。
滝のように流れる汗はパスにもかかり、やはり、それが潤滑油になって少しずつだが俺とパスの身体を路地の奥に進める。
「______んぎっ!? は、花島! 本当に止めて! 尻尾が擦れて変になっちゃうよ!」
そういや、魔族の尻尾は神経が集まっている箇所で相当敏感な部分だったと聞いた気がする。
俺が前に不用意に尻尾を握っただけでパスは腰を抜かしてしまったのだ。
今、尻尾は壁と俺の腹の肉に挟まれ、更に汗でヌメヌメしている。
堅いと柔らかいの二つの感触にパスは顔を歪ませる。
「ほら! さっさと行きなさいよ! この家畜!」
「か、家畜!? ひ、ひどいよ! 酷い事言うの止めてよ! 花島!」
特殊な状況で家畜と呼ばれ、パスは酷いと言いながらも身体を小刻みに揺らし、息を荒くした。
「いや、俺じゃなくてシルフだって!」
どうやら、パスは意識が混濁しているのか発言者を俺と勘違い。
俺は口は悪い方だがシルフほどではない。
俺の嫁だというのにダンナとエルフの王を間違えるのはイカンぞこれは。
「あひっいっ! は、花島! 本当、やめ______うっ!」
パスと密着し過ぎ、どういう表情をしているのか不明だが、とんでもなくイヤらしい顔をしているに違いない。
パスは気を失ってしまったのか、ビクビクと身体を揺らしながら、何も言わなくなってしまった。
「早く進みなさい!!!」
シルフはお構いなしに豚のケツをグイグイと押す。
それはまるで出荷される事に抵抗している豚を無理矢理にでも車に押し込める生産者のようだった。
「いたたた! し、シルフ! もう少しで出口っぽい!」
先に何やら光が見える。
パスが意識を取り戻したら色々と面倒だし、このまま、突き進むしか選択肢はない。
「うおおお!!!」
自身の腹を限界まで引っ込め、俺達、三人は狭い路地からやっと抜け出す事が出来た。
「うおっ! アブね!」
俺はパスを押しつぶさないように受身を取り、壁ドンもとい床ドンのような態勢で80kg弱の身体を両腕で支えた。
パスを見ると、白目になり、口からは涎をダラダラ流しながら身体をビクつかせていた。
その光景はエロいというよりも酒を飲み過ぎ、アル中ギリギリの少女のようでむしろ「大丈夫かこいつ!?」と心配という感情が先行した。
「生まれたての羊みたいね」
シルフはパスを見ると、そう一言。
いや!
お前のせいでこうなったんだからごめんの一言くらい言えよ!
と心の中で𠮟責した直後、シルフがサイコパスなんじゃないかと不安に駆られる。
「花島。あれは何?」
「あれ?」
シルフが指を指した先には木造家屋。
周囲の壁がピンク色の中で古材を利用して作られた木造家屋は逆に異質で頭の中にはクエスチョンマークが浮かんだ。
______ギイッ。
風が吹いた訳ではないにも関わらず、木製の扉は甲高い嫌な音を立てながらひとりでに開く。
「行くわよ」
「え!? マジ!? 絶対に怪しいよ!」
「知っているわ。だから、花島が先に中に入って」
「... ...うそでしょ?」
「本当」
シルフはニコリと笑顔を向け、無言の圧力をかけられた俺はトボトボと下を向きながら木造家屋まで近付くと。
「は、腹いてぇ... ...」
木造家屋の中から声が聞こえた直後、無精髭を生やした四十代くらいのオッサンが青白い顔で腹を抑えながら出てきた。
「おい! オッサン! お前、誰だ!? ここで何をしている!?」
この国は住民が少ない。
ある程度の住人の顔が割れている中でこのオッサンを見た覚えは俺にはなかった。
「あ? 何ってトイレに行って_______」
オッサンと会話をしていると見慣れた金色の髪が俺の横を通り過ぎ、あろうことか、金色の髪の持主はギシギシと音を立てる不安定な木板で出来た階段を小走りで駆け上がり、オッサンの胸元に顔を埋めた。
「マモルさん! おかえりなさい!」
シルフはまるで、恋人が戦争から戻った時のように大きな声でオッサンを出迎え、オッサンは嫌な素振りを見せる事無く、自然にシルフの頭を三回ほどポンポンと叩き、俺は気付くと完全に蚊帳の外だった。
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