第162話お母さん! 戻ってきたぜ!
______マンティコアの瞳内部______
◇ ◇ ◇
■ ■ ■
「花島。そろそろ本当にお別れだみそ」
ゴーレム幼女の小さな手がソッと俺の腕に触れる。
「... ...本当にいいのかよ」
「ああ。もう、大丈夫だみそ」
ゴーレム幼女は覚悟を決めたのだろう。
顔を上げ、ゴーレム幼女を見ると彼女は心なしか笑っていた。
「花島。お前は泣いてばかりだみそ。少しは恥じらいってものを知れみそ」
27歳の中年になりかけの俺を小馬鹿にしながらも、ゴーレム幼女は頬を伝う俺の涙を親指で力強く拭ってくれた。
ゴーレム幼女の優しさに触れた事で涙腺は崩壊し、滝のように涙が溢れ出る。
「ありがとうみそ。私の為に泣いてくれて」
「... ...」
お前!
今の状況でそれ言うの反則だろ!
普段、礼何て言わないくせにさ!
と言いたかったのだが、心臓に感情が張り付き、いつものように言葉が出なかった。
「な、名前。レインって言うんだな」
突いて出た言葉はゴーレム幼女の本当の名前だった。
「懐かしい名前みそ。その名前は捨てたから」
ゴーレム幼女と会った当初、俺は彼女の名前を聞いたことがある。
しかし、ゴーレム幼女は「ゴーレム属に名前なんてものはないみそ」と気まずそうな顔を浮かべ、名前を教えてはもらえなかった。
異世界に来た始めの方でもあり、「この世界って名前がない奴も普通にいるのかな?」と感じたが、他の連中に当然に名があり、ゴーレム幼女が名前を言う事を拒む理由が不思議でしょうがなかった。
「良い名前じゃないか。捨てるなんて勿体無いぞ」
「良い名前じゃないみそ! レインってゴーレム属の言葉で”雨”って意味らしいみそ! そんなしみったれた名前は嫌みそ!」
しみったれたか... ...。
「俺のいた世界でも雨は良くない意味に使われていた。映画とかでも悲しいシーンを盛り上げるために雨を降らせたりするしな」
「ほら、だから言ったみそ」
「俺は雨の日って好きだぞ。休みの日とかに家にいて晴れていると何処か行かないと行けないと思うだろ? でもさ、雨降っていたら外に出なくて良い理由になるじゃん」
「なるほど。だが、私はそれでもこの名前は嫌いだみそ」
「最後まで頑なだな。ゴーレム幼女は」
「これが私だみそ」
俺の言う事は全く聞かず、いつも、暴力的なゴーレム幼女は真っ直ぐな瞳で言った。
ゴーレム幼女は精神思念体と上手くやっていけるのだろうか?
我が強すぎて浮いてしまうのではないか?
「ああ! くそ!」
これで本当の別れだと思うと、再び感情がこみ上げてくる。
ゴシゴシと右手で目元を拭うが意味はなかった。
ゴーレム幼女は覚悟を決めている。
それに、シルヴィアは言っていた「私たちは死ぬのではなく、進化するのだ」と。
何も心配する事はない。
むしろ、新たな旅立ちを笑顔で見送るべきだ。
「レイン!!!」
「だから、その名前で呼ぶなみそ!」
名前を呼ばれた事でゴーレム幼女は怒りながら、困った顔をした。
「また会おう!」
「また会おう? いや、もう会えないみそ。サヨナラみそ」
「もしかしたら、またどこかで会えるかもしれないだろ?」
「どこかって何処だみそ?」
「分からん! ただ、サヨナラってのは何か嫌だ!」
サヨナラって言葉は何か
また会おうくらいが俺には丁度いい。
「... ...わかったみそ。じゃあ、また会おうな花島」
やり取りが面倒になったのか?
ゴーレム幼女がすんなりと俺の意見を聞き入れた。
「おう。じゃあ、また」
涙で瞳が濡れるように視界がぼやけ、ゴーレム幼女は俺の前から姿を消した。
◇ ◇ ◇
______ヴァ二アル国______
「... ...くらっ」
白い世界から一転。
目を開けるとそこは暗闇だった。
おいおい。
白の次は黒ってこの世界どんだけ色のバリエーション無いんだよ。
とお粗末な世界設定をぼやいていると世界にヒビが入り、暗闇に光が差し込んだ。
「眩し!」
暗闇からいきなり光がある所に行くと眩しくて目が開けていられない。
俺は瞬時に目を閉じ、目が光に慣れるまで待ち、数秒経ってから目を開けると足元に岩で出来た蛇が地面を這っていた。
「こいつは... ...」
確か、ゴーレム幼女の能力で作り出した岩の蛇だ。
「俺を守ってくれていたのか?」
周囲を見渡すと意識を失う前の景色と若干変わっており、崩れていなかった建物が崩れていた。
恐らく、暴走したゴーレム幼女と誰かが戦闘したものだと思われる。
そして、この岩の蛇は俺の身体が傷つかないように俺を守ってくれていたに違いない。
「ありがとう」
能力で作り出した蛇には感情のようなものはない。
礼を言う必要など無いのだが、俺はその蛇にゴーレム幼女の姿を重ねてしまい、感謝の言葉が自然と出た。
蛇の背中に向かい礼を言うと、役目を果たしたかのように蛇は岩と砂の間に潜り込んで姿を消した。
さて、ここからどうしたものか。
周囲を見渡すと西の空にピンク色の穴が大きく開いていることに気が付いた。
ピンク色の穴はまるで渦のように周囲の雲を吸いこんでいるようにも見える。
「とりあえず、あそこに行けばいいのか?」
周りは瓦礫の山で人の気配がなく、ここにジッとしていても意味はない。
シルフとかも探さないといけないし、まあ、あそこの下に行けば何かあるだろう。
「腰いたっ」
俺は身体に鞭を入れ、ピンク色の渦の下に向かった。
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