第127話お母さん! 第五回戦は3ON3!⑨

「___た、タイム!!!」


 ベンチのシルフはここですかさず、タイムを申請。

 それは無事に受理され、ベンチに戻ると事態の深刻さを理解していたシルフは作戦ボード椅子の上に置き。


「まずったわね。予定していたよりも魔法を使うのが早い」


 ミーレやレミー、ゴーレム幼女ほどの魔力は持たないが、シルフも魔力を持つ者。

 ミーレが魔法を使った事は肌で感じたに違いない。


「ああ。あいつら、第三ピリオドを天王山としたらしいな」


 ヴァ二アルから渡されたタオルで俺は汗を拭いながら答える。


「第三ピリオドで決着? 第四ピリオドはやらないの?」


 そういえば、ホワイトにバスケのルールは教えていたが3ON3の特殊ルールについては教えていなかったな。

 バスケと殆ど一緒だが、3ON3では勝敗の付け方が少し違う。

 俺がホワイトに伝えようとすると、代わりに天音が口を開いた。


「3ON3ではどちらか一方が21点目を入れた瞬間に試合が終了するのよ」


 そう。

 3ON3はストリートバスケと長年言われており、競技性を持たす為か近年名称が変わった。

 ストリートバスケとは公園などにあるコートとリングを使用し、その場、その場で集まった者がチームを作り、試合をする。

 なので、少しでも回転率を良くする為にコールド制が採用されている。


「へえ~。じゃあ、私達はあと、5点決めて、向こうは6点決めれば終わるのかー。でも、試合時間残り少ないよ?」


 ホワイトの言う通り、第三ピリオドの試合時間は残り1分半。

 現実的には1分半で6点決めるなんて2Pシュートを三連続で決めないと... ...。


「... ...あいつら、2Pシュートで追い付く気なのか?」


 俺の予想にシルフが眉をピクリと動かす。


「まあ、さっきの逆でリングを大きくすればセンターラインを越えなくても2Pシュートを打てるでしょうね」


「... ...」

「... ...」

「... ...」


 シルフの発言で固まる一同。


「で、でも、魔法はこちらも使える! 相手は一度使った! 私達はまだ一度も使ってないわ!」


 天音の発言は正しい。

 ハンヌ側は魔法の使用回数においてはビハインドがある。


「いいえ。使用回数においては一緒よ。ハンヌ側は残り2回。こちら側も同じく2回よ」


 シルフは格好つけてなのか、人差し指と中指でピースするのではなく、親指と人差し指で三角形を作る。


「___二回!? どうして!?」


「ええ。どうやら、ヴァ二アルの体液を用いて身体強化を行った事が”能力の使用”と見られたみたい。さっき、審判の人から言われたのよ」


 まあ、驚く事でもないか... ...。

 分かりやすいくらいに俺達の身体機能は大幅に上昇したからな。

 俺も含めて二人も多少、姿形が変わったし。

 っうか、俺の第二ピリオドでトムに使った幻術は”能力使用”と気付かれてないのはラッキーだ。

 これもセバスの力の内なのかな??

 まあ、バレたら面倒だからシルフ達にも黙っておこう。


「そうか。状況は理解した。相手は何かしらの手段で2Pシュートを二回打ってくる。それを止める為にこちらも魔法か能力を使うか? それとも、2P×2は許すとして、こちらの得点の為に利用するか?」


 才蔵は包帯で全身がグルグル巻きのくせに何か指導者っぽい口ぶり。

 天音へのプロポーズが成功したことで調子に乗っているのは間違いない。


「そんなの、攻めるに決まっているでしょう?」


 自信満々なシルフの発言に体中の血がふつふつとたぎってきた。

 そうだよな!

 ここまで来て、弱気はダメだ!

 強気で行かなくちゃ!

 それはみんな同じような気持でシルフの発言を否定する者はいなかった。


「花島。そういえば、試合前にやっていた”あれ”ってどうやるんだっけ?」


 潔癖症であるシルフが俺に円陣を提案してくるのには驚いた。

 しかし、彼女も気持ちが高ぶっているのだろう。

 澄んだ湖のような美しい瞳は真っ赤に燃え滾っており、シルフの背後には炎のエフェクトが見える。


「ああ。皆で肩を組んで、円陣を作る。そんで、掛け声をかける」


「まあ、かけ声はあんたに任せるわ」


 そう言うとシルフは率先して俺の肩に手を回す。

 汗を掻いていて、先程よりも気持ち悪さが増しているのに肩を組みにくるなんて驚きだった。


 シルフに続いて、他も続く。


「よし! 王位継承戦もみんなのおかげでここまで来た! こうやって、みんなと一致団結して戦った事は俺の大切な思い出だ。皆にもそうであって欲しい。勝つ事も大切だけど、先ずはこの試合を楽しもう!」


「ばかね。勝たなきゃ楽しくないじゃない」


 シルフのツッコミに笑いが零れる。


「うん。まあ、そうなんだけどね。俺もこういうの慣れてないからさ」


「まあ、いいわ。早く掛け声をかけなさい」


 シルフは俺をそう急かした。

 そして、俺は深呼吸し。


「よっしゃ! 行くぞー!!!」


「おー!!!」

「おー!!!」

「おー!!!」


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