第123話お母さん! 第五回戦は3ON3!⑤

 ■ ■ ■


 得点板には9:3と表示され、ハンヌ陣営の優勢は変わらないものだった。


「HAHAHA! ノープロブレム!」


「トム! あんたは気にしろ!」


 得点を取られた事に反省の色を見せないトムに対して乱暴な言葉を投げる鈴音。


「まあまあ、鈴音ももっと楽しもうよ!」


「あなたも簡単に裏を取られないで! オフェンスだけ出来ればいいってものじゃないのよ!」


「... ...ごめん」


 険悪な雰囲気を変えようとミーレが二人の間に入ったのだが、ミーレも鈴音の気迫に圧倒され、𠮟られた犬のように下を向く。

 見るからに天音は焦っていた。

 それは花島が出した能力がどういったものなのか分からなかったからだ。

 能力が分からなければ次に使われた際に対策が出来ない。

 彼女は水面を揺らすような焦燥感を漂わせる。


 □ □ □


 ____ピー!!!!


 第二ピリオド終了の合図が場内を包む。


「ちっ! あんたらがトロイからよ!」


 鈴音は自陣に戻るといの一番に得点板を指さし、まるで、奴隷に浴びせるかのようなキツイ口調でチームメイトを非難した。

 得点板には12:10と記載されている。


「ごめん... ...。でもさ、あいつらとんでもなく速いよ。それに強い。まるで、全体の能力が底上げされたみたい。こっちも何かしら対策した方が... ...」


「___そんなの誰だって分かるわよ! いい!? あなた達は私の指示通りに動けばいいの! 勝手な行動はしないで!」


「す、鈴音... ...」


「... ...」


 自らの主であるハンヌが心配した様子で鈴音を見るが、焦りから鈴音はそれに気付くことがない。

 それだけ、鈴音の心はかき乱されていたのだ。

 能力が分からないだけでこんなにも人の心は乱れるのか?

 普段の鈴音ならそれしきの事で焦る事はない。

 今回はイレギュラーな事が不運にも重なったのだ。


 一つはルールの変更。

 能力と魔法を無制限に使えるはずが、回数制限がかかり、自分が立てていた作戦を直前になって変更せざるを得なくなった。


 二つ目は天音の裏切り。


 そして、三つ目。

 それは花島達の登場だ。


 本来、パス陣営はヴァ二アル・パスと忍者衆で構成されるはずだった。

 しかし、パス陣営には正体不明の助っ人が参戦している。

 花島達については何の情報も得られていない。

 一つ一つは大したことではない。

 だが、それが三つも重なった事で鈴音の精神をかき乱すまでに至る。


「鈴音! 何を遊んでいるのか候?」


 上司である半袖丸に恫喝され、身体を強張らせる鈴音。


「す、すみません。か、必ず勝ちます... ...」


 鈴音の言葉を不敵な笑みで返す半袖丸。

 半袖丸には野望がある。

 それは、ハンヌを王に据え、実質、ヴァ二アル国を自身が統治し、将来的には自身が玉座に座るというものだ。

 その第一歩でもある王位継承戦。

 これに勝利するのは野望を実現する為の絶対条件でもある。


「鈴音。焦るなで候。じきに奴らのメッキも剝がれる」


 半袖丸は氷の中の住人のように微笑した。


 □ □ □


「よし! 勝てるぞ!」


「ええ! これならいける!」


 ハンヌ陣営とは打って変わり、パス陣営は熱気に包まれていた。

 花島:2点

 天音:3点

 ホワイト:5点


 やはり、身長の高さは大きなアドバンテージであり、第二ピリオドはホワイトのセンタープレーが光り、点差を一気に縮めた。


「これならもしかすると... ...。もしかするかもね!」


 ヴァ二アルは笑顔で花島の背中を叩く。


 ____ポン!


「ん?」


 ヴァ二アルに背中を叩かれた瞬間、花島のチリチリだった髪の毛は元の剛毛短髪に何故か戻る。


「髪が元に戻った!」


 ヴァ二アルは見たままの事をそのまま口にする。

 それを聞き、花島は髪に手を伸ばす。


「... ...本当だ。結構、あの髪型気に入ってたんだけど... ...」


 花島は髪を触りながらしんみりとした表情を浮かべる。


 ____ピー!!!


 第三ピリオド開始の合図が鳴り、花島達は身支度を整えてコートに再び足を踏み入れる。


「... ...」


 走っていく花島の頭部を見ながらきな臭い顔をシルフはしていた。











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