第124話お母さん! 第五回戦は3ON3!⑥
「ホワイト!」
「うん!」
____がごっ!
花島から受けたパスをゴールリングよりも上で受け、それをそのまま叩き込み、ネットを揺らす。
あまりの力強さにリングはゴールした後もしばらく揺れていた。
「よし! いいぞ!」
「何か、バスケって楽しいかも!」
ホワイトは走りながら花島に満面の笑みを見せた。
「sorry... ...。鈴音」
「... ...ちっ!」
トムが謝るが鈴音は舌打ちをし、爪を噛む。
鈴音が得点板を見ると15:15の同点となっていた。
「____タイム!」
半袖丸は審判にタイムを指示。
この試合では双方、試合中に好きな時に一度だけタイムを取る事が出来る。
そして、パス陣営が得点し、ハンヌ陣営にオフェンスターンが移行した際に審判は笛を一度鳴らした。
「... ...はあはあ」
鈴音は肩で息をしている。
トムやミーレも同様だ。
「鈴音? あいつらは強いかで候?」
半袖丸は穏やかな表情で語りかける。
それを気味が悪いと感じたのか、鈴音は一瞬、言葉に詰まった。
「... ...い、いえ、そんなことは必ず私が勝ちます」
半袖丸はうんうんと首を縦に振り、まるで、小さな子と話すようだった。
「必ずな。必ずで候」
細い目から見える鋭い眼光に鈴音は試合で掻いた汗とは別の汗を掻く。
「は、はい」
「ところで君たち。彼らの変化に何か気付かないかい?」
半袖丸は、ハンヌから差し出された木製のカップに入った水を啜るミーレやトム、鈴音に向けて指導者のような素振りで質問をする。
「what? 特に何も」
「あたしも全然分からないや」
「... ...すいません。分かりません」
半袖丸はうんうんと再び、首振り人形のように首を上下に動かす。
「運動量が少しだけど落ちているわ」
試合中、仲間の事を応援せずにずっと本を読んでいたレミーは足を組み、片手で本を読みながらボソッと答える。
「低下するのは当たり前だろ」
レミーの回答に敵意を向けるように鈴音は言葉を吐いた。
「いやあ。流石、魔女。ご名答で候」
鈴音の言葉とは逆に半袖丸は感嘆の声を上げる。
鈴音にはそれが気に食わなかったのか、唾を吐くように舌打ちをした。
「ミーレ? あんたも何も気付かないの?」
「え? 何が?」
「ふう... ...。あんたはホントに鈍いっいうか... ...」
「だから何なの!」
レミーは本を閉じ、気怠そうに言葉の真意を説明する。
「あいつらから若干の魔力を感じる。恐らく、一時的に魔力を得て、それで身体機能が大幅に上昇したんだよ」
レミーは何故、こんな簡単な事も分からないのかと。
自身の鈍感な妹にため息をついた。
「魔力を得た!? どうやって!?」
鈴音は跳ねるように驚いた。
それだけ、魔力を得るという事は特異なこと。
魔女でもない生物が禁忌の力に触れれば身を亡ぼすと長年、世界の常識であった。
それをあっさりと否定するような事を平然と言われれば無理もない。
「... ...うるさっ。理由はこちらの王子がよくご存じじゃない? あたしは人前で喋るのは苦手なのよ」
「ハンヌ様が?」
一同、ハンヌを注視し、ハンヌも覚悟を決めたのか、長年閉ざされた扉を開けるように口を開く。
「実は... ...。パスは僕とも父さんとも血は繋がってないんだ」
「____!?」
鈴音は驚嘆する。
「え? だから何なの?」
事情を全く把握していないミーレはアホ面でハンヌに尋ねる。
「ミーレさん。つまり、僕とパスは本当の兄弟じゃない。パスは産まれて間もない頃にロストの村近くの谷底で発見されたんだ」
神妙な面持ちで語るハンヌに対して、ミーレは。
「ほお~。それは凄い」
と場違いな相槌を打った。
「しかし、どうしてそれを今まで黙って... ...。どうして、国王はそんな子をわざわざ自分の子にしたのですか? それと、それが魔力と何の関係が?」
この国の外れにはロストの村という親に捨てられた身寄りのない子供たちが劣悪な環境で共同生活を送っている集落がある。
望まれない形で生まれた我が子をまるで犬や猫のように捨てる事にこの世界の人間は抵抗がない。
むしろ、わが手で殺すくらいなら、捨てた方が罪悪感が少なく、姥捨て山のようにロストの村を利用していた。
捨てる神あれば拾う神あり。
ということわざがあるが、国からこの村に訪れる人間にはそんな人間は居らず、捨てる事しかない。
そんな宗教や倫理観もないような村近くに捨てられた子を大国の長が拾い、自身の子として育てたのだ。
鈴音が驚くのも当然である。
「それは僕も分からない。僕だってつい最近までこの事実を知らされていなかった。父さんがいなくなる3日前に聞かされたことだ... ...」
ハンヌの言葉から虚偽は感じられない。
「ただ、その事が花島達に魔力を与えた根本的な原因ではないよね?」
何となく、話の大筋について行けているミーレはハンヌの次の発言を急かした。
「ええ。血がつながっていないのは前置きというか、父さんはもう一つ、僕に話した事があります。それは、パスが人間ではないということ」
「人間でない? 獣人か何かですか?」
「いや、違う。パスはどうやら魔族らしいんだ」
ハンヌの発言で再び、周囲の空気が凍りつく。
「___!? 魔族... ...」
「oh... ...my god」
「ほお~。魔族なんて200年ぶりか? 絶滅したと思った」
鈴音はミーレの発言を聞き、彼女を二度見。
しかし、余計なことを他に考えたくなかったか、ミーレの言葉を聞き返す事はしなかった。
「魔族ってのはね。魔法を使う訳じゃあないが、魔力を糧として生きている。魔力吸収なる変な能力を持っているような奴らの”略称”さ。恐らく、何らかの方法で一時的に魔力を与えたのかもね」
レミーが本を片手にハンヌの発言を補う。
レミーが言った通り、厳密には”魔族”という種族はこの世界に存在しない。
エルフやゴーレム、巨人、リザードマンといった種族の中から魔力に関する能力を持つ者を”魔族”と言うだけだ。
この世界では魔族は忌み嫌われている。
何故なら、魔力に関する能力者の登場は膨大な魔力を持つ魔女の出現の予兆とされているからだ。
圧倒的な力を持つ魔女1人の力は数万の兵士と同等とされており、この世界の歴史書の中でも魔女は破壊の象徴とされている。
だが、鈴音やハンヌや半袖丸もミーレやレミーの素性を知ってもそこまで怖がる素振りを見せていない。
「歴史上、魔女は恐れられる存在だった」
と現代の人々は認識しており、空想上の生き物と対峙するかのようでどこか夢見心地なのだろう。
まして、歴史の本に描かれていた魔女は恐ろしいビジュアルでどうみても人間には見えない。
しかし、目の前の”魔女”は人の形をしており、会話も出来る。
魔女は大変、珍しいのだが、目撃事例などは耳にする。
それも、人の形をしており、人と同じ食べ物を食べ、笑い、泣いた。
と悪い噂を聞いた事がない。
日本でいう座敷童などの妖怪と似たような感覚をこの時代の住民の大半は魔女に対して持っているが、諸悪の根源と考えている者も当然にいる。
どちらにせよ、魔女は歓迎されるような存在ではない。
「くくく... ...」
半袖丸は笑いを堪えきれずに口から漏らす。
「... ...? そんなに私は面白い事を言ったかい?」
レミーは半袖丸に意地悪に言った。
「失礼。もう、勝利を確信してしまって... ...。くくく」
「うげえ。ヤラシイ笑い方」
半袖丸は普段、笑う事は少ないのか、不気味な笑い方をし、ミーレは引いているようだ。
「失礼。まあ、とりあえず、鈴音。全力であいつらを倒すで候」
半袖丸は口元を拭い、鈴音にそう声を掛ける。
「... ...必ずや王をハンヌ様にしてみます」
鈴音は曇りのない瞳で相手陣営にいる天音を見やる。
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