第113話お母さん! 第二回戦は大喜利!②

 観客達は地鳴りのような笑い声を上げ、審査員達は三枚の札を一斉に挙げた。


「HAHAHA! どうした!? 答えられなかったじゃないか!」


「しょうがないだろ。お前が一発で決めちまったんだから」


 一問目は答える隙なく、トムが先取。

 人気者は笑いの瞬発力が違った。

 ただ、分かった事もある。


 お題があり、それにいかに面白い回答が出来るかの大喜利形式。

 案の定、少年と成人女性は一発目で札を挙げてきた。

 誤算だったのはこちら側に加担して貰えると思った髭婆さんがゲラだったこと。

 恐らく、こいつはどんなボケにも笑ってしまう。

 また、少年や女性も観客の反応を伺ってから札を挙げていたのでそんなにあからさまに不正は出来ない様子だ。


「HAHAHA! どうした!? オシッコでもちびったかボーイ? ちゃんとオムツ履いてきたか?」


 ウケた事によって気持ちが高揚しているのかトムは饒舌に、ジェスチャーを交え、対戦相手である俺をなじる。


「持って来てない。持ってるなら貸してくれ」


「oh! 冗談に決まってるだろ? 笑わせるなら試合で笑わせてくれ」


 俺も冗談で返したんだけど... ...。

 やはり、外国人のジョークってやつは難しいな。

 あ、こいつ、異世界人だったわ。


「第2問! ある宝石商が仕入れた宝石が全く売れなかった! どうして?」


 司会は紙に書かれたお題を読み上げる。

 先程はトムに先制点をくれてやったが今度こそ俺がポイントを取らなくては... ...。


「はい! 店主が指にはめながら商品を説明してたから!」


 観客達からはクスクスと笑い声が零れるがポイントに繋がるようなものではない。

 しかも、これは俺への笑いというか、「ぶほほほ!」と外車のエンジン音のような奇妙な笑い声をあげる髭婆さんに釣られて笑っているようだった。


「HAHAHA! ボーイ! 度胸あるね! この状況で発言するなんてさ! 俺が君だったらこの場から泣きながら逃げてるよ!」


 トムは俺をバカにする。

 別に恥ずかしいとか、悔しいなどとは思わない。

 強心臓で助かった。


 ウケないのは想定の範囲内。

 勝負事の世界では全てではないが先攻よりも後攻の方が有利だとされている。

 相手の出方や審査員の反応を見れるのがそう言われる所以ゆえんだろう。


 大喜利においては後攻よりも先攻有利とされており、短期決戦なら尚更。

 先攻である程度の方向性を決める事が出来る。

 俺は正攻法の日本流お笑いという流れを作った。


 そして、手を挙げるトム。


「HAHAHA! それは店主の入れていた箱がバリバブ製だったから」


 バリ?

 何て?


 意味が分からない単語にクエスチョンマークを浮かべている中、トムは観客の笑いを掻っ攫う。


 ... ...しまった。

 これはご当地ネタみたいなものか。

 渡来人である俺にはない知識だ。

 ... ...本当に勝ち目がないかもしれない。


 ___が、予想に反し、審査員の女性の札が上がることはなかった。


「おーっと! 審査員の札は上がらず! 面白かったんですけどねー」


 これはあくまでも憶測に過ぎないが先程、あからさまに札を挙げた事で誰かから釘を刺されたのかもしれない。

 となると、札を上げるタイミングとしてはある程度は審査員の裁量に任せているのでは?

 と一つの仮説が立った。


「はい! 米粒が異常に付着してたから!」


 うん。

 やはり、これもヤヤウケ。

 まぁ、自信がある訳ではないが、これでは勝負にならないぞ。


「ぶほほほ!」


 髭婆さんの声に釣られて笑う観衆。

 キャラクターというのは笑いにおいて重要なパーセンテージを占める。

 髭婆さんの風貌や笑い方はウケる要素があるのだろう。


 そして、次に回答したトムは民衆の笑いと共に二勝目をもぎとった。


「花島! もういい! ここは相手のホームだ! 勝てる訳ない!」


 心配したヴァニアルは声を上げる。


「HAHAHA! 仲間からもああ言われてるぞ! 降参するかい?」


「うーん。まだ、やってみるよ」



 ◆ ◆ ◆



「まだ、やってみる」

 確証はないが花島は何となく次戦は勝てる見込みがあった。

 それはどんなお題でも良かった。


 ____先攻を取ること。


 花島はそこに全てを集中した。


「では、これを落としたらパス陣営の花島選手は負けてしまいます! 頑張ってください!」


「HAHAHA! がんばりたまえ!」


 腕を組み、強者の佇まいのトム・リー。

 ここは彼のホームグラウンド&既に二勝というアドバンテージがあり、そして、審査員の二人はハンヌ陣営が根回しをした人物。


 花島の予想は当たっていた。

 審査員の二人はハンヌ陣営側だということ。

 手配したのはハンヌ陣営の黒幕で、嫌がるハンヌを王に置こうとしている半袖丸はんそでまるだった。


 ハンヌが王に即位すれば実質、半袖丸が政権の実権を握る。

 彼は貴族出身のエリートコースを歩んできた。

 現在は王子の護衛達のリーダーとしての地位を確立し、出世街道まっしぐら。

 将来、ハンヌが王に即位すれば半袖丸は参謀長としての席が用意され、傍から見れば輝かしい経歴である。


 しかし、半袖丸はそこをゴールとしていない。


 彼は野心家だ。

 エリート街道を進んできた半袖丸が国としての最高権威であり、国の象徴でもある王に自身がなる。

 と思うのは必然だった。


 彼は力こそは才蔵達に劣るが策略家で尚且つズル賢かった。

 パス陣営であるトムを誘拐し、洗脳。

 自らの陣営に率いれ、国の何人かの役人も買収し、王位継承戦の試合内容などを自らに有利なように仕組んだ。


 ただ、ニ点、彼の誤算もあった。

 一つ目はそれはホワイトシーフ王国の参入。

 実力や素性も知らない存在との闘いは彼にとって恐怖しかない。


 二つ目は髭婆さんの存在。

 本来、回答者は三人全てがハンヌ陣営側になるはずだったが何かの手違いで謎の人物が座っている。

 そして、それは作戦の綻びに繋がり、違和感を感じ取った花島にハンヌ陣営の企てを勘付かれてしまった。


 ただ、もう、そんな事はどうでも良い。

 第一回戦こそは落としてしまったが第二回戦の勝利はほぼ手中にある。

 そして、第二回戦を勝利すれば第三回、第四回戦は確実に勝てる試合だったからだ。

 むしろ、不正の臭いを消す為に第一回戦を落とした事は結果的に幸運だったとさえ考えていた。


「では、第三問! お魚咥えたドラ猫ってどんな猫?」


 司会がお題を読み上げる。

 それに瞬時に反応したのはパス陣営である花島だった。


「HAHAHA! 勇気だけは認めてやるよ!」


 トムは慢心していた。

 それは確実に花島が自分より下等な存在だと思っていたから。

 事実、花島はトムよりもこの場だと劣っている。

 だが、それはトムが面白いというのではなく、それは作られた面白さだと花島は見抜いていた。

 確固たる自信があった訳ではない。

 パーセンテージで言えば50%よりも低いもの。

 花島はここで賭けに出たのだった。


「はい! その髭を生やした爺さんみたいな婆さんのような猫!」


 花島は勢い良く髭婆さんを指さす。


「... ...」

「... ...」

「... ...」


 静まり返る場内。

 ダメか... ...。

 花島は諦めたような表情をした。

 しかし、一瞬の沈黙の後、救世主の言葉で会場には大きな笑いが起きる。


「ちょっと~! 酷いじゃない~! ぶほほほ!」


「E!? なんだ!? この笑いは!?」


「す・凄い! こんなに... ...!」


 半袖丸が解答した時よりも大きく、岸壁に打ち付ける波のように笑いが押し寄せた。


「ふう... ...。助けられたな、髭婆さんに」


「YOU! 何をした!?」


「何もしてないよ。だから、ウケたんだ」


「WHAT!?」


 花島は使ったのだ。

 バラエティ番組などで使うという技法を。


 世の中には人を笑わせようと自身が意図していなくとも何故か人に笑われる人間というものが存在する。

 それは、風貌だったり、言動だったり、一般人とは一線を画す何かがあるのだ。

 花島は自身の発言はこの観客達のツボを押さえていないと早々に悟り、作戦を変更。


 観客たちは髭婆さんの一挙手一投足を見ようとお題がない時も自然と見たこともない生物を目で追っていた。

 それはこの国で髭婆さんという存在がという表れだった。

 後は簡単、髭婆さんに行動なり、発言なりを行うように誘導してやれば良い。


 そうすれば自然と札が上がる状況を作れると花島は確信していた。


「NO!!! なんで、あんな婆さんに!」


「何で? それが分かったら苦労しねぇよ」


 髭婆さんは勿論、札を挙げ、少年や女性も観客達の反応を見て札を挙げざる得なかった。


 そして、初めて、花島の回答の後に三枚の札が上がる。


「これは凄い! 完全アウェーかと思われていたにも関わらず、花島選手が一勝をもぎとった!!!」


 司会の熱の入った実況にさらに湧く観客達。


「やった! 花島が一勝取った!」

「あのトムから一勝... ...」


 パス陣営もまさか、花島が一勝出来るとは思っていなかったのか、大きく口を開けて唖然とした様子。

 それは、敵陣営も同じ反応だった。


「HAHAHA! 記念になったね!」


 慌てた様子も見せずにトムは花島に手向けの言葉を送る。


「まぐれ? なるほど。お前はそう思うんだな」


「what!?」


「いや、そう思ってくれるなら俺の勝てる確率も上がったなと思って」


「勝てる!? youが!?」


 トムは腹を抑えて大袈裟に笑う。

 花島はそれを横目に不敵な笑みを浮かべた。


「さあ! 続いて! まさかの4問目! 花島選手が並ぶか!? それとも、トム選手が勝利するか!」


 会場全員がこの4問目が天王山だと思っていただろう。

 しかし、花島にとっての天王山はまだ先であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る