第112話お母さん! 第二回戦は大喜利!

「勝てる戦いであった!」


 半袖丸はゲロを吐いたミーレを気遣うことなく、帰ってきたミーレにそんな言葉をかけた。


「ミーレ? 大丈夫かい? これでも飲みたまえ」


 ハンヌは気を回して白湯を頼んでいたらしく、それをグロッキーな様子でレミーの肩を借りているミーレに手渡すのが遠めから見えた。


「花島? どうした?」


「え? あぁ、王子なのに気がきくなって思って」


「それがハンヌ王子の魅力だ。支持する人間も多い、ただ、王というのに優しさは不要だ」


 天音はキツイ言葉でハンヌの行いを一蹴した。

 王というものは国の象徴でもある。

 天音達は王に優しさは必要がないと断言するが、そうなのだろうか?

 観客達を見てもハンヌ陣営を応援している方が明らかに多い。

 国民と政府側の考え方が違うのはどこの世界でも一緒なのだと考えされられた。


「才蔵は大丈夫なの?」


 戻ってきた天音に才蔵の容体を聞くヴァニアル。

 才蔵は肋骨がぐちゃぐちゃになっていたのと、ゲロまみれだったので医務室に運ばれていった。


「分かりません... ...」


「分からない... ...。王位継承戦は死人も怪我人も出ない健全な戦いだったはずなのに......」


 いや、相手は何もしてないからね。

 完全に才蔵の一人相撲だったから。


「次はハードな戦いの後には少しマイルドな戦い! 笑いを制するものは試合にも制す! 王の側近にはコミュニケーション能力も必要不可欠だ!」


 メイドから紙のようなものを貰い、それを読み上げる司会者。

 恐らく、メイドが持ってくるあの紙に対戦内容が書かれているのだろう。

 それより、あの司会者。

 試合の中で確実に実況が上手くなってるぞ。


「第2回戦はお笑い対決だ!」


 お笑い対決?

 異世界でもお笑いって文化あるの?


「お笑いに強い人間この中にいる?」


 見渡しても誰も手を挙げない。

 まぁ、そりゃそうか。

 誰だって僕、面白いです。

 というのは気が引けるわな。


「こういうのは才蔵が得意だったんですが、私達はお笑いには疎くて... ...」


 才蔵ってお笑い得意なのか。

 まぁ、骨バキバキになった上にゲロまみれになるなんて面白すぎるか。


 些か、荷が重く感じるがここは致し方ない... ...。


「じゃあ、俺、行くか?」


「花島が? お笑い出来るの?」


 ヴァニアルは結婚相手がド滑りするのが目に見えていて不安なのだろう。


「出来ない。ただ、俺はバラエティ黄金期である時代で生まれ育った。それが染み付いている事を願うしかない」


 気持ちは徴兵を受けた民間人のようだ。

 文字通り、国の為に散ってこよう。


「まぁ、期待してないから早く行ってきな___うっ!」


 先程、ゲロを吐いたシルフはまだ体調が悪く、座りながらも軽くゲロを吐く。


「ホワイト。ゴーレム幼女の体調が今より悪化したら医務室に連れて行ってくれ。最悪、ゴーレム幼女ナシで行くかもしれない」


「う、うん。花島も頑張って」


 先程からゴーレム幼女はただただうな垂れており、意識も朦朧としている。

 今にでも医務室に運ぶべきだとは思うのだがこれからどんな戦いになるかは分からない。

 戦力であるゴーレム幼女には少しでも休息を取らせたい。


「じゃあ、行ってくる」


「ご武運を... ...」


 皆んなに見送られながら俺は闘技場の中央に足を進めた。

 すると、既にハンヌ側陣営にいた黒マントの奴がそこにいた。


「早々に出場者が決まってお前らのチームは役者が揃っているな」


「... ...」


 お笑い対決だというのに巧みな返しをするどころか、返答すらしない。

 なんだこいつ、元引き籠りか?


「勝負は簡単! 5問中3問奪取で勝利だ! また、審査員はこの会場から選ばれたこの三人にやっていただきましょう! この三人が面白かったら札を挙げ、全て挙がり切ったら勝利となります!」


 5問中3問... ...。

 という事は漫才のような形式ではなく、大喜利のようなものか?

 大喜利だとしたらまだ勝算はあるかもしれない。


 テーブルと簡易的な椅子に三名が座っており、見慣れたシルエットがそこにはあった。


「ん? あれ?」


 会場から無作為に選ばれたという人間は小学生くらいの少年と成人女性、そして、何故か髭婆さん。


「ぶほほほ! 楽しみねぇー!」


 独特な笑い方をする謎の生き物に少年と成人女性は引いたのか、分かりやすく距離を取った。


 審査員にこちらの知り合いがいるというのは僥倖。

 この試合、もしかしたら... ...。


「HAHAHA!」


 若干の光が差したかと思うと黒マントの男が高笑いし始める。

 笑いどころあった?


「この笑い方は!?」

「まさか!?」


 突然の笑い声にウチの忍者衆が反応。

 笑った後はお決まりのように黒いマント男はマントを脱いで正体を現した。


「HAHAHA! こんな冴えない男が僕の対戦相手だって? これは何かのジョークだろ?」


 金髪に白い肌、高い鼻。

 この国ではあまりみない風貌でまるで偽物の外国人みたいな喋り方で寿司ざんまいポーズをしている。


「なんかだせぇ... ...」


 だが、俺のマイナスな印象とは違い、変な外人の登場で観客達は最高潮に盛り上がった。

 あれ? 姿出しただけなのに何だ?


「おーっと! これは意外な人物の登場だ! 知らない方はいないかもしれない! この国ではお馴染みのトップスター! トム・リーだ!」


 司会者の声と観客達の声援に右手を挙げるトム・リー。

 何か聞いた事ある名前だ。


「トム!? 何故、お前がハンヌ側に付いているんだ!?」


 あぁ、そうか。

 あいつは伊達の弟のトムか。

 そういや、エイデンが化けていたのはそんな姿だったな。


「HAHAHA! 兄さん。強者に付くのは当たり前だろ?」


「お前______!」


 伊達は初めて感情を露わにし、唇を噛み締める。


 それにしても、これは分が悪い。

 お笑いにおいて知名度というのは実力以上に重要だと言える。

 素人同然でこの国での知名度も全くない俺が対戦する相手としては最悪だ。

 これは負け戦だな。


「では! これより第2回戦! お笑い対決の開戦です!」


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