第22話お母さん! 異世界に水洗トイレを作る!⑤

 俺はご飯が出来たのを知らせるヒキニートの母親のように慎重に波風立てずに優しくドアをノック。

 しかし、ヒキニートからの反応はなく、せっかちな俺は扉を無理矢理開ける。


 ガチャ。


「あ、開いた... ...」


 扉が思ったより簡単に開き、魔法少女は着替え中だったようで彼女のムチムチした肉体が俺の目に飛び込んできた。

 というのは嘘だ。



 普通にベッドに横になっていた。

 俺が来たことに反応しない様子を見るとどうやら熟睡しているようだ。

 しかし、眠りにつくのが早いこと。

 こいつ、ショートスリーパーかよ。


 女の子の臭いが充満する部屋が特に好きという訳ではないが、何かの時に必要になるかもしれないので持っていたビニール袋にその部屋の空気と夢を詰め込むことにした。


 さて、冗談はさておき本題に戻ろう。


 俺はそっぽ向いてしまった魔法少女に優しい口調で話しかける。


「さっきはごめんな... ...。俺、自分の事ばかりでお前の気持ち考えてなかった」


「... ...」

 

 魔法少女からの反応はない。


「普通、自分のケツにキスされたら誰だってトラウマになるよな... ...」


「... ...」


「いいんだ。今回の水洗トイレを作る計画は白紙に戻そう。いや、水に流そう... ...。トイレだけに... ...。」


「... ...」


 魔法少女は親父ギャグも一向に無視し続ける。

 何だろう... ...。

 段々とイライラしてきたぞ。


「ねえ? 魔法少女さんどう思う?」


「... ...」


「あのさあ、こっちが反省してるんだから返事くらいはしてよ」


「いいから出て行って」


 こちらを見る事なく、不貞腐れた声でボソボソと喋る魔法少女。

 こっちがお前に歩み寄っているのにその態度なに?

 さすがの俺も文句を抑えきれなかった。


「いや、まあ、言われなくても出て行くけどね」


 と、据えていた腰を上げようとすると。


「じゃあ、早く出て行って。お前、顔面のニキビが膿んできて気持ち悪いんだよ」


 ____プチン。

 

 頭の中で理性と心を繋いでいた糸が千切れる音がした。


「あのさあ、こっちが謝ってるのにその態度はどうかな? それに、ニキビ膿んできてるけど潰せば治るじゃん。お前だって、ケツにオデキ出来てんだろ? どうせそれを魚が餌だと思って飛んできたんだろ?」


 売り言葉に買い言葉とはこの事。

 最終決戦アーマゲドンが勃発。


「花島! なんで、あたしがオデキ出来てるの知っているのよ!?」


 布団の中から出たくないのか、魔法少女は布団にくるまれながら応戦。


「は? そんなもん、お前が便所前でハンケツ出しながらガタガタ震えている時に見てるに決まってんだろ?」


「何で見てるに決まってるのよ! ふつう、見ないだろうが!!」


「いや、見るし! 健全な男子だったら、倒れてる女の子の心配よりもハンケツの方に目が行くし!」


「... ...マジきもい。あんた、ニキビ膿んでるし、変態でどうしようもないね... ...」


「は!? 何!? その大人面! クソ腹立つわ! なんだよ! ケツにキスされたくらいでビービー泣きやがってよ! このクソ処女が!」


 魔法少女は顔を赤らめ。


「しょ・処女じゃない!!! お前はどうせ、ど・童貞だろ!」


「ふははは!! なんだ、この国の住人わ! みんな処女ばかりじゃねえか! いや、それはそれで良いけど! なんだったら、ここで、テメーを襲って証明してやろうか!?」


「は!? やめろよ! クソ変態!」


 俺は、ベルトに手をかけてズボンを下ろし魔法少女に近づく。

 事の成り行きを知らない人から見れば完全に俺が悪者に見える。

 もちろん、本当に襲うつもりはない、少し口が達者な魔法少女を脅かすだけだ。


「きゃあー!!! 本当止めて! 近づくな!」


「... ...」


 一歩二歩と距離を無言で距離を詰める。

 あと、何故か多少息づかいが荒くなった。


「はあ... ...。ん・はああ... ...」


「ほんとう! 止めて! お願い! 近づかないで!」


「ふんはああ~... ...」


 さっきまでの威勢はどこに行ったのやら、魔法少女は幼子のようにビービー泣き出してしまった。


「ううわ~! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 そんな事、言われてもやめない。

 俺は慈悲深い天使でも、劣悪非道な悪魔でもない。ただの変態だからだ。

 しかし、俺の進撃は突如として終焉を迎えることになる。


「何してるのかみそ? 花島... ...」


 魔法少女の悲鳴を聞いたゴーレムは何事かと思い、慌てた様子で魔法少女の部屋の扉を開け、パンチ一丁で魔法少女に迫る鬼畜艦隊を制止させる。

 そして、俺は正気に戻った。


「... ...」


 目の前には気絶した魔法少女。

 後ろには俺を不審な目で見ているゴーレム。

 生まれたての姿近似値の俺。

 ... ...これは、言い逃れは出来そうにもない。

 俺は正直にこの状況になった過程を説明することにした。


「ゴーレム聞いてくれ」


「何を聞くってみそ!? 花島! ミーレにエッチな事しようとしてたみそ!?」


 ... ...くっ! こいつ、勘がいいな!


「確かに俺は、魔法少女にエッチなことをしようとしていたのかもしれない... ...。しかし、俺はこの城に潜む童貞傭兵の霊に取りつかれていたんだ... ...」


「... ...事情が変わった、続けてみそ」



 □ □ □



 それから、俺はパンツ一丁のまま、10分ほど童貞傭兵の霊の作り話をゴーレムにした。

 ゴーレムは目を潤ませ、それを悟られまいと手でゴシゴシと目を擦る。


「ろ・ロベルト... ...。そんな悲しい死に方をしたみそ... ...」


 ふっ。

 ちょろい。

 洞窟で何十年も獣と戯れてきた女を騙すのは容易い。

 獣は人は食うが、噓は付かないからな。


「そうなんだ。だから、俺は今、こんな状態なんだ」


 凛とした姿勢を崩さず、両手を広げてゴーレムに己の正当性を主張。


「花島も被害者だったみそね... ...」


 あれ?

 そうだっけ?

 適当に話を作り過ぎて設定忘れたわ。


「... ...いや、本当の被害者はロベルトさ」


「... ...そうね」


 髪をファサッとし、何故かいい女オーラを醸し出すゴーレム。

 

 俺とゴーレムには共有する秘密が出来た。

 ロベルトの事。

 ロベルトの霊に憑りつかれて魔法少女を襲おうとした事。


 これは二人だけの秘密だ。


「あのさ。ゴーレム。この事はその... ...」


 俺はゴーレムにお願いして、「魔法婆に魔法少女の今日の記憶を消すよう言え」と命令するとゴーレムは右手でガッツポーズをして「わかったみそ!」と協力的に。


 もう、完全に主従関係は逆転していた。


 しかし、お茶を飲んでいる魔法婆に頼むが「はあ? そんな都合の良い魔法があるかよ」と鼻で笑われた。俺は「ワープする能力使えるのに記憶消す能力はないのかよ」と脳内で魔法婆を「使えないやつ」と罵倒。


 じゃあ、記憶が飛ぶまで殴りつづけようかとサディスティックなことを考えたがやめた。

 

 どうせ、気絶したショックで記憶も消えてるだろ。

 と安易に考えたからだ。

 そうご都合主義のような事がタイミング良く起きるか?

 と考えながら、俺はズボンを履いて魔法少女の自室を後にした。

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