もう一人のあいつは呪い?

弓月キリ

第1話 こいつは一体何なんだ?

 この世界はつまらない。

 この世界に俺は必要なのか?

 これからも先ずっと同じことをして生きていくのか?


 このまま消えてしまえたらどんなに楽なのか……。


 これは、俺の罪。

 なら、この呪いは?


 この呪いが俺に対しての罰だというのなら、俺はこの呪いを全力で受け入れよう。


 とでも言うと思ったか?

 ふざけんなよ。



 - 1 -



 バリッ!

 ガシャャャン!!



 ガラスが割れる音が、大して広くもない俺の部屋に響いた。


「あんたは誰!?」

「そりゃ、俺のセリフだ!」


 出会いは最悪。


 出かける前に鏡を見て寝癖を直してたら、いきなり俺にそっくりな髪型と顔をした女が映って、しかもそいつは鏡の向こう側から出てきた。


 物理的に。

 そりゃ、鏡も割れるわ。


「あれ?」


 俺、鏡の欠片、めいいっぱい浴びてなかったか?

 全然痛くないぞ?


 散らかっているであろう床を見るが、どこにも鏡の欠片はない。

 鏡を見るが、鏡は割れている。

 一応、俺の体も確認するも、やはり怪我1つない。

 ついでに女の様子も見てみるが、俺と髪型と顔をした女も怪我1つないようだった。


 今気づいたんだが、律儀に服装まで一緒かよ。

 俺とこの女の違いって、体の作りと胸の膨らみしかないんじゃないか?


 まぁ、いいや。

 そんなことより、気になることを聞くか。


「破片、どこに消えたんだ?」

「破片?」

「お前が出てきた鏡の破片だよ」

「さぁ?」


 こいつは一体何なんだ?



 ブーーーーーー!



 スマホが強く長く震えている。

 長く振動しているので、着信だということはすぐにわかる……が、目先のことのほうが大事なので、申し訳ないがスルーさせてもらおう。


「どこから来たんだ?」

「……」

「名前は?」

「……」

「言えないのか?」

「わからない」

「え?」

「なにも、覚えてない……」

「マジかよ……」


 質問していて、やっと小さい声で返って来た回答が、記憶喪失?


「気づいたら真っ暗で、向こう側にあんたが見えたから、助けてもらおうと思って、叩いてたのよ」

「普通、それで鏡割れるか? どれだけ馬鹿力なんだよ」

「そんなに力を入れて叩いてないし!」


 この女の言うことをすぐに信じる気にはなれない。

 ただ、目の前で起きたことは夢ではないので、どうやら信じるしかなさそうだ。



 ガチャ! バタバタバタ……。


 鍵の開く音と騒がしい足音。


 バンッ!


「省吾! あんた、遅刻した上に電話もスルーなの!?」


 それからすぐに勢い良くドアが開いて、俺の顔そっくりな黒のロングでグレーのスーツ姿の女が入ってきた。



「姉貴! 近所迷惑になるから、もう少し静かに「え? この子、誰?」

「「俺(こいつ)の妹」」


 姉貴を叱る俺の声を遮る姉貴の不思議そうな声に、俺たちは反射的にそう答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る