恐怖のピラニア迷路の生還者

ちびまるフォイ

仲間は人間ひとりとピラニアちゃんたち

閉じ込められた迷路にはひからびたピラニアが落ちていた。


「すごい迷宮だ。まるでゴールが見えないよ」


「すごいのはこのピラニアさ。世界での一番凶暴なピラニアだ。

 獲物の血の匂いがするなら船の船体をも噛み砕く種類だぞ」


「詳しいんだな」


「ピラニア検定2級だからね」


「そんなのあるの!?」


とはいえ、迷路の出口を探さなくては。

迷路の壁は高くとても壁をよじ登ることはできない。


雨上がりの道路に転がるミミズのように、

足元にびちびちと転がるピラニアを踏まないように進む。


「はぁ……はぁ……もうずいぶん歩いたな……」


「出口は見つからない。ヒントっぽいものもないなぁ」


友達と一緒に迷路をさまよい続けてもうどれくらいか。

目印として壁に傷をつけながら歩いていたけれど、ぐるぐる同じ場所を回ってる。


「のども乾いた……どこかに水でもないかな……」


「お、おい!! 水だ!!」


「え、本当!? やったぁ!」


「ちがう! 足元! 足元見ろ!!」


視線を下げると迷路の壁から薄く水が出始めていた。

徐々に迷路は水に飲まれていく。


「これはいい! 水かさが増えれば迷路の壁を越えられるぞ」


「バカ!! それより先にピラニアに食われるよ!!」


「あ゛……」


完全に忘れていた。

化石のように干上がっていたピラニアは水をかけられて

少しづつ潤いと生気を取り戻し始めている。


「このピラニア……動き出したら……」


「血の匂いをかぎつけて骨まで砕かれるぞ!

 早く出口を見つけるんだ!!」


疲労もなにもかもが吹っ飛び迷路を駆けずり回った。

早く迷路を出ないと。

ピラニアが動き出したら命はない。


迷路の水かさが足首まで浸かり始める。


「どうだ!? 出口見つかったか!?」


「だ、ダメだ……。どこにも見つからない。

 一番外側の壁にはたどり着いたが、出口はなかった」


外と迷路の壁1枚へだてた壁沿いを歩いていけば、

どこかで出口にかち当たるかと思ったがそう簡単には作られてない。


水かさはどんどん増えていく。


「もうだめだ!! ピラニアが動き出してしまう!」


「ピラニア……そうか! ここから出る方法を思いついた!」


「本当か!!」


「ああ、本当だとも! そこの壁に立ってくれ!」


友達に言われるまま、外側に一番近い壁に立った。


 ・

 ・

 ・



その後、迷宮から生還した友達は囲み取材を受けていた。


「あのピラニア迷路から脱出したんですね!」


「ええ……一時はどうなることかと思いました……」


「ピラニアに食べられずにどうやって迷路を出たんですか?」


「はい。それはピラニアに壁を壊させたんですよ。

 ピラニアは腹ペコでしたからね。餌のにおいがするなら壁も壊してくれる」


取材陣のカメラからフラッシュがたくさん明滅する。

質問が落ち着いたころ、ひとりの記者が訪ねた。



「ところで、迷路にはあなたのほかに

 もう1人いたという噂もありますがそれは事実ですか?」



「え? なに言ってるんですか? 僕ひとりですよ。

 疑っているなら迷路を探してみてくださいよ。

 骨のひとつも、血の一滴さえ壁事食われて残ってないはずです」

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