ホームレス二人旅

マ・ロニ

第一章

第1話

プロローグ


 夕暮れ時から降り出した豪雨を避けるために俺達二人は、最近寝床にしている高架下へ向かっていた。大事な手荷物を濡らし続けるわけにはいかねえからな。俺は、モタモタするゴンの奴を怒鳴りつけながら高架下に潜りこんだんだ。


「ひひ、酷い夕立だ。ゲゲ、ゲンさん!」


 いい加減こいつの吃音症にも慣れてきたが、こんな時は少しイラッとする。まあ、そんなことよりも荷物の状況を調べることが先決だと思い、俺は手荷物を見た。上面の荷物は濡れたが、乾かせば大丈夫だろうから安心出来たんだ。


 俺達二人は、雨をぼうと眺めていた。最近増えたゲリラ豪雨とも言うべき夕立は、しまいに雨足を弱めた。ここ最近の暑さで熱されたアスファルトから湯気がたち始め、霧が増えたなと思った。


「きょきょ、今日の、きき、霧は馬鹿に濃いねえ、げげ、ゲンさん。くく、暗くなったせいか先が見えない」


 ゴンの奴がそういったのを覚えている。

 俺も変だと感じたからだ。

 幾ら暗くなったと言っても、先が見えなすぎると。気づいた時にはもう、雨の音はしていなかった。

 ふと、上を見上げると高架橋もなかった。見えたのは、葉っぱだ。もう一度見た。やっぱり、葉っぱだった。青々とした新緑と言えるような

 --今までいた街の真ん中で見られるようなものではない鬱蒼とした深緑だ。

 俺とゴンはいつの間にか、濡れた体で森の中に佇んでいた。


 まずは、己の頭を疑った。

 ついに「いかれた」と思った。だが、足元の土は砂利が敷かれた高架橋下の地面と違い柔らかい。

 香る木々と草の匂いは、最近移りこんだ街では嗅ぐことができない濃さだ。隣を見ると、いつもの通り、ぼうとしたゴンが立っていた。変わらねえなあと思ったが、


「ゲゲ、ゲンさん。周りが、おお、おかしくないか。へへ、変だ」

 

 こいつも気づいたんだなあと思った。

 ドモリ癖で、ウスノロなくせに。こうなると、俺がいかれた訳ではなく、周りが変化したのかと気付いた。


 (……神隠しにでもあったのか)


 そうとしか思えなかった。以外に落ち着いていたと思う。

 今迄の経験の賜物かと。

 まあ、こういう時にやることは決まっている。俺は、ゴンの奴に火焚きと寝床の確保を言いつけ、荷物の奥にしまってある本日の夕飯の具材を取り出して、飯の準備に取り掛かれるようにした。

 

 ――こんな場所なら、どう火を焚こうが文句を言われることはないだろうしな。


(異世界1日目の夜に書く。ゲンこと源 元次郎)

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