Let's go! マジカルアワー
紅蓮グレン
プロローグ
#000.現代日本の日常
「おい、兼政!」
呼ぶ声で、机に突っ伏していた俺は現実に引き戻された。俺は
「何の用だ、隆二。宿題なら手伝わねえぞ。たまには自分の力でやれ。」
「違えよ。今日は宿題の頼みじゃない。誘いだよ。」
友人の
「誘いって、何の誘いだ。」
「カラオケだよ。たまには行かねえか? 今日で考査も終わったしよ。」
「断る。俺は忙しいんだ。第一男2人でカラオケなんて、むさ苦しいだけだろ。」
「俺と兼政だけじゃねえよ。
「
「1対2じゃあ肩身が狭いだろ! 頼むから来てくれ!」
「断る。俺が歌が苦手なの知ってるだろ。歌わせようとするな。それと、お前が心結ちゃん狙いなのは知ってるからな。」
俺はビシッと人差し指を突きつけた。
「なっ……お、お前はエスパーか?」
「顔に出過ぎなんだよ。心結ちゃんと話す時だけ明らかに視線が違うし。」
「クソッ、バレてたか……まあ、兎に角来てくれ!」
「断る。学費稼ぐだけでも大変なんだ。寝る間も惜しんでやってるアルバイトで得た金をそんな娯楽に費やせるかよ。」
「金のことなら心配するな! 俺が奢る!」
「そんなにまでして俺をカラオケに連れていきたいのか……分かったよ。行ってやる。だが、俺は1銭たりとも払わないからな。俺の分もちゃんと払えよ。」
「分かってるって! じゃあ明日の午前10時、駅前の騎馬武者像の前に集合な!」
隆二は鞄を持って教室から駆け出して行った。
「明日、か。今夜も色んな人が悪夢に悩まされるんだろうな。なのに俺は何もできないのか……今の俺は無力だから仕方ないけど、どうせなら助けたいよ、ナイトメアの
俺はそう呟くと、深々と溜息を吐く。そして、帰ろうと鞄を掴むと、1人の女子が、
「月村君、帰るの?」
と駆け寄って来た。明日のカラオケメンバーの1人、野本彩夏だ。
「ああ。これ以上学校に残ってる用もないし。何か俺に用でもあるの?」
「うん。えっとね、お昼ごはん、もし良かったら一緒にどうかなって思って……」
「あー、ごめん。俺1人暮らしだから学費稼ぐのだけでも大変でさ。ちょっと付き合えそうにない。」
「お金なら心配しないで。私が奢るから!」
「いや、彩夏ちゃんに奢って貰う訳にはいかないよ。隆二なら兎も角。」
「あ、私と一緒は嫌だった? ごめんね。」
彩夏ちゃんは泣きそうな顔になった。
「いや、そういう訳じゃないよ。」
「じゃあ、一緒にお昼食べようよ! 私良いお店知ってるから。ね?」
ここまで食い下がられたら、OKしない訳にはいかないな。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」
「ありがと、月村君。じゃあ、付いて来て!」
彩夏ちゃんはさっと鞄を肩にかけて歩き出す。俺は鞄を掴み直すと、彼女の後を追った。
「あのさ、月村君。」
彼女が知っていると言っていた良い店、菜々軒という中華料理屋で、彩夏ちゃんは炒飯を食べながらそう俺に話しかけてきた。
「何?」
俺は
「月村君って、怖い夢とか見たことある?」
「ああ、昔は結構あったよ。でも、最近は1回も見てない。」
「そうなの?」
「うん。体質が急に変わってショートスリーパーになってさ。睡眠時間短くても満足するから、夢そのものもあんまり見ない。」
俺のこの答えに、彩夏ちゃんは羨ましそうな顔をした。
「いいね、月村君は。私は最近怖い夢見てばっかりでさ。夜もその夢見るのが怖くってなかなか寝付けないの。それで、眠れてもその怖い夢を見ちゃうから嫌な汗をいっぱいかいて、すぐに起きちゃう。」
「怖い夢、か。どんな夢なの?」
「あのね、クラスの滝本君とか心結ちゃんとか、このお店の店長さんとか、仲の良い人たちがみんな怒った顔して、包丁とか持って追いかけてくるの。」
「そりゃ怖いな。仲のいい奴らからだと尚更嫌だろうし。」
俺は彩夏ちゃんに聞こえないように小声で、
「仲間割れとか友情破壊、フレンドリーブレイカー系のナイトメアだな……クソッ、それで苦しむ人が目の前にいるのに、俺は何もできないのかよ。魔狩人なのに情けない。」
と呟いた。
「月村君、どうかした? 何かブツブツ言ってたけど。」
「あ、いや、何でもないよ。怖い夢って嫌なんだろうなって思って。」
俺は1つ、あることを思いついた。
「そうだ、気休めにしかならないかもしれないけど、悪夢を見ないおまじないっていうのがあるんだ。やってあげるよ。」
「え? いいの?」
「勿論。減る物じゃないしね。」
俺はそう言うと、彩夏ちゃんの手を取って、
「この者に憑きて苦しめるナイトメアよ、魔狩人の手によって貴様は消え去ることとなる。速やかに退散せよ。」
と唄うように呟く。すると、俺の手に微かに電流のようなピリッとした刺激が走った。間違いない。彩夏ちゃんにはヤツが憑いている。
「簡易術式じゃ1日封じるのが精一杯か。やっぱり狩るのが手っ取り早いんだけど今の俺じゃ狩れないし……」
俺は無力感に苛まれる。しかし彩夏ちゃんは笑顔で、
「うん、なんかちょっとスッキリした感じがする、ありがとう、月村君。」
と笑顔で言ってくれた。それは素直に嬉しい。
「いや、ただのおまじないだから。」
「それでも私の為にやってくれたんでしょ? それだけでも嬉しいよ。みんな、『すぐにそんな夢見なくなる』とか『たかが夢』とか言って、相手にしてくれないから。」
「そうなんだ……まあ、俺ができそうなことがあったら言ってくれると嬉しい。力になるよ。」
俺はそう言ってから、急に気恥ずかしくなった。烏龍茶を一気飲みし、火照った顔を何とか正常に戻すと、干焼蝦仁を再び食べ始める。
「ふふっ、月村君って優しいね。」
「いや、普通だよ。クラスメイトが困ってるんだから、力になりたいって思わない?」
「そんな優しくて殊勝な心掛けの人は今どきあんまりいないと思うよ?」
「そうかな? 俺はじゃあそういう殊勝な心掛けの人なのかもね。」
そんな軽口を叩きながら食事を終えた俺たちは、会計を済ませて外に出る。結局彩夏ちゃんに奢って貰う形になってしまった。
「悪いね、奢って貰っちゃって。」
「ううん、いいの。私が奢るって言ったんだし、相談にも乗って貰えたから。良かったらまた一緒にご飯食べて貰えるかな?」
「勿論。今度は俺が奢るよ。」
「いいよ。学費だけでもアルバイトで稼ぐのは大変でしょ?」
彩夏ちゃんはちょっと微笑むと、
「じゃあ、またね。」
と軽く手を振って、俺の家と反対方向に歩き出した。俺はそれを見送ると、自分も家路につくのだった。
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