第8話 7月25日。事業所のこと2

 暑さのせいか、気圧の変化のせいか。何れにせよ体調や精神状態が安定しない日が続く。


 事業所について続きを書こうか。


 事業所は代表の方を筆頭に、副代表、作家の先生方、ヘルパーさん、メンバー、その他事業に協力してくださる方々によって構成されている。


 だが、非常にアットホームな場なので、立場による距離感はあまり感じない。


 もちろん、親しき仲にも礼儀あり。社会人としての最低限のマナーは皆守っている。


 挨拶、感謝、応援、誠意、厚意、慈愛、譲り合い。


 中にはそういった社交辞令やマナーが苦手な人もいるが、それはその人の現時点での肉体的、精神的な能力の限界だと、ある程度許容している。


 僕が通い始めて印象に残ったのは、代表である人が自らを『フリーター』だと言い、副代表を指して『社長』と呼んでいたことだ。


 代表は六十半ば。決して無理がきく身体ではないはずだが、恐らく誰よりも事業所の中や外部との折衝に駆けずり回っている。社長、と言われた副代表は三十半ば。主に事務処理などデスクワーク全般を請け負っている。


 会社組織などでは誰よりも重要視されそうな代表が、誰よりも『雑用係』と謙虚であり、事実椅子に腰掛けて指示を出すのではなく、とことんフィールドワークだ。座ってのんびりと事務をこなしたりコーヒーブレイクと洒落込む姿をほとんど見ない。


 メンバーは障害者就労支援施設の意義の違わず、皆何らかの障害を持っている。現状では僕も含め、精神の人が多く、次いで知的だ。身体の人はほとんどいないが、発作や目眩などでバランスを崩すのでヘルパーさんのアシストが必要な人はいる。


 僕が知る限りで身体の決定的なハンディキャップのある人は一人。生まれつき目が見えない……その人は代表さんの実のお子さんだ。


 その方の様子を見れば、何故福祉事業を代表が始めたのか大体想像は出来る。


 ただし、そのお子さんは目が見えなくても、知的ハンディキャップが多少あっても、『不幸』には見えない。


 何故なら、代表さんをはじめ、周囲の方々から十分な愛を注がれているからだ。


 いつでも楽しそうな表情で、無邪気な子供のようである。一応僕より年上なのだが、あまりそう感じない。


 否、僕はつい他人の年齢がどうとか、性別がどうとか意識しがちだが、これからの世の中にそんな固定観念はそぐわないだろう。


 事実、男性らしさも女性らしさも、幼さも老成も、この事業所ではグレーなところがある。


 男性でも女児向けアニメに入れ込む人もいれば、女性で硬派な格闘漫画を好む人もいる。


 要するにその人の個性そのものだ。それは否定されるべきではなく、尊重して然るべきだろう。


 知的、精神的に障害を持つ人はその分個性が前面に出やすい。何に関心があるかとか、何が特別苦手かとかがハッキリしている。


 だが不思議なことに、メンバーだけでなく、その人たちを支えたり指導したりするスタッフさんや先生方も個性的な人が多い。


 コレクター魂のある人、几帳面な人、物静かだけど実は体育会系の人、自他ともに厳しい人。


 これはそういう事業に何か共通項があるのか、不思議な縁でそういった人が集まるようになっているのかはわからない。が、清濁併せ呑むと結構楽しいことだ。


 どうも筆が進まない。今日はこの辺りにしようか。

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