失楽園のネクロアリス 外伝
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
ヘレネーの旅
ミルタのあとにヘレネーは来たり
「愛しているの、たとえなんと言われようとも、あたしは世界を愛している」
月種と呼ばれる万能の極大存在が、つかみ取ろうと伸ばした手は、
その情報の塊である〝なにか〟は、ゆっくりと重力に引かれ、落下していく。
「べつに、あんたたちが嫌いなわけじゃない。傲慢だし、不遜だし、子どもみたいだし、でもそれは、あたしだって同じだから、嫌いじゃない──でも、ちっとも好きじゃない」
〝なにか〟は、人間のような姿をしていた。
手があり、足があり、頭がある。
ただし、それは情報の集積にほかならず、人と呼ばれる類のものではなかった。
かつては神と同じものだったが、ほかの神の怒りを買い、考える情報の連なりへと変換されてしまったのだ。
その〝なにか〟の末端が、蛍光色の数列となって、宇宙の深淵へとほどけていく。
光芒を引き連れながら、〝なにか〟は落ちていく。
惑星に向かって、厚く垂れこめた暗雲が覆いつくす、死にかけの星へと向かって。
「まあ、だから縁切りしましょうという話よ。ほっといたらあんたらは、駄々をこねてあたしを搾取するんでしょうし、それはまっぴらごめんだし……でも、たぶん避けられない運命よね。だったら自分から、前倒ししてやろうっていう、それだけのことなの」
余暇を楽しませてちょうだい、愚かな姉妹たち。
そう呟いて、〝なにか〟はついに失墜した。
墜落し、堕ちて変わった。
全知全能。
神にも等しき存在は、かくして人並みの力しか持たない凡夫となって、その惑星に落ちたったのだ。
こうして、
これは、はるかな過去の、むかし話。
女神が楽園を追放され、自ら零落し、やがて不自由を得る、そんな物語──
「ドントシンク! フィール……まあ、難しく考えないの。つまりはあたしが、休暇をエンジョイするだけの話よ!」
……そういう話である。
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