第30話 新しい力
ボク達はリーネが敷いてくれていた魔法陣を使い
お菓子な宿屋に戻ってきていた。
リーネが仲間になってほんの数日しか経っていないのに、
ずっと居た感じがする。
居ないのが寂しい。
「ハツキ、お腹が空いた」
そんな声が聞こえないのが寂しい。
ヒジリもそんな事を考えているのだろう。
落ち着かない様子で椅子に座ったり、立ったりを繰り返している。
「ヒジリ、少し落ち着こう」
そう声を掛けると、そうね。と苦笑いをし再び椅子に腰を掛ける。
「ヒジリ?大丈夫?まぁ大丈夫ではないよね。
ただリーネはヒジリを思って取った行動だ。
それを無駄にしない為にも早くするべき事を考えないとだよね」
ヒジリは俯きながら、小さく頷く。
頷くのを確認し、話を続ける。
「まずは、
ウロボロスの力を押さえ込む。
それをどうするかだよね???」
ヒジリが頭を上げ、不思議そうな顔で見つめる。
そして不思議そうに尋ねて来た。
「ねえ?ハツキ?
ハツキのお母様が
お父様の日記に書いてあったわよね?
それとお母様の日記の部分には魔法が掛けてある。
今のハツキなら...
あの~...
外せるんじゃないの???」
「あっ!!!」
思わず変な声が出た。
「もしかして気付いてなかったの?
あたしはずっと、なんで読まないのかな~って思ってたよ。
ハツキのタイミングで読むのかな~って」
やってしまった。
そうだった。
今の能力なら魔法系の仕掛けでも外せる。
最初の習得者である母ならヒントが...
生粋の
皮袋をひっくり返し、
テーブルの上に
「
モノクロの世界に変わる。
目標物がたくさん出てきた。
台所の魔法陣、床にも、壁にもたくさんの魔法陣。
この部屋ほとんど仕掛けあるんだな。なんて独り言を呟く。
ボクはテーブルに視線を移し、解除する対象を確認する。
どこからともなくいつもの不思議な声が聞こえてくる。
・・・
・・・ 対象:
・・・ マジック・トラップは消滅のみです ・・・
・・・ 発動確認 YES・NO ・・・
「YES」
「解除終了~」
満足気にヒジリの顔を見る。
ヒジリが早く早くと急かす。
父が日記に書いていた。
この
ボクの事しか書いてないと。
楽しみと、少しの不安を抱きながら日記を開く。
そこにはとても優しく、綺麗な字が浮かび上がっていた。
書き始めは...
『可愛い可愛い私のハツキへ』
「お母さん...」
最初の一文で懐かしい思い出が頭を過ぎる。
優しかった母。
いつも笑顔で抱き締めてくれた母。
自分の命を犠牲にしボクを守ってくれた母。
ヒジリはそんなボクの姿を見て、日記を持っている手を握ってくれる。
やはりヒジリの手は暖かさを感じる。
懐かしさと母の愛情を感じながら、日記を読み進める。
そこで見付けた。ウロボロスの対処法。
とてもとても簡単な方法だった。
そこにはこう書いてあった。
『ハツキ、あなたにも
信仰が薄くなっても神に仕えて来ました。
この魔法を解除出来たのならハツキも成長したのですね。
お父さんはまったく才能が無いから渡せなかったけど、ハツキなら大丈夫よね。
だってハツキは私とお父さんの子供だもんね。
だからハツキにあげます。
この力でハツキが大事に想う人を護れますように。
継承します。
アイナ一族の血が途切れぬよう。
サンブライトの血と、アイナ一族の血が流れる、
私達の大事なハツキへ。
ハツキに神のご加護を』
その一文を読み終えると蒼色と翠色が混ざっているような、
優しい光が体を包み込む。
優しく優しく包み込む。
母さんに抱き締められてる感じだった。
光が収まると不思議な感じがした。
血が体中を忙しく駆け巡っている感じ。
体の中から温かさを感じる。
「どう...?なったのハツキ?
なにか変化ある???」
ヒジリが不安そうに顔を覗き込む。
「うん。感覚無いから正しいかわからないけど、
なんか体の中が温かい感じがするんだ。
昔は感じられたお風呂に入っている時の感じるみたいな?」
「もしかして感覚戻ったのかな?」
「どうなんだろうね?」
皮袋をひっくり返した場所からナイフを一本取り出し、
腕を切りつけてみた。
ヒジリはキャッと言って、両手で目を覆った。
「うん!やっぱりまったく痛くない。
でもコレ見て???」
ヒジリは目を覆っていた手をどかし、恐る恐る切りつけた腕を見る。
「あれ?傷無くなってない?」
「うん!なんかもう治ってる...
ヒジリが手をどかす間に治ってた」
父さんが言っていたな。
ほとんどチート能力だって。
確かにこの回復力は凄い。
そして痛みを感じないボクは攻撃を受けても怯まない。
これで護れる力が増えた。
ありがとう母さん。
ボクの大事な人を護っていくよ。
「これでウロボロスの侵食速度はかなり遅らせられる。
押さえ込んだよね?」
先ほど切り付けた腕を見ながらヒジリに聞いてみた。
「ハツキのお父様の日記にお母様は自動回復があるから、
代償の侵食を遅らせられるって書いてあったし、
その回復速度であれば大丈夫かとは思うけど、
やっぱり不安は残るわね」
ヒジリも傷が無くなっている腕を見ながら答えた。
不安か...
匣を開けるのは確かに簡単だ。
しかし侵食速度が変わっていなかったらまたヒジリが...
そしてリーネが...
「不安は残るけどやってみましょう。
早くリーネを解放しなくちゃね」
侵食されていない綺麗な碧く紫がかった
「わかった。
それじゃ今から匣を開けるから少し離れていて。
なにが起こるかわからないから」
そう言うとヒジリはボクから少し離れた場所に移動し、親指を立てる。
もう少し待っててね。リーネ。
「
さっきも聞いた不思議な声。
この声はどこから聞こえて来るのだろうと疑問を覚えながら、
対象物を見据える。
・・・
・・・ 対象:
・・・ マジック・トラップは消滅のみです ・・・
・・・ 発動確認 YES・NO ・・・
もちろん...
「YES」
匣はカチャカチャと音を立て、青白い光と赤黒い光と共に蓋が開いた。
蓋が開いた瞬間、首元にチクリとした痛みの様な感じがした。
同時にヒジリもイタっと声を上げ、左眼を押さえうずくまっていた。
そして匣の方からは幼い女の子の声。
「お腹空いたぞ~~!!!」
「リーネ!!!」
うずくまっていたヒジリがリーネに駆け寄り、抱きつく。
リーネは急に抱きつかれ体勢を崩しながら、
「おかえりだな、ヒジリ」
「リーネ、ありがとう。
ゴメンなさい。
そしておかえり♪」
うんうんとリーネは頷き、微笑んでヒジリの頭を撫でていた。
「おかえり、リーネ。
お母さんから
これでしばらくは侵食の速度は遅くなってると思うんだけど?」
不安材料をリーネに聞いてみる。
「そうか!その手があったか!
それなら最高の選択をしたな!
しばらくどころか寿命が来るまで大丈夫だ。
ただ
なるほど、乱発しなければ侵食はしないというわけか。
でもヒジリやリーネ、キューブを護るためならいくらでも使うさ。
抱きついたままリーネを離さないヒジリを見ながら少し笑う。
それに気付いたリーネは少し苦笑いをした。
やっと戻って来た。
一度無くなってしまった、この4人の日常。
(まだキューブは匣のままだけど。)
この日常も大切にしなくちゃいけないと強く思う。
これから先なにがあったとしても護っていくんだと。
そして再びリーネが声を上げる。
「私は本当にお腹が空いてるんだぞ~~!
ヒジリ、いい加減に離せ~~~!!」
騒がしい日々も一緒に帰ってきたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます