第20話 リーネ

今日は魔法に驚かされっぱなしだ。

魔法を初めて見たわけではないが、次元が違いすぎる。


「は、匣から人が出てきた!!」

隣に居たはずのヒジリの声が部屋の方から聞こえる。

ヒジリは驚きの余り、部屋の方まで逃げていた。


匣の中から現れた、青髪、碧眼の・・・


《少女》


ボクより少し小さいヒジリより、更に小さな少女。


「え?少女」

ボクは見たままの姿を口に出した。


「わ~カワイイ♪小さい♪プニプニ~♪」

部屋に居たはずのヒジリが匣から現れた少女の頭を撫でたり、

頬をつついたりしていた。


「ええい!やめんか!!」

少女に突き放され、え~もっとナデナデしたい~と口を尖らせ文句を言っている。

いつも通りヒジリを無視し少女に問いかける。


「初めまして。ボクはハツキ=サンブライトです。

リーネ様ですよね?」

ヒジリに視線を送り、最初はこうやるんだよ!と言わんばかりに自己紹介した。


ヒジリは恥ずかしそうに顔を赤く染め、

「失礼致しました。

私の名はヒジリ=ブラン=エールです。

リーネ様のかわいさに負け、お恥ずかしい限りです」

俯きながら、まだまだ触り足りないと言った感じで指を動かしていた。


「ふむ、宜しい。

じゃが、お前たちは見た目に騙され過ぎじゃ。

こう見えてもお前たちの何十倍も生きておるんじゃぞ。」


確かに喋り方が古臭い。

絵本に良く出る魔女って感じだ。


「ハツキ!ワタシ...ワシはおぬしの父親、祖父、曽祖父もっともっと、

昔から知っておるんだぞ。寧ろ、初代から知っておりゅ...おる」


私って言おうとして言い直した!最後、噛んだし...

もしかして言い慣れてないのか?


「すみませんリーネ様。普通に喋って頂いて結構ですよ」

ヒジリが真面目な顔でリーネに言った。


「そうかそうか!そうだよな!慣れない事はやるべきじゃないな!

私にも威厳と言う物が欲しくてこんな喋り方をしていた。見た目がこんなだし。

やっぱり簡単に威厳を出すのには喋り方かなって思ったからな」


意外と軽い。

思わず3人とも吹き出してしまった。


「あはは!なんですかそれ?リーネ様っておもしろいですね」

「そうか?」

「かわいいし、柔らかいし、おもしろいです~♪」


リーネのお陰?で場も和み、部屋の中に移動し、

椅子に腰掛けようとしたら、飲み物を準備していたヒジリの方から

グラスが割れる音と叫び声が聞こえる。


「きゃ~!」


まったくヒジリは時々、天然を見せてくれると思いながらヒジリの所に駆け寄る。

3人分のグラスが割れていた。


「大丈夫?ヒジリ」

「う、うん...」

「ボクがやるからヒジリは座ってていいよ」

「ゴメンね。ありがとう」


ヒジリの代わりに飲み物を準備し、ジュースをテーブルに置き、

再び椅子に腰掛けた。


「さて、本題に入るか。よく私の街に来てくれたな、ハツキ。ヒジリ」

ヒジリと共にリーネを見つめ頷く。


「大変だったな。良く生きていてくれた。

私の弟子が迷惑を掛けた」


「弟子と言いますと?」


「わかるだろ?ヴォルズの事だよ」

怒りを顔には出さず、静かにリーネが話を続ける。


「ヴォルズ・・・」

しばらくは耳にしたくなかった名前だった。


「あいつはな昔、私の元で修行していたんだ。

初めは熱心に勉強していたが、力を付けると共に更なる力を求めた」

良くある話だろ?とリーネは寂しそうに笑う。


「私はマスターとして、そして今のこの世界の常識を壊した・・・・・・・・・責任を取るために...」


「世界の常識・・・?」「壊した・・・?」

ヒジリと同時に同じ事を口に出した。

リーネはやはり寂しそうに笑いながら

「質問はあとでな。まずは私の話を聞くんだ」

と2人の口に指を当てた。


「常識はまずは置いておく。

その責任を果たすため私はありとあらゆる、

考えられる全ての魔法を思索し、試した。

しかし考えた魔法の術式、結果を残しておいてしまった。

使えない魔法、使ったらマズい魔法、能力の発現、能力の進化、能力の譲渡・・...」


「譲渡!!!」


「ある日ヴォルズは私の研究結果を盗み、私の元から離れ、

己で実験を重ねて《能力の捕食》を確立させたのだろうな」

部屋に静寂が訪れた。


捕食。


捕食と言う言葉を聞いてヒジリの顔が青褪める。


「リーネ様、あたし...」


震える声でリーネに尋ねる。

リーネは言いたい事を察知しヒジリに向きを変え、笑顔で答える。


「ヒジリ。白き翼を出してみよ」


「え!?」

突然の言葉にヒジリは驚いたが、リーネの顔を見て小さく頷く。


ヒジリは椅子から立ち上がり、肩の力を抜く。


「我が名はヒジリ=ブラン=エール。

悪しきモノを切り裂く力をこの手に。

顕現せよ、白き翼の刃」


前に見た時と同じ言葉。そして白い羽。直刃の剣。

その美しさに思わず見惚れてしまう。


「リーネ様これでよろしいですか?」


リーネが頷き立ち上がる。


「少し離れていてくれ。そして良く聞いておくのだ。」


言われた通り2人とも離れてリーネの言葉に耳を傾けた。

ふぅ~と息を吐きリーネは呟く


「我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者なり。

ことわりを破壊し顕現せよ。

火竜・ボルケイノス」


炎と轟音と共に紅色の竜が目の前に現れた。

すぐにリーネは指をパチンと鳴らし竜の姿を消した。


「わかったか?」


ボクは火竜の迫力と熱にやられ立ち竦んでいた。


「あれ?もしかして?召還魔法?」

ヒジリが首を傾げながらリーネに聞いた。


「正解だ!その力はエールに授けられた召還魔法。

能力の譲渡はエールの血が代々受け継いできたものだ。

ヒジリはその発動口唱を誰かに教えられたか?」


ヒジリはフルフルと大きく首を振る。


「呼吸と同じなんだ。エールに伝わる召還魔法は。

教えられずとも先代が死ねば一番近い血縁者に受け継がれる。

だから喰って・・・など無い。心配するなヒジリ」


「良かった。あたし...あたし...」


喰べてなかった・・・・・・・。その事がわかり安心し、ヒジリはその場で座り込み、

両手で顔を覆い安堵の涙を流す。

それを見て頭を撫でるリーネ。


「少し脱線したが話を戻すぞ。

ヴォルズの裏切りで私の取るべき責任が増えた。


何時も通りキューブの中で研究をしていると、

いつの日からか、毎日のようにギルドでこんな噂話を聞くようになった。


ここ最近、冒涜する魔狼カース・ウォルフと言う、魔・盗賊の集団が、

そこら中で好き放題やっているらしい。

能力を使って人攫い、殺しなんでもやってるらしい。

どこに隠くしても、お宝を奪って行くらしい。

どこに隠れていても、能力者を見つけ攫っていくらしい。

ランクAの能力者が結構、攫われているらしい。

願わせて能力を習得したらそいつを喰っちまうらしい。

なんだか、そこのカシラが言葉にするとその通りになるらしい。


全てが耳を疑う話ばかりだった。

どんどんエスカレートして行く噂話。


もちろん直ぐに気付いたさ。

私の元から離れていったヴォルズの事だと...


人を攫い、無理矢理願わせ、人が人を喰い、そして能力を奪う。

そんな事、許されるワケが無いではないか!

蛮行を繰り返す弟子の始末は師匠の私が取るべきだと考えた。

すぐにでも殺して止めようと思ったのだ。

しかし私が返り討ちに遭う可能性もある。

話を聞く限り、ヴォルズの能力が変わっている。

そして私は対抗する魔法を作った」


リーネの幼い顔は悲痛に歪んで見えた。


「まず初めに私はヴォルズの能力を視る魔法を使った。

最初、ヤツの能力ははほんとにちっぽけだった。

しかしある日を境に変わった。


羨望する眼差しエンヴィ・アイ


自分の能力以上の能力者を見付け、能力を解析する」


「それでボクとヒジリの能力がわかっていたのか!!!」

思わず叫んでしまった。


「なんだお前たちの能力はヴォルズに見られていたのか」

なるほど。と一言呟き、リーネは話を続ける。


「次に私はヴォルズの能力を消す魔法を編み上げた。

ヤツも知らない。唯一、私だけが使える魔法を」


消滅デリート

リーネは冷たい、感情を出さない笑顔で言った。


「効果は名前そのままだ。能力を消せる。

この魔法を編み上げた時の、ヴォルズの能力は真実に成る嘘ライズ・アンド・トゥルーだった。

対峙した時、必ずヤツは「リーネは魔法を使えない」

こう言うだろうと思い、仕掛けの魔法も編み込んだ。

《自分が魔法を使えなくなった場合、周り全ての能力を消し去る》と」


リーネは自分の手を見つめ、わずかに震えていた。


「まぁ、そのあとはお前たちがヴォルズを倒してくれたんだがな」

とやはり感情のない笑顔で顔を上げた。


消滅デリート?能力を消せるんですか?なんでも?」

リーネは何も言わず頷く。


「この消滅デリートは連続して使える物ではない。

一度、使うと次に使えるまでどの位かかるかわからんのだ。

消した能力の強さに応じて使用不可時間クーリングタイムが変わる。

そこでだヒジリ?」

「はい?」

ヒジリが話を急に振られ慌てて返事をする。


「今回、お前たちのおかげで使わずに済んだ。

だからお前の能力消さないか?魔法が使える状態であれば、ヒジリの能力だけを消すことが可能だ」

「え!?どう言う事ですか?」

「私の視た限りお前の能力狂神化バーサーカーには限度がある。

すでに侵食化も始まっているだろう?」

ヒジリの変わってしまった左眼を指差す。


「左眼だけでは無く、力のコントロールも効かないのだろう?」

ヒジリは何も言わず頷く。


ヒジリの最近の動き。

あの移動速度...

さっきグラスが割れたのも...

侵食化の影響だった。


「私の予測だがヒジリの狂神化バーサーカーの使用限界はあと1回。

使用限界を越えたらお前がお前でなくなる。

ヒジリと言う人間が人間でなくなるんだぞ!」

リーネの話を聞きボクはヒジリに消してもらおうと言おうとした。


しかしヒジリは


「いいえ。リーネ様。

あたしはこれでいいんです。

決めたんです。

例え、自分がどうなろうとハツキを護るって。

決めたんです・・・

だからお願いします!消さないで下さい」


ダメだ!と言い掛けたリーネもヒジリの真剣な言葉に何も言えなくなっていた。


「ヒジリ。消してもらおう・・・」

「絶対にイヤ!あたしが決めたの!ハツキはあたしが護るの~!

それに前も言ったけどあたし強いから能力発動しないかもしれないじゃん♪」

「ヒジリ...」


ヒジリの顔は絶対に折れない、譲らない顔だった。

それならボクも強くなってヒジリに護ってもらう必要が無くなればいいんだ。

そしてボクがヒジリを護ってあげればいいんだ。


「わかった。ボクも強くなるから」

そう言うと天使も羨む様な最高の笑顔でヒジリはウン♪と答えた。


「私の前でそんなにノロけるな!まったく最近の若いもんは・・・」

リーネの存在を忘れてた。。。

2人とも顔を赤くし、すみませんと謝った。


「さて、次は世界の常識を壊した・・・・・・・・・話をしようか」

リーネが立ち上がり背伸びをして、窓から空を見上げる。


今日は三日月。

三日月になった空はとても暗く感じた。

月が雲に隠れ、もしかしたら朝がもう来ないのでは無いかと錯覚してしまう。

そんな空だった。

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