第7話 ボクの村へようこそ
2つの影が村の大きな木の扉の前に並んでいる。
盗賊やモンスターから守るためだろう頑丈そうな傷だらけの扉だった。
門番らしき屈強そうな男が2人こちらを見ている。
「たっだいま~♪遅くなってごめんね」
謝ってはいるがまったく悪びれてる感じもなく楽しそうに手をヒラヒラと振る。
「おかえりなさいませ!ハツキ様」
「お疲れ様でした。ハツキ様」
「え?」
ヒジリは固まった。ハツキ
「だから言ったじゃん。
なにを言ってるのか理解出来ないまま首を傾げてヒジリはハツキに付いて行く。
もう夕暮れ時。
夕食の時間も近い為、あちらこちらから良い匂いが漂ってくる。
日中は活気があるだろうと思われる。
周りにはテントがたくさんありその中で商いを行った形跡がある。
野菜、肉、果物、武器、防具、アイテムその他諸々。
「この村は夜になる前にお店は終わらせるの。
夕食は家族揃って食べるのが掟。
例外は認めない!家族は仲良く。ねっ♪」
「さっきの門番は?」
「門番は街のギルドの傭兵だよ。もちろん独り身のね。交代制で6人雇ってる。
他の4人は宿を使ってもらってる」
(ハツキは1人じゃなかった。良かった)
そうヒジリは思いながら問いかける。
「あとはどうするの?」
「ヒジリは宿に行って。この道をまっすぐ行けばわかるから。そしてボクの名前を言って
これを渡して。」
渡されたのは小さな銅貨。錆びて傷だらけの銅貨。
「違う違う。ハツキはどうするのか聞きたかったの!!!」
「ボクは行く所があるから。。。」
「あたしも一緒に行ってもいい?行きたい?てか行く!!!」
デジャヴだ。さっきもあった様な拒否権の無いヒジリの重圧。
「わ、わかったよ。少し歩くけどいい?」
「あたし全然ヨユーよ。なんなら抱っこしてあげようか?」
ハツキは少し照れながら小走りで高台に向かう。
それを楽しそうに追いかけるヒジリ。
「着いたよ。綺麗でしょ?ココがボクの大事な場所。
ココからなら村が見渡せるんだ。そして帰って来たら最初に来る場所」
そこには墓石がある。
墓石が夕陽に照らされ紅色に染まって、刻まれた文字を浮き上がらせる。
~ ハル=サンブライト ~
~ フェーリア=サンブライト ~
ハツキはしゃがみ手を合わせ、静かに目を閉じる。
「お父さん、お母さん。ボクは今日も無事戻って参りました。
いつも見守ってくれてありがとうございます」
その小さな背中をヒジリが黙って見ている。
その頬を一筋の涙が伝う。
夕陽に染まって真っ赤な涙が。。。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。
謝罪の言葉で頭が埋まる。
「どうしたのヒジリ?」
不意に声を掛けられ、急いで涙を拭う。
「あたしも手を合わせていいかな?」
「いいの?ありがとう♪」
墓石の前にしゃがみこみ手を合わせる。
「あたしに手を合わせる資格は無いのかもしれません。ただ誓わせて下さい。
貴方達の大事な息子さんはあたしが絶対に護ります。命に代えても!」
そう誓ってヒジリは顔を上げて、もう一度墓石に刻まれる名前を見る。
「えぇぇぇぇ!!!!!」
その声にハツキが飛び上がる。
「ハツキ、あなたサンブライトの一族なの?」
「そうだけど?」
「なんで言わないのよ?」
「聞かれてないし、あんまり言うものでもないでしょ?」
「もしかしてこの村って?」
「そうだよ♪」
~ ハルの村 ~
「今は空位になってるトレジャーハンターマスターの作った村?
認められた人しか住めないし、来る事さえも難しいって言われる・・・」
ヒジリは驚きながらハツキの肩をガシガシ揺らしながら問いかける。
「うん。ハル=サンブライト、お父さんが最初に住んで、そこからお父さんに憧れる
トレジャーハンターが集まって出来たのがこの村だ。お父さんが死んじゃって
知らないままボクがこの村の代表になっちゃったってね」
ペロっと舌を出しヒジリに微笑みかける。
「今日はさすがに疲れたよ。ボクは家に帰るけどヒジリはちゃんと宿まで行ける?」
「宿なんて使わないわよ。ハツキの家でいい」
「え!?」
「え!?」
予想外の返事にハツキが焦る。
顔を赤くしながら答える。
「だってボクは男。ヒジリは女の子だよ?」
「ハツキ君はあたしを襲えない」
ニヤニヤと小馬鹿にした顔でヒジリが答える。
「ボクだって男だよ~。今日は満月だし狼男に変身しちゃうかもだよ~」
「はいはい。どうぞどうぞ。襲えるものならどうぞ。あたしに勝てるなら」
ヒジリの口角が上がりハツキに微笑みかける。
「も~~~う!めんどくさい!勝手どうぞ!散らかってるけど気にしないでね」
ブーブー文句を言いながら家路に向かうハツキ。
笑いながら追いかけるヒジリ。
辺りはもう暗くなっている。
ヒジリは立ち止まりもう一度、月明かりに照らされた墓石に向かいお辞儀をし
「ヒジリ=ブラン=エール、命に掛けてお護りします。安心してお眠りください」
まだ文句を言いながら歩くハツキ。
「まったくヒジリは勝手なんだから」
フフっと笑いながらヒジリは歩いていたが、目の前の大きな家に人だかりが。
「こんな時間なのにボクの家の前にこんなに人が?」
「お~い!!みんな今の時間は夕食だろ!掟は守れよn・・・」
あ!ハツキだ!!!
ホントだ!すっごくカワイイコ連れてるぞ!!!
羨ましいぞ!
昨晩はお楽しみでしたね♪
良かったちゃんと帰ってきた。
生きてて良かった。心配したんだからね。
え!?あれはもしかして銀・・・
村の住民は各々、心配したり羨んだりの声をハツキに掛ける。
「おい!誰だ!昨晩はとか言ったヤツ!!!」
ハツキは文句を言いながら嬉しそうにみんなに声を掛ける。
困ったもんだよ。ねえヒジリと振り向いたがヒジリの姿が見えない。
ヒジリはある男の口を塞ぎ耳元で呟く。
「あたしはその二つ名、嫌いなの。ナイショにしててね」
男にかわいくウィンクすると男は青ざめた顔でコクコクと頷く。
「どうしたのハツキ?」
「ヒジリどこ行ってたの?」
「昨晩はお楽しみでしたねとか言った人に教えてきたの。
あたしはまだ”処女”よってね♪」
ハツキが顔を紅く染める。先ほどの夕陽よりも紅く。
「ハイハイ!終了終了!みんな家に帰って!ご飯食べてゆっくり休んで。
そして明日もまた一生懸命お仕事ガンバる事!わかった?」
かわいい女の子を連れて帰ってくるなんてハツキもやるね。
いいもん見れたなー。
ハツキが元気そうでなにより。
これで安心して寝れる。昨日は心配で心配で。
昨晩はお楽しみ・・・グッ。。。バタ。
明日、あのコの事じっくり聞いてやる。
おやすみハツキ。ハツキまたね。ハツキもゆっくり休んでね。
各々また言いたい事を言って帰路に着く。
「疲れちゃうね」
ハツキはやはり嬉しそうに呟く。
「でもみんなハツキを心配しての事じゃない?数人を除いて。」
「羨ましいな。。。」
ヒジリは下を向き消え入りそうな声で呟いた。
それに気付いたハツキはヒジリの手を握り微笑む。行こうと。
ハツキの家に入ると意外と片付いていた。
と言うか物がほとんど無かった。
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