第5話 忘れられぬ過去《ヒジリ編》
~ある日の思い出~
「お父様、あたし強くなったかな?」
「ヒジリは才能があるのだな。とても強くなったよ。
さすが私の自慢の娘だ。」
「貴方もヒジリも少し休憩したらどう?」
その日は暖かく空がとても澄んでいた。
一家3人。父と母、ヒジリが幸せな一日を過ごしていた。
「お休みの所、失礼致します!」
若い空挺団の兵士が慌しく、走ってきた。
「どうした?何事だ」
ヒジリの父は先ほどまでの声とは違う、良く響く低い声で返事をした。
「現在、空挺団領土内に何者かが侵入。侵入者は不明。
被害はまだございませんが団長も奥様もお嬢様もお気を付け願いたく参りました。」
「ご苦労。心配ない。私が居る限り大丈夫だ。」
「お、お父様。そ、その人・・・」
一瞬だった。
一瞬、目を離しただけだった。
「ヒジリがおりません」
母が悲痛な声を上げる。
「なんだと?なにが起きた??」
父が声を荒げる。
先ほど、報告しに来た兵士の姿も無い。
カツンカツン・・・
門への石畳を歩く兵士
「ブラン=エールもこんなものか。消しても問題なしだな。」
兵士の口元が釣り上がる。
~牢獄の塔~
「なにが起きたの?」
ヒジリが目覚めるとココにいた。イヤな予感しかしない。
カツンカツン
「お目覚めですか?お嬢様」
「あなたは先ほどの兵士」
クククと悪魔の様な顔で笑いかける。
「あなたは何者ですか?ワタクシはあなたを知らない。」
ヒジリは兵士・家族構成まで全て把握していた。
「俺かい?何者でもないよ。何者にもなれない単なる
ヒジリは理解出来ない。出来るはずが無いのだ。
なぜなら目の前に居る男が見る度に姿が変わる。
「何が目的なのです!?」
「そうだな・・・敢えて言えば金かね」
男はおどけてそう答えた。
能力者なの・・・ヒジリの脳裏によぎる。
「しばらくココにいなよ。俺が来るまで逃げられないし
俺が来なければお前は死ぬ。助けが来たら。。。そうだなソイツをコロそう。
俺の分け前を奪うヤツかもしれないしな。」
仲間がいるの?
裏切られる可能性も見越してるの?
この人の目的は何?
男がなにやら呟いた。
「YES」
鉄格子の上で何かが光った。
「まぁ俺の気分次第でまた来るわ~。死んでても別にいいよ。」
ヒジリの頭は真っ白になった。きっとこの人は来ない。
あたしが死のうが生きようが関係ないんだ。
攫った理由だって間違いなく嘘だ。
多分、お父様が目的。お父様の暗殺。
その為にあたしを攫って、閉じ込め、能力で殺すつもりなのだと。
「お父様が来るまでに能力の解除をしなきゃ。たぶん1度発動すれば、再発動しないはず」
どうすれば助かるか、父を助けられるか考えながら2日が経った。
遠くから声がする。
知らない声だ。大人の声と子供の声。
「どうすればおびき寄せられる」
ヒジリは疲労と極度のストレスから通常の思考能力が無くなっていた。
自分の身内以外はもう人では無い。
身内さえ助けられるのであればどんな犠牲だって。。。
ヒジリの目の前で起きた惨劇。
泣き崩れるハツキと呼ばれていた少年。
自分が何をしてしまったか。
自分の為に、自分の家族の為だけに。
少年のたった一人の家族を奪った。
自分を助けようとしてくれた少年の大事な人を。
罠があると伝えていれば状況は変わっていたかもしれない。
もっと違う方法があったのかもしれない。
後悔と懺悔の気持ちが涙と共に溢れて来る。
「許されるはずが無い。でも謝らなくちゃ」
ゴメンなさい。ゴメンなさい。
「ごめんなさい。あたしのせいで。あたしはそこに罠があるのを知っていた。でも黙ってた。」
言葉が思い浮かばない。
心の底からの謝罪。
恨まれるのは当たり前だ。罵声だっていくらでも浴びる。
殴られても、殺されたって構わない。
それだけのことを自分はしてしまったのだ。
しかし少年からは意外な言葉が返ってきた。
「ウルサイ!黙れ。ボクが油断してボクが勝手に罠に掛かっただけだ!」
「だからお願い。一人にして。話掛けないで。」
ゴメンなさい。本当にゴメンなさい。
震えてその場から立ち上がれない。
でも自分がここにいたのでは駄目だ。
ここにいるべきなのだろう。一人には出来ない。
しかし少年はそれを許してはくれないだろう。
父親を殺したも同然の相手がいたのでは。。。
唇を噛み無理矢理、立ち上がる。
口元に血が流れる。
涙で前が見えない。
自分のせいだ。
いつまでも少年の泣き声が聞こえる。
「ゴメンなさい…私があなたを護るから。」
一瞬、意識が飛んだ。
視界が狭くなり、世界が赤く染まる。
「アイツが憎い。何者かわからないけど。絶対に許さない。
そしてあたし自身も憎い、絶対に許せない」
ヒジリは歩き出す。
なにも出来ない自分は家路に向かう。
胸元に入ってる、小さな薄い蒼色の石を取り出し。
「天井さえなかったら、抜け出せたのにな・・・」
石は淡く光りヒジリを包み込む。
光がヒジリの家まで一筋の道を作る。
「帰ってこれ・・・」
「な、なにこれ・・・」
ヒジリの目の前には何も無い。
自分の家があった場所、兵士たち、その家族が住んでいた町。
人はおろか家すら無い。更地になっているのである。
父が持っているはずだった、ヒジリと同じ小さな薄い蒼色の石が足元に落ちている。
「お父様・・・お母様・・・」
どこに行ったのです?返事をしてください。
探し回る。足に力が入らない。
転んでも転んでも走り回る。
何も無い。本当に何も無かった。
辺りは暗くなっていた。もうなにも見えない。
「アハハ・・・」
ヒジリは泣きながら笑う。
「そうよね。そうだよね。他人の命をなんとも思わなかった。
罰が当たったのよ。当然の報いよね。」
「ハツキ・・・あたしも独りになっちゃたよ」
「せめて、せめて、あたしの残りの人生、あの子を護ってあげたいな・・・
独りのあの子をずっと護ってあげたいな。
護れる強さが欲しい。誰にも負けない強さを!あの子がもう傷付かなくて済む強さを!」
ヒジリの周りに不思議な赤紫色の魔方陣が浮かび上がる。
ヒジリはなにも言わず正面を見据える。
ハツキが居るであろう、牢獄の塔をただ見つめて。
ヒジリに眩い真っ白の光が包み込む。
・・・《スキル習得》 『
・・・ 習得者:ヒジリ ・・・
・・・ 護衛対象者:ハツキのみ ・・・
・・・ 尚、習得者・対象者が死亡した場合、このスキルは永遠に失われます ・・・
・・・ ・・・
・・・代償は支払われました ・・・
「わかったわ。ありがとう。」
その後、各地で銀髪で碧い紫がかった瞳の少女が闘技会で目撃される。
そして戦った者、見た者は声を揃えてこう言った。
「銀髪のバーサーカー」
そんなある日、ヒジリは洞窟の前で足を止める。
いや、足が動かない。
体が動かない。
体がアツい。
血が逆流するように感じる。
ドス黒い何かが沸き上がる。
視界が狭まる。
世界が赤い。
ドクン!!!
「やっと、見つけた」
「ハツキ助けるから。あなたは独りじゃないよ。あたしが護るから」
・・・
・・・
・・・ 《初回》発動確認しました ・・・
そこに可憐な少女の姿は無かった。
居るのは真っ白い鬼。
大きな、どこまでも響く咆哮と共に姿を消した。
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