第2話 忘れられぬ過去

「今日はどんな   宝箱カワイイコ に会えるかなぁ~♪」


まだ幼さが残る少年が満面の笑みで軽妙なステップを踏んでいる。

その顔を包容力のある優しい顔で見守る男。


「ねえねえ、お父さん」


「どうした?ハツキ」


「今日はなにあるかな?」


「あるさ!天才トレジャーハンターの俺の勘がそう言うのだ間違いない」


「昨日も一昨日もそう言ってなにもなかったよ~」


がははは!といかにも屈強な盗賊の頭を彷彿とさせる笑い声。



 ~~牢獄の塔~~


コツンコツンと塔の中で響く二人の足音。


「ねえねえ?お父さん」


「どうした?ハツキ」


「なんでココは牢獄の塔なの~?」


お父さんはなんでも知ってる。だって有名な有名なトレジャーハンターだもん。

依頼が無い日はこうやってボクに鍵開け・トラップ回避とたくさん教えてくれる。

大きくなったらお父さんみたいなトレジャーハンターになって世界に名前を広めたいな。


「ここは昔、王様や偉い人を閉じ込めておいた場所なんだよ」


「なんで?」


「そりゃ、あれだ!お偉いさんをカビ臭い所に閉じ込めておけないからだろ」


ふーんとハツキはもう興味が削がれたのか、周りを見渡しながら返事をした。


「今日もお父さんの勘が外れそうだね♪」


「そんな事無いと思うぞ!前に教えた空間把握やってみろ」


ハツキの目の前に地図が広げられる。


ハツキは皮の小袋から銅貨を取り出し、指で銅貨を弾く。

銅貨は天井にぶつかり、そのまま落ちる。

チャリーン、チャリーンと心地よく。


「お父さん、この階層になにかいる?」


「うむ。正解だハツキ!偉いぞ」


ガシガシとハツキの頭を撫でる大きな手。

そうしてもらえるのが嬉しくて堪らない。


「でも場所まではわからないよ~。なにかいる?位までしかわからない~」


「慣れだ!慣れ!たくさん色々な場所でたくさん勉強していけばわかるようになるさ」


「お願いすればボクもお父さんみたいになれるかな~?」


そう。父は憧れであり目標。そうなりたい。願いたい。


いつも優しく包んでくれる父の顔が一変する。

今まで見たことが無い表情。感情が無く、まるでお面を被ってる様な感じさえした。

しかし一瞬だった。気のせいかもしれない。

いつもの優しい顔に戻りこう言った。


「願いはな、あれは呪いと同じだ。能力も魔法も自分の手でなんとかするものだぞ!

 男だったら・・・自分の力で!!!」


さて行くかと、父は背を向けた。

いつも大きくて頼りになる背中ではなかった。

小さく振るえていた。


しばらくハツキと父は無口のまま歩く。

ブーツの音だけが無機質な壁と床に反響する。


「ハツキ。覚えておいてくれ。いつでも足元の感覚、ブーツの反響音にも注意を払え。

 足の感覚はトラップ等の警戒に使える。地図を頭に入れておけば反響で違和感を覚える。

 トラップ付近の床や壁は少し柔らかい。それに逸早く気付ければ生存率は格段に上がる」


常に感覚を研ぎ澄ませ。触れるモノ全てに警戒しろ。

願いで手足・五感を代償に取られたらトレジャーハンター失格だ!

臆病でもいい。臆病は慎重にさせる。それでいいんだ!!と

いつもの優しい笑顔をハツキに向ける。


「そろそろだな。」


父が足を止める。

小さなとても小さな少女の声。

集中してやっと聞こえるほどの。


「泣いてる?」

ハツキは小声で父に尋ねる。


「そうだな。行くか?」


「もちろん!!男が女の子を助けないでどうするの?」


ハツキが胸を反らせながらドンと胸を叩く。


しばらく歩くとそこにあった。いや居た。

鉄格子の奥にある小さな人影。


「だれ?」

か細く、今にも消え入りそうな少女の声。


「ボクの名前はハツキ。天才トレジャーハンター!


 の息子。。。そのうちきっとそう呼ばれる男さ」


自分がカッコいいと思う珍妙なポーズでそう言った。


「気持ち悪い格好しないでもらえますか?盗賊なんて見たくありません」

先ほどまで泣いていた声とは違う、軽蔑する声。


ハツキは自分を否定された気分になった。

最高の笑顔と最高のポーズで自己紹介。

完全にスベったってやつだ。


「少女よ。どうしたのだ?」


父が空気を変えるために質問をする。

息子が不憫になったのもあるのだろう。


「フン!あなたたち盗賊には関係ありません。

 どうせあたしを攫って両親を脅しお金を取ろうとしているのでしょ。

 もう少ししたら助けが来るはずです。もう3日も経ってるのです。

 お父様、お母様が探さないはずがありません。

 夜になると怪物が出ますが牢屋の中には入ってこれません。

 なので怖いことなんて一つもありませんわ!!!」


少女は腰に手を当て、お姫様の様に笑って見せた。

本当のお姫様かお嬢様かもしれないけれど。


うん。そして言ったね。説明したね。

はいはい。出して欲しいんだね。

良し!ここは一発お父さんに褒めてもらうのに

こっそり練習していた解錠技術を見せてやろう。


驚くかな?喜ぶかな?

ハツキが鉄格子の前に期待をしながら歩き出した。


「ま、待てハツキ!!!!」


天井に大きな手が見える。

3本指の赤黒く、触れるモノ全てを切り裂く大きな手。


・・・マジック・トラップ 発動・・・・


    

     ~~ 鬼手デーモン・ハンド~~


「え!?えぇぇぇ~!お父さん~」


父がハツキの方に体を向け、腕を前に出す。


「待ってろ、ハツキ。助けてやるから心配するな」


いつもの優しい笑顔。


父がなにかを呟いていた。


「YES」


ハツキは激しく動揺した。そして混乱した。

次に悲しみに襲われた。


「どうして?お父さん。どうしてなの?」


ハツキの目の前にはさっきまで優しい笑顔を向けてくれる

逞しく、頼りがいのある父の姿は無かった。


右腕と左足が体から離れていた。

床が血で元の色がわからなくなっていた。

首から腰にかけて大きな傷。


「お父さん!ダメ!死んじゃイヤだ!」


ハツキはわかっていた。

父はもう助からない。

血が止まらない。


「ハツキ…すまんな。」


浅い呼吸で父が話す。


「もう、しゃべらないで…」


声にならない。言葉が出ない。

切り裂かれた体から黒いナニカが見えた。


「お、お父さん…これ…は?」


父はククっと笑い答えない。


「お前に渡したいものが…ある…」


残された左腕で腰に付けている白い皮袋を渡す。


「これをお前にやる。大事に使え…」


震える手を差し出し、父からの《形見》を受け取る。


「ハツキ…解鍵出来る様になったの…か?

最後にお前の…技術を見せてくれ…」


ハツキは小さくコクンと頷いた。


今度は慎重に。

冷静に。


ガチャン!


ギギギと重い鉄格子が開く。


目にはたくさんの涙。

涙が溢れない様、最高の笑顔で振り向いた。


「お父さん!どう?ボク出来た…よ…」


返事は無かった。

そこには最高の笑顔と親指が立てられてる父の姿。


「お父さん!お父さん!褒めてよ!!

そしてたくさん撫でてよ!だき…じめでよ…」


言葉にならない。

唯一の肉親を失った。

今日から少年は独り。

たった独りで生きて行かなくてはならない。


「イヤだよ!そばにいてよお父さんー!」


カツン!

少女が後ろに立っていた。さっき助けた少女。


「ごめんなさい。あたしのせいで。あたしはそこに罠があるのを知っていた。でも黙ってた。」


泣きながら少女はハツキに声をかける。


「ウルサイ!黙れ。ボクが油断してボクが勝手に罠に掛かっただけだ!


「だからお願い。一人にして。話掛けないで。」


そう言ってハツキは泣き崩れた。


少女はなにも出来ない。

声も掛けられない。

傍にいてやることさえ。


震える体を無理矢理動かし出口に向かう。

いつまでも少年の声が聞こえた。

唇から血が流れる。

涙と混じり床に溢れ落ちる。


「ゴメンなさい…私があなたを護るから。」


ドクン!

少女の視界が狭く赤くなる。


・・・この日、有名なトレジャーハンターが死んだ・・・


          

・・・スキル     移動する・苦痛ペイン・ムーヴ  ・・・

・・・現在の習得者    0名     ・・・



    ・・・スキルランク  S ・・・・

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