少年は異能少女と出会い、そして……

不皿雨鮮

第0話 回想

 少年は監禁されていた。少年が持つ特異な能力は周囲の人間を恐怖の坩堝に貶める。ただそこにいるだけで恐怖し、ただそこにいるだけで嫌悪感を抱く。黒髪の少年の持つ力はそれくらいに普通ではなかった。

 少年を監禁する人々は、化け物のような残虐性を持ち、故に少年は人間の理不尽さや醜さをよく知っていた。

 少年の目は死んでいた。誰かを信じることができなくなり、それでもかろうじて誰かが自分を救ってくれるのではないかと望みの薄い救いを信じていた。

 傷だらけの体を自らで抱き締めるように膝を抱え、不定期に来る或いは来ない食事を待っていた。

 しかし、その日は違った。家の中から悲鳴や驚きの声があがり、その声が途絶える。その違和感に少年は首を傾げ、しかし動く気にはなれず、ぼぅっと次の展開を、次に起こるであろう異変を待っていた。ほんの僅かに、希望の光を目に宿しながら。

 足音が近くまで来て、扉がゆっくりと開く。

「やぁ、少年。助けに来たよ」

「信じられないと思うけど、君は助かった。これからは自由だ。これから君は普通に生きていけるようになる。さぁ、こっちにおいで」

 突然現れた謎の少年少女。少女にはどこか神々しさがあり、少年には落ち着きがあった。少女と少年には、明らかに普通ではない存在感があった。少年が持つ異能の力と同じ種類の、しかし、どこか質そのものが違うようなそんな、異常な上に異常な、何かがあった。

 少女が、監禁されていた少年に手を差し伸べる。その手は少年が捨てなかった希望――救いの手だった。

 少年は二人の手を取り、監禁されていた部屋を出る。

「それじゃあ、私達や君と同じ異能の力を持つ仲間達のところに行こうか。みんな、色んな意味で愉快な人達だよ」

「僕達や君と同じ、異能の力を持つ人間が集まっているところを通称して『組織』って言うんだ。そこに着くまでに『組織』のこととか、異能の力について、色々と説明するよ」

 少年少女は自分の子供を見るような目で少年を歓迎し、『組織』へと案内する。雑談に興じながら、ゆっくりと少年が持つ警戒心を解きながら。

「異能の力を持つ人間と異能の力を持たない人間の違いはさ、異能の力を持っているか持っていないかだけなんだよ。だから、大丈夫。人間なんて、実はそんなに怖くないんだ」

 少年はそう言って笑う。まるで自分も少年と同じだったかのように。

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