分かれ道の先で 6/6

「じゃ、改めて行くぞお前ら」


 狙撃銃を片掛けに背負ってから、暗視ゴーグルを眼鏡に変えて、3人にジェスチャーしたところで、


「おーい、生きてっか『死の白線デツトライン』」

「『地下』って聞いてすっ飛んできたが、案外余裕そうじゃねーの」

「ん? 何してんだお前ら」

「クソ兵隊共を三枚下ろしにしてきたところだ」

「あれ、お前さんの頼みじゃなかったっけか?」


 怪我けが人の見舞いみたいな、間の抜けた感じの声で、バンザイの格好でそう話しかけてきたのは、名前は省くが馴染なじみのある二つ名持ちの殺し屋連中だった。


 その後ろにゾロゾロと15人ほど、顔見知りの殺し屋達が集まっていた。


帆花ほのがああああ! うおおおおん!」

「うるせえ! お前はターミネーターとでも戦う気か!」


 そしてついでに、またヘリでもとしにきたみたいな銃器を担いだ、目が血走っている文もいた。


「蜂須賀、テメエ勝手に私の名前使ったな?」

「やー。だって、私だけじゃあんまり人集めらんないしー」

「んなこた分かってる。使うなら使うで事前に言えっての」

「集めらんない、ってところは否定して欲しかったなぁ」


 文をよしよしして落ち着かせながら、あんまり反省の色がない蜂須賀に、一番ダメージの入る言い方をしておいた。


 宗司に無事な事を連絡してから、特になにも報酬がないのに来てくれた、ありがたい連中に挨拶しておいた。


 それが済んでから、オッサンにも感謝しとこう、というのと、意味深なあの口の動きの真意を訊こう、と思って姿を探した。


 だが、すでに車庫はもぬけの殻になっていた。





「しっかしまあ、アレだね。帆花ちゃんをみっけたのがあの人で良かったね」


 私の単車と銃2丁を回収するついでに、駆けつけた連中とお礼参りに行く道中、蜂須賀が唐突にそんな事を言ってきた。


 ちなみに、後ろで文がにらみを利かせているのもあって、今のところ蜂須賀はセクハラ的な行為は一切していない。


「あん?」

「あ、知らない? あの人、20年前は将光さんと一緒に当代最強の一角だったんだよ」

「は? 将光まさみつって、彩音あやね先生んとこのオッサン?」

「そそ」


 2つ同時に衝撃が来て、私は一瞬思考が停止した感じがした。


「びっくりした?」

「そりゃな」


 あのオッサン2人、とんだタヌキ共だな……。


 どうやら久佐とかいうオッサンは、私が気絶して良いようにされかけたのを見て、『地下』から自力で私をかっぱらったらしい。


「おい変態」

「はいよ」

「あのオッサンの連絡先知ってるか?」

「ごめん知らない」

「そうか。じゃあ、どっかで会ったら、放っといても良かったのに、わざわざどうも、って伝えといてくれ」

「了解。……ところで、さっき私を名前じゃなくて、変態って呼ばなかった?」

「気になるなら何でさっき返事したんだよ」

「聞き間違いかな、って思って」

「自覚があるから反応すんだろ。ちったあ治す努力しろ」


 ややあって。


「よう。ご機嫌よろしいか? この身の程知らず共め」

「なっ!?」


 海岸端にある『地下』の拠点の1つになっている、外観だけ古く見える倉庫を総勢20人で襲撃すると、とんずらしようとしていた、兵隊と現場指揮官が勢揃せいぞろいしていた。


「どうして分かった不思議か? いくら脳みそにウジが湧いてても、天谷あまや宗司そうじ、と聞きゃ説明不要だろ?」

「分かった! 無礼はびさせて貰う! 迷惑料をあるだけ払おう」

「舐めたこと言ってんじゃねえぞ。もう交渉のテーブルはかち割れてんだよ!」


 私は片手を上げて、やっちまえ、と腕を振り下ろして殺し屋連中にサインを出した。


 すぐさま銃撃戦になったが、数が多いだけの『地下』兵隊どもと、一騎当千レベルがゴロゴロいる殺し屋連中では勝負にならなかった。


 1時間もしない内に、『地下』の兵隊どもの尻の毛までむしりとり、散々な目に遭わせて壊滅かいめつさせた。



                    *



「で、その久佐って『配達屋』を調べろと?」

「おう。こんだけあれば十分だろ?」


 自分の単車で『情報屋』に帰った私は、店のカウンターの中で暇そうにしていた宗司に、そう言って現ナマの封筒の束を渡した。


「まあ、簡単に言っちまえば、おめーの父方の伯父だぞそいつ」

「ほお?」


 あのクソ親に兄弟なんかいたのか……。


 だったらあの意味深な態度も納得がいく。


「どうもお前を引き取ろうとはしていたらしいが、その前に親が売り飛ばしやがったんだと」

「はん。流石だなあの色ボケ親どもが……」


 んなことした理由は大方、最初から無い様なメンツを気にしてだろう。


「まだいるか? 額的にはもうちょい情報出せるが」

「いや、もう良い。別にそこまであのオッサンに興味ねえし」


 4分の1程残った札束を回収しながらそう言って、私は奥の扉から上の階にある自分の部屋に向かった。


 にしてもアレだ。とことんこの辺ついてないんだよな、私。


 大分疲れていた私は、サッと汗だけ流してから、適当に髪を拭いてベッドに寝転がった。


 なんかこう、下手にそういう「あったかもしれねえ」って可能性が見えると、余計惨めになってくるな……。


 考えたって仕方が無いんだが、そう思わざるを得ない。


「ままならねえ……。ままならねえな……」


 そんな、底なし沼のような暗い気持ちに、ズブズブと沈む様に寝かけたとき、6回ぐらい連続で携帯のバイブが鳴った。


 ……? なんだこんな時間に……?


 それはメッセージアプリの通知で、送ってきたのは鈴、文、小菅が1回ずつ、蜂須賀が3回だった。


 全員が口裏を合わせたみたいに、私の今日の不幸をねぎらう内容だった。


 鈴なんかは、今頃気持ち良さそうに寝てる頃だろうし、よっぽど心配してくれたんだろう。


「は……」


 そんな風に、手をつかんで引き上げてくれる存在を感じ、私は少しだけ目頭が熱くなった。


 こういう連中がいるってだけで、少しはマシなのかもしれないな。


 ちなみに蜂須賀だけは、暇ならよろしくやらない? という物が最後にくっついていた。


 無言で蜂須賀の友達登録を外して、私は少し口元を緩ませつつ、眼鏡を外して布団に潜った。


『ちょっとー! ひどくなーい?』

「やかましい! ひでえのはテメーのモラルだ! このクソメスゴリラ!」


 30秒後ぐらいに、蜂須賀から電話がかかってきて、ひえーん、といった感じで抗議してきた。


 特に反省の色が無い変態の言葉に、私は全力でブチ切れておいた。

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