あおい世界

カゲトモ

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 暑いアスファルトの上を歩き終え、館内に入ると身体を包む空気が一気に軽くなったような気がした。空調が利いているのは確かだが、目に映るこの光景も一役買っているのだろう。

 目の前には大きな水槽。それから沢山の魚達。辺りは薄暗くて、水槽だけがぼんやりと明るい。厚いガラスにぺったりとくっ付いて、身体の何倍もある水槽を見つめる。

 ひとしきりこの大きな水槽を満喫すると、次は小さな水槽が並んでいるエリアへ。

 フワフワと心地よさそうに浮かぶクラゲ、イソギンチャクでかくれんぼをするクマノミ、色とりどりのカラーで水槽をにぎわせる小さな熱帯魚達、美味しそうに見えるタカアシガニや小さな体で一生懸命泳ぐエビ、良く分からないチンアナゴに気味の悪いウツボ。

 知っているようで知らない、海の生き物が沢山いる。

 それからサメやシャチ、ペンギン、ラッコなんかの動物の泳ぐ姿を見たり、イルカのショーを見たり。海に住む動物の、つぶらな瞳がとても愛らしい。

 さらに進むと、もう一度大きな水槽が目に入る。今度は大きな円柱のなかに様々な種類の生き物が展示されていた。

 大きい魚も小さい魚も、か弱く見える生き物も、凶暴に見える生き物も。まるで本当の海の様に全てが一緒になっている空間。

「どうしてみんなケンカしないでなかよくしているの?」

「それはね、みんなちゃんと餌を貰えているからだよ」

「だからケンカしないの?」

「お腹いっぱいだからね」

 そっかぁ、お腹いっぱいだったら幸せだもんねぇ! なんて、微笑ましすぎて頬が緩む。 

 この水族館の最後は、長いトンネル型の水槽だ。ゆったりとした坂道で、海の底から海面までを歩けるようになっている。

 一番下では、かざした手すら全てを青く染める、海の底。そこから一歩一歩足を進める。小さな足では本当にゆっくりとしか進むことが出来ない。

 頭上に影が落ちた。なんだろうと思って上を見ると、大きく身体を広げたマンタがトンネルの上をゆったりと横切っていた。

「まほうのジュウタンみたいだね!」

 その言葉に目を丸くする。同じことを言っていた、小さなころの俺と同じ言葉を。

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