第214話 風呂場

 珍しくバスルームに着いてきたクロさん。

「今日はどうしたのクロさん」

『たまにはね…』


 フンッ…フンッ、鼻を鳴らしながら浴槽の淵でドスンと座る。


 大きな黒い猫。


 顔は全然違うが、姉さんも真っ黒い猫だった。

 姉さんは、バスルームが好きで、夏でも冬でも着いてきた。

 浴槽の淵にシャナリと座って、洗面器でお湯を飲む。


 どうしても思い出してしまう…。

 どうしても…

「クロさん…姉さんはね、こうしてお湯を飲んだんだよ」

 洗面器にシャワーでお湯を満たして差し出して見る。

 チロチロと舐めて、蛇口へ歩いて行く。

『ニート、これして』


 クロさんは蛇口から流れるお湯のほうが好きらしい。

 顔をバシャバシャに濡らしながらアフアフ飲んでいる?


「姉さんが見たら、どんな顔をするだろうか…」

 ひととき泣いて…少し笑った。

 今夜は長い風呂だった。

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