1. 不穏な影

 眠れない。

 ベッドから起き上がり、カーテンを開け、窓の外を見る。窓を閉めているはずなのに、外から冷たい空気が入ってくる。部屋の中でもはーっと口から息を吐けば、白い空気がはっきりと見えるほど寒い。

 今日はクリスマスイヴ。だけども、雪は積もっていない。それどころか、こんなに寒いのに雪は少しも降っていない。雲ひとつない空が月と星の光で明るくなっている。

 これで満月だったらまだ良かったんだろうけど、今日は半月と三日月の間。.....なんとも言えない。

 あと30分位でクリスマスだ。12時になれば、親がクリスマスプレゼントを置きに部屋へやってくる。

 足音が聞こえてきたらベッドの中に入ればいい。親がいるのは1階。ここは2階だから、親が部屋に入ってくる前にベッドの中に入る時間は十分にある。


 俺は、5年前からサンタを信じていない。

 小学校1年生の時、俺はサンタを一目見ようと、ベッドの中で一生懸命起きていた。

 眠ってしまいそうになっては目を開き、眠ってしまいそうになっては目を開き.....の繰り返し。

 日付けが変わりそうな時間まで頑張って起きていたが、とうとう我慢できずに寝ようとしたその時、部屋の扉が開いた。

 サンタさんが来た!

 思わず布団を頭からかぶる。

 起きているのがバレていないか不安になりながら、ぎゅっと目を閉じる。

 .....ベッドの近くにある机の上に何かが置かれる音が聞こえた。

 プレゼントだ!

 そう思った俺は、まだ見ぬサンタにバレないように、布団の隙間からこっそりと机の方を見た。

 机の上に置かれているそれはたしかにクリスマスプレゼントのように思えた。

 しかし、机の近くに居たのはサンタではなく.....お母さんだった。

 このとき俺は、サンタはいないということを知った。

 それからは毎年、クリスマスイヴの夜は眠れず、お母さんにより、クリスマスプレゼントが机の上に置かれるのを見届けたあと、やっと眠たくなってくる。

 というわけで、俺は今年も全く眠れないでいる。.....もしかして俺は、まだサンタはいると思っているのかな。

 それにしても、今日は一段と寒いな。布団に潜って丸くなっていようか.....。

 カーテンを閉め、ベッドに戻ろうとする。

「.....っ!」

 一瞬、ベッドが暗くなった気がした。

 いや、ベッドだけじゃない。部屋全体が暗くなった。

 カーテンを閉めているとはいえ、月の明かりで十分に部屋全体をちゃんと見ることができる。

 雲ひとつない空。例え、月が雲に隠れて空が暗くなったとしても、こんなに一瞬で部屋が暗くなり、そして明るくなるだろうか。

 いや、気のせいだ。今度こそ布団の中に.....。

「あ、またっ.....!」

 また部屋が暗くなった。

 今度は一瞬だけじゃなく、ずっと暗いまま。

 でも、部屋全体が暗いわけじゃない。所々、月の明かりで照らされている場所がある。

 外の何かにバレないように、そーっとベッドの上に立ち、影の全体像を見たけど、一体何の影なのか分からない。

 少し気分が落ち着いてきて、また影をよく見ると、モゾモゾと動いている。.....気味が悪い。

 ベッドから降り、窓の方を見る。どうやら結構窓の近くに何かがいるみたいだ。

 .....これは夢だろうか。でも、ここまではっきりとした夢は見たことがない。

 意識を、寒さを、そして少し怖いという感情を、あまりにもはっきりと認識することができる。

 もう、このまま寝てしまおうか。眠れなくても寝たフリをし続けていれば、そのうちお母さんが部屋に来て、どうにかしてくれるだろう。

 そう思い、ベッドの中に入ろうとするが、いつまでも消えない外の影が気になる。

「.....」

 一か八か。

 とうとう怖さよりも好奇心が勝った俺は、我慢できずにカーテンを開け、窓の外を見た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信じる君に モノノコト @mononokoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る