夜空を灼いて、眠りにつくまで

なるゆら

オープニング

音のない世界。

導火線を走る火のような微かな光が、何もない世界にチラチラと輝いて、自分をどこかへ誘ってくれている。

小さな輝きが消えた瞬間に真っ白な明かりが視界を開いた。

黒を背景に、白く切り取られて湧き上がる風景。

大きな樹の下で月明かりに照らされて誰かが立っていた。

長い髪が吹き抜ける風に揺れて、星のような煌めきを散らす。それが誰なのかは思い出せないけれど、どこか懐かしく、そして恐ろしくもあって、自分はただその姿を見つめている。


ここはどこだろう。よく知っている場所のはずだった。

わからないのも仕方ない。これは夢だから。

誰かが立っている様を、ただ見ているだけ。

辺りは暗くて色も見えない。白い煌めきを纏った誰かと、足下には紅に染まった赤の絨毯。月明かりが切り取った分だけの景色がそこにあった。


長い髪の誰かがゆっくりとこちらに振り向く。視線が重なった。

一瞬で身体が灼き焦げてなくなるような衝撃が走って、遅れて強い恐怖を自覚した。

紅い瞳。それだけに意識が吸い込まれていく。


それは何も語らない。語らないままこちらを見つめている。

世界に音がない。今その声を聞かせてくれたなら、どんなに生き生きとした夢になるだろう。

恐怖を感じているはずなのに、期待を感じる自分が不思議に思えた。その声で何を語るのだろう。自分はそれを望んでいる。


声はない。けれど、少しだけ笑った気がした。

それは気のせいかもしれない。ただ、その表情はとても悲しげに見えた。


皮膚が空気の振動を感じたような気がして音がやってきた。無音だった世界に耳をつんざくような爆破音。景色が一変する。


赤。紙吹雪のようななにかで視界が赤でいっぱいになる。

ゆっくりと、ひとつひとつが風車のようにくるくると回りながら、辺り一面にそれが降り注ぐ。


他に見えるものはもう何もない。

降り止まない赤が、辺りをさらに赤に染める。


まわるそれを手の平にひとつ。

雨や雪ではない。風車でもなかった。

それは、何かの葉。


これは。

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