お弁当は仲良く食べよう

 滑っていることを自覚し、チキンライスで般若こんにゃくにダメージを与えた。

 ここから俺の必勝大逆転レシピが始まるぜ。


「まだだ。一撃返した程度で図に乗るなよ!!」


 当然だろう。間髪入れずに次の技に入る。両手においしいおかずパワーを集中していこう。


「ナ・ポ…………」


「これはナポリタンの波動? そいつは我が出したはずだぞ!」


「リ・タ……」


「いいだろう。あくまで同じ技で来るというのなら迎え撃とう! こちらもナポリタンだ!!」


 愚かな。技にばかり目が行って、背後から来るバイクに乗った配達員の俺に気づかない。


「ピザおまたせしましたー!」


「ゲバアァァ!?」


 そのまま般若を跳ね飛ばし、熱々のピザを三十分以内にお届けできた達成感に包まれた。


「お弁当勝負でピザ頼んじゃった!?」


「このピザに俺の魂をトッピングだ!」


 右肘の格納スペースが開き、真っ赤に燃える魂が取り出された。


「どこに魂入ってんの!?」


「さらに熱くなれ! 俺の特製ピザよ!」


 光り輝くピザは高速回転を始め、灼熱の炎を纏った円月輪へと変わる。


「スピリット・オブ・イタリアーノ!!」


「ぐわああああぁぁぁ!!」


 灼熱ピザにより全身を切り裂かれた般若は、確かにダメージを負った。


「こんにゃくの硬度でも、俺のお弁当には耐えられまい」


「お弁当じゃないよそれ!!」


「次のおかずに移るぜ」


 まだまだ俺の料理は止まらない。ここからが開けて嬉しい楽しいお弁当だぜ。


「させん! この程度のダメージなど、こんにゃくであれば無効化できるわ!」


「今回使うのは、たけのこ、醤油、天狗です」


「妖怪入ったー!?」 


 キッチンに材料を並べていく。新鮮なやつが取れたぜ。


「では早速、調理したいと思います」


 全部を電子レンジに入れて、タイマーを5分にセットした。


「よし」


「それ調理でいいの!?」


「馬鹿め! ならば五分以内に決着をつけてくれるわ!」


「まずいよマサキ様! なんとか時間を稼いで!!」


 レンジを高く投げ、後ろからオーバーヘッドキックで蹴り飛ばす。

 これにより、中身がシェイクされ、高速調理が完成する。


「伸び出せ! 鼻竹焼き!!」


「レンジごといったー!?」


 レンジの蓋が開き、成長した竹と天狗の鼻が、醤油まみれになって無数に襲う。

 あまりに数の多さに、般若の回避行動を許さない。


「ぬおおおぉぉぉ!?」


 竹は槍にできるほど鋭利な植物だ。そこに天狗の鼻が加わり、醤油の風味が食欲を増す。完璧な布陣である。


「これじゃあ串焼き。まるでおでんだぜ」


 竹に貫かれ、般若、天狗、俺はその動きを止めた。


「マサキ様も貫かれてるー!?」


「ぬああああ! 奥義、こんにゃくの柔らかさ!!」


 竹からぬるりと抜け出ている。きもい。傷口もふさがっているようだ。


「ふはははは! どうだこの弾力と滑らかさ! ただの人間にはできまい!」


「いくぜ天狗」


「了解テン!」


 だが脱出しているのは俺と天狗も同じ。二人で風を起こし、真空の刃が般若を襲う。


「合体奥義、神風創刃撃!!」


「急にかっこいい技出たああぁぁ!?」


「うげばがあああああ!?」


「後は任せるテンよ」


「サンキュー天狗」


 お前との合体攻撃、悪くなかったぜ。醤油くさいから二度と来るなよ。


「負けはしない! オレの全身はこんにゃく! さらに600倍パワーアップする秘策があるのだ!! これがその奥義だ!!」


「ピザうめー」


「ピザ食べてる!? ちゃんと見てあげなよ!」


 般若は全身に味噌を塗り込んでいる。これは……確かに闘気が何十倍にも膨れ上がっている。


「味噌こんにゃくこそ、あらゆるニーズに答え、全世界の食卓を彩る完全食だあ!!」


「そんなすごいものじゃないでしょ!?」


「完全食か……その時点でお前は負けているのさ」


「ぬかせ! フルパワーの我は、この星を、銀河を破壊することなど容易い!!」


 どこまでも愚かな男だ。その程度の力のために、本質さえも忘れたか。


「ならば問おう。お弁当に必須のものとは何だ?」


「味噌こんにゃく!」


「正解! 答えは愛だ!」


「間違ってるじゃん!!」


「不正解者には罰ゲーム!!」


 般若に鉄の台をぶつけ、怯んだ隙に寝かせて拘束する。


「ぬおおぉおぉぉ!? 離せ! 離さんか!」


「いまからこのお弁当をもっと美味しくするために、愛を込めまーす!」


 木刀を構えて精神集中。研ぎ澄ませた剣を幾度も振り下ろす。


「ラブ注入ラブ注入ラブ注入ラブ注入ラブ注入ラブ注入うううぅぅう!!」


「ぎゃあああああぁぁぁ!!」


「愛情のカケラもなーい!?」


「ふざけるなあああぁぁ!!」


 自力で拘束を解いたか。味噌こんにゃくの力は認めてやろう。だが俺は負けない。お前は勝負から遠ざかっているのさ。


「味噌こんにゃく極上奥義! スペースこんにゃく!!」


 空がこんにゃくと味噌で塗り潰されていく。星が、世界が染まっていくようだ。


「宇宙とはこんにゃく。時の流れとは味噌。もうじき全宇宙は我の支配下となる。全生物がこんにゃくを崇め、貴様の敵となるぞ!!」


「これがお前の世界か……やはり脆いな」


「ぬかせ! 宇宙まで来る術などあるまい! 遥かなる高みから、貴様が死ぬのを見届けてやるわ!」


「飛べる……俺なら飛べるさ。だって、高校生活最後のインターハイだもの」


 走高跳びのポールに向かって、勢いよく走り出した。


「いやいや相手宇宙だよ!?」


「やってやるわ! だってせっかく掴んだレギュラーだもの! わたし、もうこの夏にかけるしか無いのよ!」


「口調キモい!? しかも今冬だって!!」


 そして人生最高の高跳びを決めた。


「はっ! 残念だったな! 人間のジャンプ力では、天には届かんのだ!」


 そう、まだ敵まで半分ある。だが問題ない。さらに飛べばいいだけだ。


「二段……ジャンプ……」


 飛べた……わたし飛べたよ……ありがとうみんな。

 わたし…………こんにゃくをぶち殺します。


「なにいいぃぃぃぃ!?」


 驚いているスペースこんにゃくを掴んで丸め、ともに地面へと急速落下。


「掴んだぜ! 巨大隕石大落下!!」


「どびゃああぁぁぁ!!」


 般若を最高のステージが見えるVIP席へと叩きつけた。

 そろそろ終わらせよう。時間をかけすぎると、保存の効くお弁当でも腐っちまうからな。


「さあ、歌謡ショウが始まるぜ!」


 世界は劇場へと変化する。舞台の幕が開き、唐揚げが、だし巻き卵が、色とりどりのおかずがフレンチカンカンの衣装で舞い踊る。


「なにこれ気色悪い!?」


「このような茶番で我の支配を崩すだと!?」


「お前は自分を完全食と言った。だがそれは、お弁当として調和を乱す暴挙だ。他のおかずを不要と断じ、己の存在だけを誇示する貴様に、愛あるお弁当は作れない」


 愛のない般若に、他人のおかずを奪って生きる外道にはわかるまい。

 お弁当は宝箱。愛を詰めて届けるものだ。


「許せん、英雄マサキよ! ここで地獄に落ちろおおおおぉ!!」


「地獄に行くのはお前さ。地獄の釜であく取りでもしてもらうんだな。必殺異世界チート!!」


 米も、おかずも、デザートも、俺とともにエネルギーを極限まで高め、爆発させていく。

 やがて一筋の光となった俺たちは、般若に向けて光速で突撃。その胃袋を正義のお弁当パワーで満たしていく。


「おかず・DE・歌謡ショウ!!」


「こんにゃくは……こんにゃくは完全食なのにいいいいいいぃぃぃ!!」


 爆炎を撒き散らし、味噌の香りを漂わせながら、般若こんにゃくは爆発して消えた。


「まったく……洒落にならん強さしおってからに……」


 最悪サファイアとの融合を考えるレベルだったぜ。実戦の勘が鈍っていたとはいえ、今回は強敵だった。


「やったねマサキ様!」


「ああ、だがこれで終わったわけじゃなさそうだ」


 あいつはおかずブラザーズ次兄。つまり長男がいるはずだ。

 俺の戦いは、まだまだ終わらない。

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