怪盗ラスアン
俺とサファイアに護衛のムラクモさん。
そして椅子で爆睡中のユカリは、最高級温泉旅館で事件に巻き込まれた。
ムラクモさんによる現場検証も終わり、客と従業員が集められた。
「確認するわね。御神体が盗まれると、旅館に結界が張られるから逃げ出せない」
「騎士団長クラスが本気を出せば、破壊できるかもしれませんが」
「そんな物音は聞いていない。つまりまだ犯人は旅館にいます!」
なぜサファイアが仕切っているのだろう。すげえ楽しそうだな。
「盗まれたのは、ついさっき。お風呂から出てくるちょっと前ね。えーまずアリバイを聞いていったところ、ファウさんとロザリーさんは、私たちと温泉にいました」
赤毛の女二人組のことらしい。髪の短く、スタイルがいいのがファウ。
髪が長く、少女に近いのがロザリーらしいよ。
「ケンファーさんは、おみやげコーナーにいたらしいです。店員さんが確認済み」
三十代くらいの青髪の男だ。体格もいい。
「間違いないよ。オレはこの件には関係ない」
「最後にエオスさん。あなたはどこに?」
バスローブで金髪のおっさん。服の上からわかるほど、腹が出ている。
これで金庫破りの犯人できるのかね。
「ワシは大浴場だよ。他に客はいなかった」
ムラクモさんが、エオスさんの頭部をチラチラ見ている。
ちょっと薄くなってるけど、あまり見るのは失礼だと思うよ。
「俺たちは露天風呂だったしなあ」
「マサキ様、お約束とはいえ、覗きとかしてませんね?」
「するかボケ。普通に風呂入ったわ。ですよね?」
「無論であります。騎士団の規範となるべく、そういう行為は一切ございません!」
こちらにはムラクモさんという証人がいる。
これで疑いは晴れるのだ。っていうか別に見たくねえよ。
「従業員は私の他に二名。それに支配人と、シェフが二人です」
「従業員は白でいいだろう。全員装置のことは知っていたらしいし、高級旅館だ。御神体売っぱらうより、よっぽど金もらってるだろ」
「つまり何かね? ワシらの中に犯人がいるとでも?」
「知らんやつが紛れている可能性があります」
この旅館に侵入した何者かの犯行という可能性だ。
状況の整理も兼ねて、一番広いロビーへと集まった。
「まずは旅館をくまなく調べる必要がありますね」
「何か目印でもあればいいんですが……こちらは御神体がどんなものか知りませんし」
「でしたらご安心ください。このスイッチがあれば……」
従業員さんが何かのスイッチを持っている。
「これを押せば、御神体がアホほど光ります」
「えぇ……何でそんな機能が……」
「神々しさのアップですね」
「逆に俗っぽくなるだろ」
俺がおかしいのだろうか。異世界さんの感覚はわからん。
「ではスイッチオン!」
そして輝くエオスさんのおなか。眩しいわ。
バスローブ越しでも眩しいぞ。
「なんと神々しい光……」
「それがおっさんの腹から出てるのはどうよ?」
「どういうことですかエオスさん」
「ばれてしまっては仕方がない!」
バスローブを脱ぎ捨て、天井に逆さまに立つエオスさん。
その姿はシルクハットにサングラス。そしてスーツにマントだ。
「ワシは怪盗ラスアン! 御神体はいただいたぞ!!」
「ラスアン!? あの世間を騒がせている、美術品や貴重品を盗んでは去っていくあの!?」
「その通りだ! フハハハハ!!」
どうやら有名らしい。体格もよく、筋肉もあるようだ。
大きな腹だと思っていたのは、御神体を隠していたからか。
「もう逃げられないわよ! 観念して捕まりなさい!」
「このワシに勝てると思うのか!!」
魔力が渦巻き、光と混ざっていく。ここで暴れるつもりか。
「いけません! 皆様こちらへ避難を!」
従業員さんとユカリが避難誘導してくれる。
しょうがない、旅行ついでに悪人退治だ。
「あなたのせいで探偵っぽいことができなかったわ! もうちょっとちゃんとしなさい!」
「敵に言うことか」
「諦めろラスアン。自分は第七騎士団長ムラクモ! どこにも逃げ場はないぞ!」
「逃げも隠れもしないさ。お前はどうやら隠し事があるようだがな」
「ぬうぅ!? 騎士団長である自分に、隠しごとなどない!」
口論で揺さぶりをかけるつもりだろうか。
さっさと倒したほうが良さそうだな。
「サファイア!」
「任せて! フリージングネット!」
氷の網がしなりながらラスアンへ飛ぶ。
氷の動きじゃないが、魔法ならできるんだろう。
「無駄だ! フォーカードスラッシュ!」
巨大なトランプ四枚がこちらへ飛んでくる。
氷を切り裂き、サファイアへと一直線。
「結界!」
「フルハウスボム!!」
トランプ五枚に爆弾が描かれている。
結界に触れて爆発を起こし、ロビーが荒れる。
爆弾使ってきたぞこいつ。いやいや周囲の被害とか考えろよ。
「どうした? 騎士団長とはこんなものか? ジャックナイフ!!」
四枚のジャックカードが飛んでくる。手に持っている剣が具現化しはじめていた。
「ええい、紙切れごときに遅れはとらんわい!」
豪快にカードを切り刻んでいくムラクモさん。
やはり強い。いいぞ騎士団長。
「ならばもっと増やしてやろう」
空中を飛び回りながら、各種トランプの兵士と武器で翻弄してくる。
「しょうがない……必殺異世界チート!」
見ているだけってのも気に入らん。護衛らしく戦うとしよう。
「腹ペコヤギさん大行進!!」
現れたヤギの大群により、トランプが出たそばから食われていく。
「なんだと!?」
「ナイスマサキ様!」
「おのれヤギに食わせて助かるとは!」
「甘いな。一番食ったのは俺だぜ」
残りのトランプを食いつくしてやった。
「なんで!? おなか壊すよ!?」
「トランプしか芸のないやつなど、所詮はこの程度だ」
「言ってくれるな。ならばこれはどうだ! 爆熱ハト乱舞!!」
シルクハットから、火だるまのハトが大量に飛んでくる。
「かわいそうだよ!?」
「腹ペコ女将大行進!!」
大量の女将がハトを食い散らかしていく。
「せめておいしく食べてやるぜ」
「シンプルに気持ち悪い!?」
「これが……マサキ殿の戦い……?」
驚いて動けないムラクモさんは無視。問題はラスアンだ。
「ふっ、だが大行進シリーズは二回やってしまった。もう同じネタは飽きられるのではないかな?」
「くっ、見抜かれたか」
「どういう戦いなの!?」
「貴様が使わないなら、こちらからいくぞ!」
ラスアンの前に大きなカーテンが登場。
何をしているのかわからんが、大量に気配がある。
「見ているだけでは始まりませんぞ。ここは自分にお任せを!!」
ムラクモさんが剣を構えて突撃。カーテンを切り裂くと、中からワニの大群が押し寄せる。
「怪盗奥義! 腹ペコワニさん大行進!」
「バカな……俺の技を返しただと!?」
「ぬおおおおおぉぉ!?」
ムラクモさんに食らいつくワニたち。だが鎧もあるし、近づくやつから斬り伏せている。心配なさそうだな。
「やめろ! 兜はやめろおおぉぉ!!」
「貴様が使えなければ、ワシが使うのよ!」
問題はそこである。こいつ……ちょいと面倒なことになるぜ。
「さあどうする? ワニはまだまだ増えるぞ。このロビーを埋め尽くしてやる!」
「どうするのマサキ様!」
「任せな、お前のワニを借りるぜ! 必殺異世界チート!」
おとなしくしているワニに近づき、くるっとひっくり返してやる。
「おりゃおりゃおりゃおりゃ!! 必殺ヘラ返しじゃーい!!」
お好み焼きに使うヘラで、一気にワニを全部ひっくり返す。
「ワニをひっくり返すと……ニワだ!!」
「だからなんなの!?」
その瞬間。俺たちは西洋風ロイヤルガーデンへとワープした。
噴水とバラのある高貴なスポットだ。
「ワニによって庭を作らせてもらった。ロイヤルローズガーデンへようこそ」
「できるわけないでしょ!?」
ワニはこれで処理できた。あとは噴水の上に立つラスアンを倒すだけだ。
「やりおる。小僧、名を聞いておこうか」
「俺の名はマサキ」
「マサキだと?」
「いかにも! この御方こそ、ドグレサ帝国打倒の立役者! 英雄マサキ殿だ!!」
「ほう……噂には聞いていたが。若いな」
男の顔から余裕が消えた。真剣に俺を敵とみなしたのだろう。
「だが手加減はせん。もう小僧とも呼ばぬ。英雄マサキよ、ここで確実に貴様を仕留める! 怪盗奥義、死地並べ!!」
七枚のトランプが現れ、一斉にこちらへと飛んでくる。
「バラよ! やつを討て!」
バラとツルが大量に蠢き、ラスアンへと光速で突っ込んでいく。
「無駄なことを」
カードに触れた瞬間、一斉に枯れだしてしまう。
「なんだと!?」
「死地並べは、それぞれが死を運ぶ呪いのカード。七回殺すまで止まらんぞ!!」
残るカードは六枚。なるほど、かなりの殺傷能力だ。
「さあどうする? いつまでバラに守ってもらえるかな?」
「いいだろう、ならばお前を、不思議な都市伝説の世界へ招待してやるぜ」
「面白い。ぜひご招待願おうか!!」
「必殺異世界チート!」
俺の体が輝きを放ち、白い帽子に白いワンピースへと変わる。
そして身長が三メートル近くなった。
「俺式八尺様の術!!」
「なんか大きくなったー!?」
「それがどうした? カードに触れる面積が増えるだけであろう?」
「どうするのマサキ様? このままじゃラスアンの言う通りよ」
「問題ない。とうっ!」
そのまま空中のラスアンへ特攻。俺にカードが触れるが問題はない。
「バカめ! 自ら死にに来たか!」
「どうかな?」
カードに触れるたびに、俺の体がひと回り小さくなっていく。
だがそれだけだ。六枚すべてを受けて、ようやく元の俺のサイズになっただけ。
「八尺様が七回死んで、一尺様だぜ!!」
「ありえん!? 死を乗り越えたというのか!」
ラスアンの腹にドロップキックをお見舞いし、そこから拳の連打へと突入する。
「ぽ~ぽぽぽぽぽぽぽぽぽああぁぁ!!」
「うごあああぁぁぁ!!」
噴水に激突し、水柱をあげてぶっ倒れるラスアン。決まったぜ。
「あれはマサキ様の能力なのか? なんと形容すればいいのだ!」
「あんまり深く考えない方がいいよ……」
「ぐぐ……もう一度だ! もう一度死地並べをくらえい!!」
水浸しのラスアンが復活。しぶといやつだ。
また七枚のカードが来るが、その技は完全に見切っている。
「ドッペルゲンガー!」
もう一人の俺を呼び出し、瞬時に融合を完了させた。
「一尺様と八尺様で、九尺様だぜ!!」
「やりおる、尺数を増やすとは!!」
「尺数ってなに!?」
さあて、まだまだ恐怖の世界は続くぜ。
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