俺の最強チートが「ギャグキャラになってハジケる」だったせいで普通のファンタジー世界で1人だけボケるしかない!俺TUEEEが難しいんじゃい!!

白銀天城

最強だけど難儀な力 それはギャグ

 異世界転生・転移。それは楽しさあふれる夢の世界への招待状。

 そのはずだ。はずなんだよ。


「さあマサキ様、この先が魔王の間です」


 女神に出会い、チートやるから異世界を救ってくれと言われた時、正直すげえ嬉しかったよ。

 ゲームや漫画みたいなことが現実に起きて、これから楽しい異世界ライフ。

 そのはずだったんだ。


「よし、行くぞ。この戦いを終わらせる」


 この世界を救ってくれるなら、そのチートは永遠に俺のもの。

 神でも概念的存在や超強力な能力でも奪えない。真似できない。超えられない。

 最強無敵にしてなんでもできる。

 そんな女神全員が結集して生み出した究極の力。


「待っていたぞ勇者よ!」


 目の前にいる怖そうな魔王だって倒せる。

 俺のような黒髪黒目のどこから見ても日本人高校生でも。

 間違いなく倒せはする。するんだ。


「決着をつけよう、魔王」


 できれば普通の形でつけたい。けれどそうもいかないだろう。

 他の勇者が四天王すら倒せず挫折した世界だからなあ。

 仕方ないので戦闘態勢を取る。できれば御免こうむるけど。

 だって俺のチートは、俺のチートは……。


「出し惜しみはせん! これが我が最終形態だ!」


 でっかくて黒いドラゴンへと変わっていくラスボス。

 それと同時に、俺も首から下がまったく同じ姿へと変貌していく。


「あっ、僕もです。お揃いですね」


「……なんのつもりだ」


「マサキ様まで変化したー!?」


 俺のチートは『ギャグマンガみたいに好き勝手暴走してボケ倒せる』という、なんとも残念なものだった。


「形ばかり真似たところで、我が五百京の異能は真似できん! 死ねい!!」


 数え切れないほどの異能が俺に向かって飛んでくる。

 火・風・水・土から時間操作や即死魔法など様々だ。

 焦らず、気負わず、ただ横に出たカウンター席に座り、初老のマスターにオーダーを伝える。


「マスター、彼に同じものを」


「かしこまりました」


「知らない紳士が出てきた!?」


 マスターは魔王までカウンターテーブルを伸ばし、全く同じ異能の嵐をシャーッとテーブルを滑らせて魔王へとお届けする。


「必殺異世界チート、カウンター席からカウンターアタック!」


「恐ろしいほどしょうもない技出たああぁぁ!?」


「ぎゃああぁぁぁぁ!?」


 見事魔王にヒット。こちらに飛んできた異能攻撃はすべて弾かれて消えた。

 なぜなら今日はもう店じまい。能力だろうと入ってくることはできない。


「この姿にだけはなりたくなかったが……仕方があるまい。リミッターを外すぞ!!」


 よくわからんこといい出した魔王がさらにでかくなり、翼が四枚になる。


「よかろう、俺も真の姿を見せてやる」


 それと同時に俺は背中のチャックを開け、六枚羽の天使へと昇華した。


「きぐるみだったの!? っていうか翼似合ってない!?」


 俺の純白の翼はどんどん黒く染まっていく。さながら堕天使のように。


「この羽一枚一枚が、お前たちに苦しめられた人々の恨みだ!」


「急に勇者っぽいこと言い出した!?」


「くだらん。闇の力で負けるものか! 死ねい勇者!!」


 口から黒く渦巻く火炎を吐いてくる。

 どうやら億に到達している熱は、確実に俺の体を焼いていく。

 だが痛くも痒くも熱くもない。


「マサキ様ああぁぁ! 勇者が焼き鳥になっちゃう!!」


「教えてやるぜ魔王。不死鳥は、炎の中から蘇る!!」


「なにいぃ!?」


 火炎から飛び出す八個の大きな卵。

 やがて殻が割れ、八人の黄色くかわいい鳥となった俺が飛び出した。


「ザ・フェニックス!!」


「どう見てもアヒルだー!?」


「よくわからんが、その醜い姿に生まれ変わることが精一杯だったようだな勇者よ」


「どうかな?」


 俺全員で魔王を取り囲む。

 そして今、進化の時を迎えた。


「みにくいアヒルの子は、実は白鳥だったのです」


 美しい白鳥となった俺たちは、魔王をしっかり掴んで天へ舞う。


「くっ、離せ!!」


「いいや離さないぜ。お前はこのまま地獄に落ちるのさ」


 屋根をぶち抜き空中でがっちり魔王を固める俺たちは、それぞれが星のように輝き、白鳥座を描く。


「これが正義と勇気と絆の……スワンドライバー!!」


 そのまま全力を開放して急降下。

 魔王城へと叩きつけ、城も魔王も粉々に爆裂した。


「バカな……まったく意味がわからんぞおおおぉぉぉ!!」


「悪党ってのは、最後には消えちまうもんさ」


 消滅していく魔王を横目に、空のグラスに透明な液体を注いでくれるマスター。


「どうぞ、水です」


「ありがとう。素敵な出会いに、乾杯」


 俺とマスターがグラスを合わせる前に、テーブルもマスターも消えていた。


「ありがとうマスター。俺、マスターみたいな紳士になるよ」


「今のマスター誰だったんですか!?」


 こうして世界は勇者と初老の紳士によって救われた。


「終わったか……」


 俺の体も戻って一人になった。

 なぜこんなわけのわからんチートなんだ。


「お疲れ様です! まさか本当に一人で魔王を倒してしまうとは! 凄いですマサキ様!!」


「こんな戦い方で仲間になってくれるやつなんかいないだろ」


 できれば誰にも見られたくない。だから仲間は作らなかった。

 女神がいればガイド役にもなるし、ぶっちゃけチームプレーに向いていない。


「これで別世界で好きに生きていいんだな?」


「はい。お約束どおり別世界を移動する力と、面倒を省く機能をつけました」


「ならいい。世話になった。いろいろありがとう。本当に助かったよ」


 この女神ユカリともここまでだ。

 能力をくれたお礼だけはきっちり言ってお別れしよう。


「いえいえ、ですがせっかく世界を救ったのです。英雄としてここに残ってもいいのでは?」


「無理だ。戦闘を見られた」


 終始あんな戦いだからな。

 チートで困難をさらっと乗り越え、悠々自適な異世界生活という目標に支障が出る。

 変な勇者として見られると面倒だ。やはり別世界に行こう。


「困ったことがあったら、いつでも遊びに来てください。女神一同お待ちしております」


「あまり迷惑かけないように気をつける。じゃあな」


「はい、お疲れ様でした! 勇者マサキ様の旅路に栄光あれ!」


 軽く手を振り、お互い笑顔で別れる。

 ユカリは女神界へ帰るか、また別の異世界を担当するのだろう。


「次はのんびり異世界漫遊記になるといいな」


 普通に異世界転移を楽しませてくれ。お願いだから。

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