ライカンリーパー

桐生龍次

プロローグ Reaper 01

 裏路地を歩く、見た目中学生くらいの少年。

 ニット帽を被り、眼を隠している。グレーのフードつきパーカーに、カラフルな短パン。やや派手なファッション。

 そんな少年が裏路地を歩くと、目の前には怖そうなお兄さんが三人。

 しかし少年は何を気にすることもなく歩き続ける。


 肩がぶつかった。

 いや、むしろ肩をぶつけられたと書く方が自然だろうか、明らかに相手は悪意を孕んでいる。


「おい、ぶつかってきてんじゃねぇよ」

 案の定過ぎる言葉テンプレート。少年は無視して歩こうとする。

「無視してんしゃねぇぞ!!」

 またもや定型文テンプレート、それと共に胸ぐらを掴まれる。

「てめぇ、ぶつかっておいてごめんも言えねぇのか? あぁん!」

 威圧する言葉。まるでどこかのドラマのようだ。

「…はぁ、すいませんでした」


 その刹那、少年は空を舞う。

 どうやらヤンキーは許さなかったようだ、アッパーカットを喰らってニット帽が外れる。

「『はぁ』じゃねーんだよ、普通に言えや!!」

「あれぇ~? こいつ、パーカーのフードがうさ耳だぜぇ~?」

 まさかのうさ耳パーカー。ハイセンスな服センスかと思いきやミスマッチか?

「なんでこいつはうさ耳なんだろうなぁ、なぁアツキ?」

 アツキと呼ばれた男は少年はフードを握ると、

「なぁウサちゃんよぉ、お前はこれでも被っていじめられるのがお似合いだせ? ハハハ」

 そう言えば、勢い良くフードを被せる。後ろの二人も笑いだす。


 フードを被せられた少年は、なにも喋らない。

「ウンともスンともいわないぜ? こいつ」

「殴られてなにも言えねぇんだろ、かわいそうになぁ?」

「悔しいならなんか言えよ、ウサちゃんよぉ!」

 ヒヒヒヒヒ、と気味の悪い声が響く。


「…あーあ」

 突然、少年が口を開く。

「あ? 何か言ったか?」

「僕のフードさ、被せちゃったね?」

「それがどうしたってんだよぉ?」

「なんだぁ? 泣き言かぁ?」

 チンピラたちはにやにやしながら少年を煽る。


「…泣き言、か。そっちが言っても知らないよ?」

「なんだと?」

 そう返した刹那。


 ゴキィ!ガキベキゴキ!!

 妙な音がきこえてくる。

 何かが折れるような、軋むような、割れるような音。

 それと共に… 少年は変化を起こしていた。


「な、なんだよお前…」

 少年は体が毛深くなっていく。骨格は代わり、体が不自然に変形していた。白色の毛はいつの間にか体を包んでいく。足は踵が浮き、足の指が5本から4本になっていた。そして耳はいつの間にか消え、鼻が異常に突き出し、そこから長い白い毛が伸びている。

「ほーんとさ、喧嘩を売る相手を間違えたよね?」

 少年…いや、化物がフードを外すと、フードのうさ耳があったそこに、が生えていた。


 少年は、兎人ウェアラビットになっていた。


「う…うわぁあぁあぁあぁあぁ!!」

「化け物、化け物だぁ!!」

「はぁー? 化け物とは失礼な」

「だっ…だって、おまえ、ウサギの化け物じゃねぇか!!」

「これはライカンになった宿命なんだよ、仕方ないだろ?」

「ライカンってなんだよ…?」

「あー… これ言ってもわかるわけ無いか。とりあえず、僕にも名前はあるんだけどねえ」


 そして兎人は冷静に言う。

「僕は卯花優希うのばなゆうき。君らにはここで死んでもらうよ、それが仕事だからね」

「死んで…もらう…?」

 突然の死刑宣告。訳がわからないのは当然である。

「なーんていうかさ、君たち、相当の恨みを買ったみたいだね? 僕らのもとに依頼人が来る程なんて、さ」

「な、何のことだよ」

「依頼人がさ、君たちのことを『殺してほしい』んだってさ。君たちが何をしでかしたかは僕らは知ったこっちゃない。僕らは仕事をこなすだけだ」


 アツキと呼ばれる男は竦み上がった。もう一人は動くことができない。

「…ってことで、死んでもらうよ?」


「…何フザケたことほざいてやがるぅぅぅ!!」

 いつの間にか、三人のうち一人が鉄パイプを持って兎人の後ろに迫る。

「これでも… くらえやあぁぁぁ!!」

 鉄パイプは振られた。

 しかし、それは空を切る。

「は…?」

 狙いは正確だった。絶対に外れるわけがなかった。ならば、なぜ…。

「遅すぎだよ、兎のスピードに叶うと思ってんの?」

 そういったその瞬間、


男は首を90°折られて床に崩れていた。

「うっ… うわあああああああ!!」

「ユズルーーー!!」

「全く、ギャアギャアうるさいな…」

 少年は二人を見据える。

「ほら、来なよ。君が言うウサちゃんの本気ってやつ、見せてあげるよ」

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