第57話 投下する姿勢

最近、趣味で粉を捏ねている。肉まんにはじまりパンに続き、うどんを経て今度は蘭州拉麺でも作ろうかと思っているところだ。鹹水さえ見つかれば。

そんな(粉)捏ねリストの私が、たまたま隣町へ行った時に「肉まんづくり講座」を発見した。勿論速攻で応募した。

先日の断捨離でエプロンを発掘できたマダムも一緒だ。


私とマダム以外アラ還(アラウンド還暦)のメンバーで始まった講座は、講師についた店主が非常にキレッキレな名言を連発していた。


「商売あがったりになるので私よりうまく作らないでください。」

「肉まんの皮はレシピを差し上げますが、中の肉は企業秘密です。自分で頑張ってください。」

「家に帰って具とか自分でアレンジして作って上手くできたらぜひ私に教えてください。パクって売りますので。」


など、歯に衣着せぬ正直でストレートな発言に思わず胸が熱くなった。

この誰でも記者時代に炎上を恐れずに燃料を投下する姿勢、無双すぎる…。

そこに痺れはしたが憧れはできなかった。


そういえば記者といえば、ふと横をみると地元のコミュニティ新聞の取材に来た人がそっと名言メモを取っていた。数日後の号に載るそうだ。どうなってるか気になる。

記者から「参加メンバーの感想を…」ということで、参加者内で一番年下だった私に白羽の矢が立った。年齢住所氏名を聞く昔ながらの取材スタイルだったので、ダチョウ倶楽部のような譲り合いの心で華麗に回避した。


狭い町だけど、まだ隣の晩ご飯は知らない仲のままでいたい。


取材が終わり、少し崩れながらもなんとか肉まんを作り終えお開きの時間になった。

「人数いないと講座無くなっちゃうんでまた来てくださいね!リピーター待ってます!」と店主は、まるでツンデレがオバちゃんにクラスチェンジしたかのようなセリフを言いながらお土産に講座で作った饅頭をいっぱい持たせてくれた。


肉まん、あんまん、イモまん、ソーセージまんと4種類も作り、1種類につき5個づつ程度作ったので、蒸しあがった後の量はすごいことになっていた。

お土産付とは書いてあったが、これを全部持ち帰るのかと思うとお店の太っ腹ぶりに感謝するのと同時に、焦りが出た。

1人20個の肉まんを「あなたの分よ」と渡されるのだ。

ちなみにマダムは横で食べて持ち帰る数をちょっと減らしていた。


持ち帰ったものは晩ご飯に出した。講座で勢いよく色々と投下する店主の姿勢を見習い、私も勢いよく持ち帰った肉まんを投下して蒸し鍋で再加熱することにした。


ただ、肉まん味のどろどろした何かが大量に錬成されただけだった。

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