第54話 刺青の海将の陰謀

 嘗て栄華を極めた南方属州の総督が暮らし、治世の中枢となった総督府。最盛期に建造された広大な邸宅はグラキエアで最も高地に位置し、その敷地も広大だ。


 通りに面した門を抜けると、そこは広い庭園である。島の奥地にある水源から汲まれた潤沢な真水がふんだんに使われ、青々とした芝地や花壇が配されているし、定期的に散水もしているのだろう。通る風も涼しい。


 邸内も天井が高く、床に敷かれたタイルは煌き、窓や戸口を覆う垂れ幕も深い紫に染められ、壁の白さを引き立てている。


 ヨン・レイは先導する役人に案内され邸内を歩きながら、それら絢爛な調度品の醸し出す古の繁栄のほどに思いを馳せた。


 一方で、ここは栄枯必衰を物語る南方属州衰退の象徴そのものだった。高い天井の隅には埃と蜘蛛の巣が薄っすら見える。床まで降ろされた脇の部屋の垂れ幕は暫く開いた様子がない。何より広さに対し、漂っている人の気配の希薄さがそれを物語っていた。


「こちらでございます」

「ありがとう」


 そこだけは常に手入れをしているのだろう、埃一つない垂れ幕で隠された戸口が開かれ、彼女は中へ入った。


 背中で垂れ幕が閉じたのを感じる。厚い布地は中の物音を吸い取ってしまうだろう。不吉な予感だった。


 中では経年を佩びて風合いを増した家具と、それに囲まれた長椅子に寛ぐ一人の男がいた。


「ようこそ、南方属州都グラキエアへ。私がラディケイン・ソロスだ」

「ヨン・レイ・ハジャールです。閣下、面会を許して下さりありがとうございます」


 恭しく頭を下げたこの大柄の旅人に、ラディケインは満足げに頷いた。


「キュレニックスからの紹介状は見た。聞けば戦傷が深く、この地で療養しようとのこと。元老院議員の紹介状を得られるほどの者とは、まったく人は見た目に寄らぬなぁ」


 指し示された長椅子に座ったヨン・レイはラディケインと長卓を挟んで正対した。


「キュレニックス閣下の恩寵には、誠にありがたい限りです」

「ふんむ。さもあろうな。さて、一献食事でも如何かな? お主から近々の本土での出来事など、聞きたいことが沢山あるのだ。何せここは帝都から遠い。耳も遠くなろうというもの」


「もちろん。話せる限りお話ししましょう」


 ラディケインは天井から釣り下がっていた綱を引いた。別室にいる部下へ連絡するものだろう。

 暫くして彼の部下たちが部屋へ現れた。彼らは皆、銀の大皿に盛られた料理を持っていて、それらはヨン・レイの前に次々に並べられた。


「酒も出させよう。なんでもあるぞ」

「では……干し葡萄酒に黒砂糖を入れて貰いましょう、あと、オリーブの塩漬けを」

「奇特な趣味だな。いいだろう」


 出された酒を、ヨン・レイは飲んだ。上質の酒、肴が目に見える卓の上を埋め尽くした。

 ラディケインは良くしゃべり、飲んでいるように見えた。だが普段からこれほどの料理を食べているのだろうか。出された量は二人で食べても余りあるほどだ。


 何より、出された料理の内容にヨン・レイは疑惑を持った。


「……それにしても」

「なんだね?」

「帝都から遠く離れたこの地で、純帝国式料理をこれほど御馳走になるとは、私も思いませんでした」


 出されたのは鱒や鱸、麦粒の粥、オーロックスや鶏の肉、それに葡萄酒や麦酒。

 昨日や一昨日口にした南海の料理は影も形もなかった。


「奇妙かね?」

「ラディケイン様はグラキエアに縁故のあるお方とお聞きしておりましたから」


 杯を干したラディケインは立ち上がり、窓辺から街の景色を見た。

 専用の溜め池を擁する庭、それを囲む塀、さらに遠景に広がるグラキエアの街並み、その外縁に港、そして粒のようにしか見えない海上の船影は一枚の絵だ。


「祖父の代まで、確かに私の一族はグラキエアに根を下ろしていた。祖父は廻船業者で、長く続いたギャセリックと帝国の戦争で財を築いた。本土に渡った祖父はその財力を背景に自身を元老院議員に選出させたのだ」


 元老院議員を選出した一族には直系の男子にのみ、議員資格の相続権が与えられる。そのため元老院議員の多くは子孫の繁栄のためにも、実子養子に関わらず早々に自身の後継者を指名する傾向にある。


 例えばキュレニックスは元老院議員であった伯父に養子縁組され、政争で敗れて失脚した後、議員の資格を相続している。アメンブルク王ウファーゴはこの帝国の仕組みを研究し、自身の王位継承権の序列を作ったという。


「私が生まれたのは帝都、育ったのも帝都だ。もちろん祖父の代からこの街の市民から支持はされているが、私自身、この地に思い入れがあるわけではない……」


「でも貴方には皇帝と市民のためにも、この地を治めていく義務があるのでしょう。土地の物を口にするくらい、ささやかなことでは?」


 土地の産物を、自分たちと同じように施政者が食べている。それだけでも住民の感情は違うはずだ。何より遠路はるばる海路でこれらの物資を運び込む費用は計り知れない。


「ふむ。キュレニックスの知己らしく政の弁も立つようだな? ハジャール殿。……なら、こう言い換えよう。私は、グラキエアが嫌いなのだ」


 振り返ってヨン・レイを見たラディケインの目は厳しく、冷たかった。それまでのどこか濁ったような目つきとは一変したものだった。


「祖父も父も、元老院で権勢を得るためにグラキエアの産物を利用した。特にカンバショウは贈答品として好まれ、私の生家には専用の倉があったほどだ。だがカンバショウは繊細な植物で、些細な傷から腐敗し、崩れてしまう。


 そこで父たちは、多数のカンバショウの実を運ばせ、その中で痛みの少ないものを選び出して供するという手段を取った。一方で、多量に運び込まれたその他のカンバショウは家族の食卓に出された。毎日毎日、腐りかけの果物を食わされたよ」


 胡乱な気配が室内に漂っていた。ヨン・レイは南方総督を視界の正面に据えながら、周囲に意識を払った。


 ラディケインは続けた。


「何より父は、自身が田舎から売り出しに来た成金と思われることを嫌った。事実そうであり、その田舎から持ってきた土産で名を売っていたにも関わらずだ。そんな両親から、私は生粋の帝国人として教育を受けた。それは厳しいものだったよ、逆らえば鞭で打たれ、真っ暗な倉の中で夜を明かされることも度々だった。


 腐り切ったカンバショウの発散する、むかむかするような甘ったるい臭いの中で、昼に食べたものを吐き、息を塞がれる。その度に私は、祖父や父に栄達の味を覚えさせたグラキエアという土地に憎しみを抱くこととなったのだ」


「だが、あんたもまたグラキエアとの縁がなければ何もできない男だった」


 立ち上がろうとしたヨン・レイだったが、出来なかった。

 椅子の背後から伸びた手が、彼女の両肩を強く掴んでいた。振り向くと間近に見えるのは兵士の勲に与えられる腕輪だ。


「閣下の演説を中断したら悪い。座ってな」

「紹介しよう。私の友人で、この地の守備隊長をしているゲールだ。彼もこの地には色々と物申すところがあってね。この地に来て以来意気投合したよ」


「穢れた肌の南海人に混じって生活するなんざ飽き飽きしてたのさ。こんなところに、もう八年もいるんだ。いい加減白い肌の女が恋しいってもんよ」


「ふふ、そうだな。私もそう思う。そこで私は考えた。この厄介な島そのものが帝国に属する限り、私はこの島との繋がりを絶つことは出来ないだろうと」


「それでギャセリックに島ごと売り渡そうとしてるのか? ご丁寧に港まで広げて」

「閣下、こいつ!」


 ゲールの手が肩にきつく食い込む。踏ん張りの効かない姿勢で抵抗できない。


「ゲール、止めろ。まだそいつには色々と聞かなきゃいけない。……どうやら、報告にあった嗅ぎまわっている男というのはお前で間違いなさそうだな」


 残念、男じゃないんだがな、と言いたかったが、口にはしなかった。それで舐められるのも嫌だったし、そんな余裕もなさそうだった。


「どうする?」

「イシドールに引き渡してしまえ。手荒な仕事は奴に任せてある。今頃地下室で遊んでいることだろう。加えてやれ」


「分かった。立ちな」


 立ち上がった。背中には鋭い切っ先が突きつけられていた。

 ラディケインは奥の部屋に続く垂れ幕を捲り、ヨン・レイを歩かせた。その先の部屋には何もなかった。ただ壁と床だけがあり、窓もない。


 ただ少し、壁に特徴があった。レリーフが彫られていたのだ。カンバショウ、船、港。グラキエアを象徴するレリーフだ。


 ラディケインが船のレリーフに手を掛けた。レリーフは奥に引き込まれ、同時に床のタイルに亀裂が走る。


 床には巧妙に隠された落とし戸があったのだ。急な階段が真っ暗な穴の中に続いている。


「入りな。楽しい所に招待してやるぜ」


 ヨン・レイはせっつかれ、足を踏み出す。その最中、ラディケインへ振り向いた。


「また会おう。ラディケイン閣下」

「御機嫌よう、ハジャール」



 らせん状に切られた階段はいつ果てるともない長いものだった。この建物が建てられた時からあるのだろう。空気は湿りを帯び、黴臭かった。


 やがて奥から何かの音が聞こえるようになった。水の跳ねる音、それに、男の悲鳴だ。

 徐々に光が見え、階段が終わった。

 むっと鼻に付いたのは、鮮血と生臭い爬虫類特有の臭いだ。

 並べられた明かり用の松明の中で、男たちが叫び、はしゃいでいる。二つの集団に分かれていて、一方は鉄製の檻に入れられ、垢じみた短衣に手枷を嵌められている。もう一方は木箱や樽に腰かけ、にやにやしながら檻の中と、波を消し始めている水面とを見比べている。


 そう、そこには水面があった。泥水で濁っていたが、空間の半分を占めており、小船が何艘か繋がれていた。物資を引き上げるための小型の起重機まで備え付けられている。水面の先は見えない。奥までは灯りが届いていなかった。


「ここが何だか分かるか、え? うすのろ」


 ゲールの卑しい物言いが癪に障る。

 ヨン・レイは周囲を一望して、淀みなく、格調高く、答えた。


「ここは総督府が建てられた時に作られた非常用の脱出口だ。物資の搬入路も兼ねているようだな。あの船で水上を行き、水路を抜けてどこか外へ繋がっているのだろう。だが、本来の機能は失われて久しいようだ。ふむ、なるほど。本当ならもっと大型の船を乗り付け出来るようになっていたが、何らかの理由で水路を通れなくなって、放棄された。それをあんたたちが今回の悪事のために利用している」


 その余りに堂々とした口ぶりに、誰かが大笑いした。

 檻の外の集団の一人だった。腹を抱えて笑っている。ちらりと見えたのは、ゲールと同じ勲の腕輪だ。ただし、着けているのは片腕だけだ。


「いやぁ、大した口ぶりだ。感心するよ。誰だ? そいつは」

「あんたの部下が報告してきた、例の旅人だよ。俺たちのことを色々嗅ぎまわっていたみたいだが、総督府にまで探りを入れに来たのが運の尽きだな」


「どうかな? ここから一発逆転といくかもしれないぞ」

「助けが来るとでも思ってるのか? 人足のガキなら逃げてったぜ」


 イグラーシ! だが、その口ぶりでは別に捕まったわけではないらしい。それならいい。一人の方がまだ勝機はある。


「……ま、巧いことやるさ。それで? そっちの紳士とはまだ自己紹介がまだだったんだが?」


 片腕輪の男が立ち上がった。腰に手を当てる姿は精悍なものだ。手足がすらりとして長く見える。顔には伸ばした二筋の髭が鼻の下から伸びていた。それが男の年齢を分かりずらいものにしていた。


「改めて名乗らせてもらおうか、半島の者よ。俺はイシドール。誇り高きギャセリックの将。太守の位を持っている」


 胸元に引き寄せた右の握り拳には、不可思議な刺青があった。


「昨晩は俺の部下を随分痛めつけてくれたな」

「毒塗りの短剣で刺そうとしなければ、もっと優しく対応していたさ」

「そうか。だがすぐに刺されていればよかったと後悔することになる」


 イシドールは顎で周りの男たち……恐らく部下であろう、彼らを指示した。

 部下は細い刃の付いた銛のような槍で檻の中の男たちを追い立て、そのうち一人を捕まえて檻から出した。別の者が起重機を動かして首を降ろさせると、そこから垂れた鎖を男に繋いだ


 起重機が動き、男は悲鳴を上げながら吊り上げられた。


「いやだぁ! やめてくれぇ!」

「おい、何をする気だ」

「食事の時間、と言ったところかな……やれ」


 頷いた部下が吊られた男を水面に向けて降ろす。

 盛大な水音を立てて落とされた男が悲鳴を上げて暴れる。手は枷で封じられ、鎖につながれた男は必死にもがく。もがかざるを得ない。


 その悲鳴は壁を響かせ、水路の奥へと伝えていった。やがて波打つ水面の下から巨大な影が複数浮かび上がってくる。


「ああ! いやだぁ!」

「やめろ! やめるんだ!」ヨン・レイは叫び、起重機に向けて走った。


 だが、同時にイシドールの部下の一人が走り、横合いからヨン・レイに体当たりした。それに触発さ

れ、イシドールの部下たちが次々に倒れたヨン・レイの上にのしかかる。


「くそ! 離せぇ!」

「はははは! よく見ろ。哀れな男の最後を」


 イシドールが高らかに宣言する。

 水面でもがく男に襲い掛かる、巨大な顎。人ひとり容易に飲み込んでしまえる口が開き、男を鎖からもぎ取った。ちらりと見えたのは、無数に並ぶ切り立った鋭い歯だ。


 断末魔だけが地下水路に反響しながら残った。高らかに笑うイシドールが起重機を戻させた。

 鎖の先が幾つか無くなっていた。鎖ごと引きちぎられているのだ。


「こ、れ、は……」圧迫され、息が続かない。ヨン・レイの意識は遠くなっていった。



 は! と気づいたのは、倒れている自分の顔面に海水をぶっかけられていたことである。


「目が覚めたかね? ミスター・ハジャール。いや、ミス・ハジャールかな? それともミせス?」

「男か女か、というなら女だよ。ミセス、っていうのが分からないな。あと、この鎖を解いてもらおうか」


「ミセスというのはギャセリックで既婚女性へ付ける尊称でね。それと悪いがその鎖は外さない。いいな?」


 ヨン・レイは自分の状況を理解した。気を失っているうちに檻の中の男たちのように手を戒められ、鎖を巻かれている。恐らくその時身体を検めたのだろう。


 遠巻きにイシドールの部下たちとゲールが見ている。


「ゲールと部下たちが、お前を化け物だと言っている。包帯の下の色は病気か? 口にある牙は? 突き出た鼻先は?」


「生憎と全て両親から受け継いだものだ。私は、オークだ」

「オーク?」「オークって何だ……?」


 部下たちが互いに見ながらざわつく。当然だろう。この地まで来たオークはヨン・レイただ一人である。


「ゲール、知ってるか?」

「レムレスカのずっと北に住んでる野蛮な巨人族だ。そいつがこともあろうに帝国貴族を名乗り、総督府に入り込むなど、あってはならないことだ。しかも元老院議員の紹介状を偽造している」


 ゲールが軽蔑と憎悪の籠った目でヨン・レイを見る。それが不快だった。それまでの人生を否定して掛かるような、悪意の目。


「誇り高いゲールよ。私は正真正銘帝国貴族だし、キュレニックス閣下の紹介状は本物だ」

「嘘つきめ!」


 つま先が鳩尾にめり込む。微かに呻き、むせた。


「そこまでにしておけゲール」

「……畜生。なんでこんな奴が」

「お前はお前の仕事をするんだな。先に行け」


 まだしばらくゲールはくすぶっていたものの、イシドールの言に従うらしい。イシドールの部下たちを連れ、小船に乗り込んだ。


 ヨン・レイの目についたのは、イシドールの部下たちが帝国兵士の恰好をしていることだ。

 部下たちは岸を離れ、松明を掲げながら水路の奥へと漕ぎ出し、見えなくなった。


「……拡張工事の現場を見張っていたのはお前たちだな」

「そうだ。遠目には帝国兵士に見えただろう? 兜を被っていれば顔かたちまでは見られないしな」


 残った小船に残りの部下たちが乗り込んでいく。そうすると、嫌に部屋が静かだった。

 静かなはずだ。檻の中にいた男たちがみな倒れている。


「もう少し時間を掛けたかったんだがな。この前も嗅ぎまわっていた男を始末したばかりで、今度はお前だ。ラディケインはぶつくさ言っていたが、作戦を切り上げることにしたよ」


「グラキエア乗っ取り計画か?」

「そんなところだ。もう間もなくこの島はギャセリックの物となる。俺は新たな版図を得た偉大な太守として本国で称賛されるだろう」


「そううまくいくかな。夜中でも港では船が出入りしてるんだ。街で何か異常があれば島伝いにでもすぐ本土に連絡がいくさ」


「そうなってもいいように、色々準備したのさ。兵士の一部と部下を入れ替えたのも、その一つさ」


 ヨン・レイと話しながら、イシドールは悠々と着替え始めた。あっという間に彼は帝国守備隊副隊長となった。


「ゲールの奴には反乱を起こしてもらう。総督と仲たがいした、という筋書きでな」

「それを副隊長に扮したあんたが討ち取るのか」

「まさか。俺はあと一歩の所まで奴を追い詰めるが、衆寡敵せず、総督を人質にされて逃げられてしまうのさ。その為に奴は密かに建造されていた軍船を乗っ取り、沖に出る。沖には既にギャセリックの水軍が待機していて、船を拿捕する手配になっている」


「後に残るのは、あんたに率いられた守備隊の生き残りが待つ無防備なグラキエア。なるほど、うまいやり方だ」


 そしてゲールとラディケインは『ギャセリックに捕まった不幸な捕虜』と見られる。まさか内応していたとは思われないだろう。


「あの二人には今回の功績でギャセリック本国での不自由ない暮らしが約束されている。本国の女は帝国の女よりも美しい。勿論、お前よりも」


「そりゃどうも」悪意を感じさせない言い方だけに、妙に悔しい。

「大将、そろそろ……」

「うむ。では御機嫌ようミス・ハジャール。運が良ければ死んだ頃に誰かに見つけて貰えるだろう。安らかに死にたければ、決して俺たちを追おうとするな。さっき見た通り、この水路には人食いの大鰐が住んでいる。船で静かに渡るならともかく、水を跳ね上げて泳ごうものならあっという間に見つかって、その体を啄まれてしまうだろうな」


 イシドールはその科白を残し、最後の小船に乗り込む。部下たちが長い竿で船を押し出し、白波も立てずに船が行く。


 その灯りはやがて水路の奥へと入り込み、見えなくなった。

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